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【クレヴ】
ルイゼンハルトに着いてから、1日が過ぎた。
で、どういう訳か厳しいことに、たった1日という猶予しか俺とダバルには与えられず、朝っぱらから、訓練に参加させられる羽目となってしまっていた。
逃げようにも、現在寝泊まりしているのは騎士達の住む宿舎。
監視役を押し付けられたであろう若い男に、俺たちの部屋に入ってきて早々に、叩き起こされたのである。
それで、元々タンスの中に入っていた訓練着に着替えると、訓練所の隣――つまりはここから訓練所を挟んだところにある食堂に行って、量が非常に多い朝食をいただく。
ここでもやはり貴族と平民の差を見せつけられ、食事の豪華さもそうだが、場所まで指定席が決まっていた。
一丁前にテーブルクロスなんてものがひかれており、そこに座ろうものなら、俺がアスタールで喰らっていた体罰と比べ物にならないほど、痛めつけられるんだとか。
俺たち訓練生なんかは、騎士たちが来る前に飯をかきこむようにして食べ、食事を終えたらすぐに食堂から追い出されるようにして出る。
なんでも、平民の顔を見ながら食事をしたくない、という輩もいるらしく、その人のためにわざわざ早起きして飯を食べなきゃいけないんだそうだ。
それで、その貴族たちは俺たちが起きてから随分と経ってから、食堂へと入っていく。
平民の俺たちとは違い、色々おめかししたり、優雅に生きる者たちはゆったりと行動したいんだと。
このことは全部、俺達を起こしに来てくれた監視役の男――ツフネがぶっきらぼうに説明してくれた。
何でも、彼は俺たちが入る前までは新入りだったんだとか。
彼の短い紹介と注意事項を聞き終えた後、俺達に新入りの仕事について、早速説明が入る。
掃除全般から武器の手入れまで、ほとんどの雑用は新入りが率先して行い、やり切れなかったものは、訓練生がやらされるんだそうだ。
んで、ある程度手早くこなさないと、訓練生からもクレームが飛んできて、リンチが起きるかもしれないから気をつけろ、と彼からの優しい忠告をいただきました。
それまで騎士にあった誠実さのイメージが、完全に吹き飛んじまったよ。
アスタールの剣士育成所でもそうだったが、こうした徹底した上下関係があるっていうのが、嫌だ。
上は好き放題に振る舞えるが、下は奴隷のようにあくせくその上の人たちのために働く。
下の人が頑張っても、上の人はそれを当たり前のように受け取り、こちらのやる気を削いでいく。
んで、駄目なところを見つければ、喜喜として"しつけ"と称して、暴力を振るう。
そこで抵抗すればもっと痛めつけられ、そしてあちらが飽きるまで、こちらは無抵抗でいなければならない。
こんな話を聞いただけで、もう家に帰りたくなってきた。
そんなもんで根性がつく、とか精神論を振りかざしてきた人もいたけれど、その前に性根が腐って駄目になると、俺は思っている。
そうして、朝っぱらからダウナーな気持ちになりながら待つこと1時間弱。
訓練生は、訓練所の広大なスペースに整列した状態で待たされ、その中に騎士たちが悠々とやってくる。
「おぉー、ちゃんと待ってたか、見習い共」
騎士団の団長さんが、訓練生の俺たちに声をかけてくる。堂々とした態度、傷一つない綺麗な銀色のプレートアーマー。
そして背中には随分と長い赤のマントを下げている。
面長で、細い目を更に細めて、ニヤニヤとした顔をしており、いかにも小物臭がしてならない人だ。
まぁ、人は見た目にはよらない、という言葉を信じておこう。
「今日から新入りが入る。新入り、前に来い!」
その団長の隣にいる人――副団長からお声がかかる。
やはり団長と同じく、他の騎士にはない装飾を施した鎧を着ているのだが、随分と男前だからか、よく似合っているように見えた。
金色の短髪に、筋骨隆々とした身体つき。さっきの団長よりも、カリスマ性を感じさせるような風格。
それが俺が感じた、彼の第一印象だ。
「どうした? 早く出て来いよぉ?」
に比べて、随分と嫌味な台詞が似合うなぁ、この団長は。
仕方なく早歩きだったのを、少し小走りにして、訓練生が並んでいる前へと出ることにした。
「本日からお前たちの仲間になる、ダバルとクレヴだ」
名前だけしか言わない、ごく簡潔な紹介を終えると、すぐに元の並んでいた場所に引き返される。
新入りは、どこであろうと一番後ろに並ばされるらしい。
前の方が見えにくいが、その分、前にいる彼らの目を気にしなくていいと考えるといいポジションかもしれない。
「……なんだあの長髪? 女みたいに髪伸ばしてんじゃねぇよ」
「……あの黒髪、完全に職選び間違ってんぜ。あの顔は貧民区でチンピラの方が似合ってんだろ」
戻る途中に、陰口が聞こえる。まぁ、全然小さくもないので、俺たちに聞かせるために言っているんだろうけれど。
そっと横目で発言している奴を確認すると、どうやら貴族の訓練生っぽい。俺達と同じく地味な訓練着を着ているのだが、胸当てや靴が違う。
胸当ては、俺たちなんかは革製――つまりはレザーなんだけど、貴族の人たちは白銀製のものを使用しているのがわかる。
また、俺たちが薄汚れている革の靴に対して、貴族っぽい奴らは脛当てまで備わっている白銀製のを履いているのがわかる。
足首の辺りには機動性を考えているのか、その部分だけは何重にも折れ重なって出来ているようだった。
しかも、土汚れなんかもしっかりと落としてあって、手入れをされているみたいである。
……これ、訓練が終わった後に、俺たちに手入れしとけ、なんて言われないよな?
望みは薄そうではあるが、言われないことを祈っておこう。
俺達、新人見習いの軽い紹介が終わったところで、副団長が次に今日の訓練メニューについて声を張り上げる。
なになに……? 今日は軽く、柔軟、ランニング、筋トレ、それが終わったら剣、槍、斧、鎚の素振り。
これを休憩を挟まずにやってもらうらしい。んで、昼食休憩を挟んだ後に、武器を持っての、1対1の稽古だそうだ。
さぁて、初日なんで、張り切ってやらせてもらいましょうかね。
時間というものは、意識していなければ早く過ぎ、意識しているとこれでもか、ってくらいに遅く感じる。
訓練を受けている時はそれはもう、早く感じてしまった。休む暇も、考える暇もなく、ただ身体を動かし続けていた気がする。
ランニングは、常に8割の力をキープしたまま、走らされた。
騎士たちは、俺たちの後ろをチンタラと走っており、その騎士たちに抜かれた人は筋トレのメニューが加算されていくという、ハードなもの。
抜かれないようにと一生懸命に走るのだが、ここで貴族たちの汚い面が出るもので、周回遅れになった騎士を抜いた瞬間に、その騎士が急にスピードを上げるのだ。
その場合で抜かれても、筋トレのメニューは追加されるっていうんだから酷い。
ランニングには時間が設けられているのだが、後半になってくると、前半に調子に乗って走ってきたツケが回ってきて、キツイキツイ。
それを見計らって、騎士たちがペースアップするんだから、余計にタチが悪かった。
まぁ、騎士たちは俺たち訓練生とは違って、鎧を着込んでいるから、あまりスピードが出ないのだけど、やはりそこは鍛えられた人たちだ。
後半になってペースが落ちてきた人は、平然と抜かしていってしまっていた。
賢い訓練生の人たちは前半を騎士たちに抜かれないぐらいの、ゆったりとしたスピードで走り、後半にその余った体力を使う。
なんてやり方をしており、やはりこういうところでもズルイ奴が有利なんだなぁ、と学んだ。
結局、要領もわからない新入りの俺とダバルは騎士たちに10回以上抜かれてしまい、筋トレの量が他の人の何倍にも膨れ上がってしまうことになってしまった。
そのランニングが終わったら、時間をあけずに筋トレが始まる。
騎士たちは鎧を着ているから、といった理由で訓練生の4分の1の数をさっさとこなして、休憩に入る。
んで、その休憩場所というのが……生意気な訓練生だったりするわけだ。
元々負荷が足りないということで、身体には重りをつけて腕立て伏せなどをやっているのだが、そこに騎士たちが背中に座ってくるのだ。
「余裕そうだねぇ、んじゃ優しい俺が手伝ってあげよう」
と白々しい声を出しながら、腰を下ろしてくるのである。
普通に乗っかるだけならまだしも、途中ふざけるのが好きなのか、身体の上で跳ねてみたり、座るのが飽きたから、ということで足を乗せて背中をグリグリとしてきたり、と何だか被虐趣味の人が大喜びしそうなことをしてくれました。
俺たちの頑張りが、どうやら彼らには新入りが調子に乗っていると判断されたらしく、わざわざローテーションしてまでいびり倒す始末。
他の人が注意してくれないのか、とは思ったが、先に筋トレが終わった人は、全員が終わるまでは実質休憩みたいなものだ。
だから、俺たちを助けようとする者は、いない。
むしろ、もっと長引いて欲しいと思っている奴らもいるようだった。
長い長い筋トレが終わったら、ようやく騎士らしく武器を手に取り、素振りを開始。
やはり武器に慣れておかなければ、実践では役に立たないということで、ちゃんとした本物で素振りをさせられた。
もちろん、俺たちみたいな新入りにも、古いものではあったが、ちゃんとした武器を手渡されたのは、意外であったが。
まずは剣から。縦に振り下ろし、振り上げ、横薙ぎ、そして突きを何セットか繰り返す。
やはり、というべきか、ここにいる人たちは相応な実力者なので、剣を振っているのが様になっており、むしろあれほど凄い腕前を持っていると思っていたダバルが、下手に見えたくらいだった。
……俺の場合は、剣の才能が一かけらもないからか、棒をただ振っているだけの感覚。
それを見た貴族様たちには大ウケだったが、平民の人たちからは呆れを通り越して、「なんでここにいるんだ?」、という疑問を植え付けさせてしまった。
ここまで酷いのだから、途中で訓練所を追い出されるかなぁ、と思っていたのだが、騎士たちは俺を冷やかすだけで、そのままメニューは続行される。
剣の次は槍、斧、鎚と続いたのだが、ここは正式な騎士以外の人たちなんかは、俺とあまり遜色がないように思えた。
決まった型などもないらしく、取りあえず扱えるようにはしておくように、ということらしい。
まぁ才能というのは、どこに埋まっているかわからないらしく、剣よりも槍の方が上手く扱えた、という例もあったから、このメニューを取りこんだんだとか。
ダバルは、剣以外はからっきしっぽく、慣れるまで時間がかかりそう。
んで、俺の方はというと、どれもイマイチで、剣よりはマシといった程度だろうか。
ただ、鎚の方はあの重い盾を振り回していただけあって、この武器の中から選ぶとしたら鎚かなぁ、という程度。
……ここまで長い回想をしてきたが、現在は昼食休憩中。
朝は平民の俺たちが早めに飯を済ませていたが、昼になると騎士たちや貴族の方が先に昼食を食べることになっているらしい。
食べ終わるまでは、俺たち平民の訓練生は地べたへと座りこみ、出来るだけ疲れを癒しておくのだという。
「大丈夫だったかい?」
「大丈夫なわけないだろ、ツフネ君や」
誰も彼もが喋ることもせずにいたところで、ツフネがこちらに声をかけてきた。
足を投げ出したまま、動きたくない俺は顔だけをツフネに向ける。
「大した説明もしなくて、悪い」
「今更遅いって……後、謝るならダバルにも謝っておけよ」
「だってダバルって怖いじゃん……」
まぁ、初対面ならそうかもしれないな。今もダバルが寝転んでいるところには、誰も近寄ろうとしていなかった。
「んで、今まで言えなかったのは何? 言うと自分たちが辛くなっちゃうから? それとも言うと貴族の人たちにいびられるとか?」
彼は黙ったまま、俯いてしまう。何となしに言ってみたが、どうやら図星らしい。
「まぁ仕方ないよ、誰しも自分が可愛いって。だからそんなに落ち込むなよ」
出来るだけ優しげな声を出し、彼をはげましてやる。
「そうか、サンキューな」
彼は謝りたいだけだったのか、すぐに俺から離れた場所に腰を下ろし、目を瞑ってしまう。
まぁ、ここには味方らしい味方がいないってことがわかっただけでも、充分な収穫かもしれない。
ということは、気合を入れて頑張ろうにも、それができない環境にあるってことでもある。
出る杭は打たれるってのとは少し違うかもしれないが、目立てばすぐに貴族に潰される世界なんだ。
田舎には、アスタールにはなかった世界。
厳しくて、理不尽で、上に立つ人間だけがおいしい汁を吸う世界。そんな世界を、垣間見たような、そんな感じがした。
……といってもまだ一日すら経っていないのに、大げさか。偏見は良くないな。
「おーい、新入りぃ! さっさと靴磨きに来いよぉ!」
げらげらと汚い笑い声と共に、そんな声が飛んできた。
「お呼びだぞ、ダバル!」
「お前もっすよ……」
重い腰を持ち上げて、食堂の方へと小走りで向かう。
「……俺は挫けないからな」
小さな独り言。
決意だ。
あの時、自分が弱いと何度も後悔してから、思ってきたことだ。せっかく、強くなれるチャンスが目の前に転がってきているのである。
――たとえそれが、反吐が出そうな環境だとしても。
我慢だ、我慢。
これぐらい、あの時の何もできなかった悔しさに比べれば、何てことは無いはずだ。
さっさと済ませて、休憩に戻ろう。
【リアナ】
ルイゼンハルトの魔法学校には、アスタールとは違い、座学というものが圧倒的に少ない。
というのも、やはり実戦で使えなければ宝も持ち腐れ、というのが、ここの国の考えらしく、魔法を学ばせる、というよりかは、魔法の使える戦士に育てる、と言った方が近いのかもしれない。
どこの役職ともわからない教師に学校内部の案内を受けてから、リアナとルシル、そしてフィリーネはそれぞれ専攻する授業を選ばされることとなった。
「それはいくつでもいいんですわよね?」
先ほど横切った女生徒の口調をトレースし、リアナは説明をしてくれた教師に向かって質問を投げかける。
「はい、といっても時間の都合もございますから、普通は一つ、多くとも三つまででしょうね」
彼女の説明からすれば、ここは専門分野を一つに絞り、そこを究めろ、というものらしい。
ここではアスタールで習った基本属性――火、水、風、地、雷、の5属性の応用、その5属性の複合、より正確性を引き出すために、計算を用いた補助魔法、そしてゴーレムの操縦なんてものも、あった。
話によると、そのゴーレムはどうやら地の魔法を利用し、そのゴーレムを操るのだという話を聞き、リアナはそっと笑みを深める。
――どうやら、私の知っているゴーレムの技術とは違ったものらしい。
ゴーレムについて興味を持ったリアナは早速、その教師に、ゴーレムの授業と、後は適当に希望を出す。
が、どうやらここにも"適性"というものが必要らしく、しばらく準備がかかると聞き、少し苦笑いを浮かべた。
「(待ち遠しいな……)」
他の二人は「何にしようか?」、と楽しげに会話を進めているものの、ちっとも授業が決まる気配が見当たらない。
「退屈だなぁ……」
――そう言えば、クレヴの方はどうなっているのだろう。
ルイゼンハルトに来る前に、彼女はクレヴの手紙の内容に、笑い転げてしまったが、実は少し残念に思っていた。
クレヴは、魔法学校ではなく、肉体派でむさ苦しい騎士たちの訓練所に推薦されていたのである。
彼に無茶な提案を振って、その反応を楽しむことができなくなってしまったのもそうだが、召喚魔法だけでこのエリートたちに囲まれた魔法学校で頑張っていく姿も、彼女は見たかったのだ。
彼は表面上では、色々と面倒くさそうにはしているものの、実は努力家だということを、リアナは知っている。
ちょっとしたことで心が折れやすく、一旦は諦めようとはするものの、結局は諦めきれずに頑張ってしまう。
ルイゼンハルトの魔法学校は実践向けだということもあり、絶対とは言えないが、生徒同士で魔法を使って戦闘訓練を行うこともある。
特にこの魔法学校を通っている生徒たちは皆、プライドも高そうに見え、クレヴや彼の従えているスライムを馬鹿にするであろうと、リアナには簡単に想像出来てしまう。
そこに彼がスライムを馬鹿にされたことを怒り、無謀な勝負を挑む――なんていう夢物語をリアナは夢想してしまったが、それが叶わないと知ると、残念な気持ちが彼女の心を満たした。
今日は準備だけ、ということで教師はそれだけを伝えると、さっさといなくなってしまう。
リアナが想像の世界に浸っている間に、ルシルやフィリーネの授業も決まっていたようであった。
「ねぇ、リアナ?」
魔法学校を出たところで、ルシルがリアナの名前を呼ぶ。
「なんだい?」
ルシルの方から話しかけてくるとは珍しい、と思いつつ、リアナはルシルに顔を向ける。
頬が少々痙攣したかのように動いている様子から、リアナに声をかけるのは、不本意であることが見て取れた。
「一緒に買い物に行きませんか、ってことなんだけど……」
暫しの間、リアナがルシルと睨み合いになっていると、彼女たちへフィリーネが割り込む。
普段からモジモジとした態度を取っている彼女だが、戦闘のこととなると、性格が豹変する程の戦闘狂である。
が、しかしルシルにはクレヴからその情報を知っているとはいえ、彼女の身長も相まってか、目の前の震えている小動物がそこまでの豹変を見せるとは思えない。
「何で私を誘うんだい? 私はそんな腹黒な君と買い物に行きたくないんだが?」
「私だってそうよ! それにいっつも嘲笑しているアンタに言われたくないっての。そっくりそのまま言葉を返すよ、この腹黒女!」
「おやおや、人の真似しかできないのかい、君は? そんなの、鳥類にだって出来るさ。……あぁ、自分で鳥類ほどの知能しか持ってないとわざわざ私の前で証明してくれているのか」
「よくもまぁ、そんなにこじ付けられるものね、アンタって奴は……!!」
ルシルの返ってくる反応に、面白がってついついからかうリアナ。
普段は、他人には素を隠そうと必死になっていて、とっても可愛く感じたのである。
それをおちょくって、なんとか本音を引き出せないかなぁ、と遊んでいたところ、ルシルはリアナの予想以上に引っ掛かってくれていた。
――たぶん、ルシルは根は正直なのかもしれない。だから、からかいがいが、あるってものだ。
「もー、ルシルちゃん。本当ならこっちからお願いする立場なんだからぁ。ね? 一旦抑えて抑えて」
フィリーネの言葉に、ルシルが数歩ほど後ろに下がると、落ち着いた表情へと変わる。
「(ちっ、もうおしまいか)」
「ちょっとね、聞きたいことがあるの。だから、ちょっと付き合ってくれない?」
「人にものを頼む態度ってこんなんだっけ?」
挑発するような態度を取るリアナに、可愛らしい童顔から血管が浮かぶルシル。
が、手が出そうになるのを何とか抑え、ルシルは喉から怒りに震えた声を捻り出す。
「くっ……わかった、わかりました。お願いします、聞きたいことがあるので、どうか買い物か何か付き合ってくれませんか……?」
「よろしい、いいだろう」
リアナが尊大にそう返すと、ルシルは悔しそうに歯噛みする。
それを見て、リアナはニヤリとルシルの悔しさを助長させるような笑みを浮かべるのだった。
リアナは彼女らに、どこにでもありそうな小さな喫茶店へと連れられる。
内装やメニューを見るに、どこか女の子受けがよさそうな感じがするところで、実際、店内には女性客がほとんどで男性客はごく僅か。
店員はフリルのついたスカートとエプロンが特徴的で、皆明るい笑みを浮かべて働いていた。
今は生憎、昼過ぎだということで、店内のテーブル席もカウンター席も満席だということもあり、屋外に設置してあるテーブルへと彼女たちは案内される。
席についてから、リアナは上を見てみると、ちゃんと屋根がついており、日が斜めに入ってこなければ、直接差し込むってことはなさそうだ。
別に天気が悪い、というわけでもないので、別に気にならない。むしろ、外で飲むというのは新鮮でいいのかもしれない。
三人そろって、適当に紅茶を注文をし終わると、ルシルが口を開く。
「アンタってさ、モテるでしょ?」
「いきなり何なんだい?」
話を切り出したルシルから、聞き出した話は簡潔に纏めると、こういった内容を纏めると。
道で偶然出会った男に、一目惚れをしてしまったらしい。
名前は、ジェフ・グリスター。騎士をやっており、身分は貴族。
それでリアナに何故相談してきたか、といえと、アスタールにいた時、彼女を取り巻いていた人の中に貴族の男がいたんだという。
その時、リアナはその男を上手く扱っていたらしく、それをどうやらルシルは男の扱い、それも貴族男性の扱いが上手いと勘違いしてしまったらしい。
別にリアナは、育ちの良さそうな女の口調をトレースしていただけであり、特に意識してやっていたことでは無い。
なので、上手いことルシルにアドバイスできる立場ではなかったのだが、リアナはルシルの協力に承諾した。
その理由としては、リアナはまだ人の色恋沙汰を知らず、興味を覚えたということと。
そのルシルが一目惚れした相手が、騎士であったからだ。
相手が騎士であるならば、その相手の情報を収集するついでにクレヴをからかいに行ける。
一石二鳥、というわけだ。
リアナは注文した紅茶のカップを手に取り、乾いた喉を潤す
と、今後のことを想像し、唇をつり上げる。
そして、それを見たルシルが馬鹿にされていると勘違いされ、怒りを買ったとは知らずに。




