19
「クレヴ君、僕の仲間になりませんか?」
「……?」
言っていることが分からなかった。
いや、言っている意味は、分かる。だが、レイオッド先生がどういう意図で言っているのか、理解出来ない。
「質問には答えてもらう、そういうルールですよ?」
「どうして、俺を?」
「質問に質問を返すのは困るんですけどね……。まぁ、納得していただけるなら、話しますけど」
いまだ首を傾げる俺に、先生は何がおかしいのか、楽しそうに笑い声を上げる。
「理由は、簡単ですよ。クレヴ君、君がモンスターを愛しているからですよ」
「……別に、そんなんでもないと思うんですが?」
これは、俺の本音だ。召喚魔法が使えるから、ある程度のモンスターの知識を知っているだけで、別に好きってほどじゃない。
愛なら、尚更である。
「いえ、今はそうではなくても、いずれそうなる可能性があると思いますよ。現に、スライムのことは大好きじゃないですか!」
「まぁ、そうですけど」
嬉しそうに言う先生に、ぶっきらぼうに答える。まぁ、それは概ね正しいからだ。
「だったら、他の、何なら召喚魔法が使える生徒にも言えることなんじゃないですか?」
「それは、違いますよ。別に召喚魔法が使えるとしても、モンスターを駒扱いする人は大多数です。
現にアスタールには、君以外にモンスターが好きな人なんて、いませんでしたよ」
「……それがもし、俺が先生の前でいい格好したかったから、ってだけで、そのスライムが好きだって見せかけているとしたら?」
「あぁ、それは無いです」
あっさりと先生が俺の言葉を否定する。
「どうして、言い切れるんです? 俺の心でも覗けるんですか?」
少し意地悪気味に言ってやったが、先生は笑顔を崩さずに、手を前へと突き出す。
そして、その掌に、淡い光が集まってくる――魔法を、使う気だ。
慌てて身構えようとするも、先生は残った手の方でひらひらと横に振って、攻撃する意思がないことを示してくる。
が、油断は出来ない。
背中に背負っていた盾を素早く前へと構え、魔法に備える。
ここは狭いから、大規模な魔法は、自分も巻き込む可能性があるために、使えないだろう。
なら、この盾でも充分に防げるはず。
まだか、まだかと身構えていると、ようやく先生の魔法が行使された。
「『召喚、スライム』」
「へ?」
が、詠唱されたのは、本当に俺に害意のあるものではなく、ただの召喚魔法だった。
それも、俺が良く知る、あのモンスターの召喚である。
光が弾けたのと共に、あの透けた緑色で流動性のある身体を持ったモンスターが、この場に呼び出された。
そして、その後も先生は召喚を繰り返すこと5回。
5体のスライムが先生の前に現れたところで、先生は俺の顔へと向き直った。
「さて、これに何か見覚えがありますか?」
5体のスライム。別に、これらのスライムは俺が普段訓練しているスライムたちと別の個体である。
5体、という数字なら、俺にも覚えがある。
が、先生が知らないはずのことだ。だって、俺はあのことを誰にも秘密にしていたのだから。
リアナにも、ルシルにも、そして先生にも話したことがないこと。
ふとした拍子に誰かに口を滑らしたことは絶対にない。
だとすれば、"彼"が自ら先生に話したことになるのだが、人に進んで話す内容では無い。
どちらかといえば、後ろめたいものだろう。
「身に覚えがないんですか? だったらヒントをあげましょう」
俺が悩んでいると、先生は人差し指を立てて、顔の傍に持ってくる。一つ目のヒント、とでも表現したいのだろうか。
「ヒントは――ナサニエル君、という名前」
「……それじゃ、もう答えみたいなものじゃないですか」
先生は"彼"――ナサニエルの名前を出してくるとすると、もうこれしかない。
「答えは、スライム質? という言葉で合っているかわかんないけど、脅しに使われてたヤツ、ですよね。なんで、知っているんです?」
「もう次の質問ですか? せっかちですね。別にこれは本人から直接聞いただけに過ぎませんよ。
君が、スライムを痛めつけられたくなかったら、無抵抗でやられるように、ナサニエル君に言われてた、とね」
別に、大したことでは無い。
いじめに抵抗する俺が気に食わなかったナサニエルが、手下共に俺のこと調べさせた結果、そうなったに過ぎない。
スライムが好きだった俺は、脆いスライムの代わりに、頑丈な俺が攻撃を受けただけ。
一応、約束を守ってくれる連中だったから、我慢していただけだ。
「だから、少し僕がお仕置きしてあげたんです」
「それは……」
思い出されるのは、さっきのこと。ダバルが、不意打ちを受けたところだ。
化け物には、個体ごとに顔が違う。それで、ダバルを襲った化け物になんだか見覚えがあったのだが。
……まさか。
「クレヴ君、今君が考えていることは、たぶん正解ですよ――さっき君の背後にいたあの化け物、実はナサニエル君と他数名なんですよ?」
ありえない、とまず思った。
どうやってこんなことをした、と思った。あんなこと、できるはずがないとも思った。
でも、本当にあった。
俺の知らないことなんて、いくらでもある。……それがたまたま、現実に起きただけだ。
人が、人じゃなくなる生物に改造をされていることが。
「君が教えてくれるなら、もっと早くできていたんですけどねぇ」
怖い。
口を開いていく度に、レイオッド先生のことが、どんどん怖くなってくる。
それも、不気味なあの改造された元人間よりも、もっと、ずっと。
「じゃあ、デイラネイラも……?」
「立て続けに聞くなんて、ルール違反ですよ。僕の質問に答えてくれないのに……、と言いたいところですが、気分がいいので、答えてあげましょう。答えは『はい』ですね」
「けど、デイラネイラは俺をいじめていたことなんて、なかった。
それに、あの化け物の数、あんなに俺をいじめていた人がいるなんて、思えない」
「あぁ、それは戦力として足りないから、造っただけに過ぎませんよ」
さらりと、とんでもないこと言いのけやがった。
別に、大したことを仕出かした、とも思っていない。罪悪感なんて、これっぽちも感じられない。
人としての、倫理観など先生には無いのだろう。
「まぁ、でもデイラネイラ君は違います。彼女が、望んだからそうしたまでですよ。
僕が『君を愛せない』と彼女の告白を何度断っても、彼女は何度も食い下がりました。
しまいには、『じゃあどんな私なら、愛してくれるんですか』とまでいきましたね。
だから僕は、『僕には人を愛せないんです』って答えたんですよ。で、彼女はどうしたと思います?」
「『だったら人じゃなくしてくれても構いません』、とかですか?」
「そう、だから僕は彼女の願いを聞いてあげただけに過ぎません。彼女を、人でない"何か"に変えてあげた。
けど、僕が好きなのは、モンスターなんですよ。"あんな化け物"愛せるわけがないんです」
何がおかしいのか、先生は腹を抱えて、笑い続ける。
こっちは、反吐でも出そうなくらいに、機嫌が悪くなっているというのに。
デイラネイラのことを、何とも思っていなかった俺だが、この時だけは彼女のことを可哀想だと感じた。
「じゃあ、先生。質問に答えます。答えはノーです」
「あらら、残念」
本当に残念そうな顔をする、レイオッド先生。人を人為らざる者へと改造し、その元人間に人間を殺させる人物がするような表情とは、思えなかった。
「俺を仲間にしたかったのは、理解者が欲しかったからですか?」
「えぇ、そうです」
「だったら、見当違いですね。俺は先生、あなたを理解出来ない。何もかも」
「そうですか」
レイオッド先生は、そのまま視線を下げると、スライムの方に手を差し伸べる。
まさか――
「何をする気ですかっ!!」
「別に、痛めつけるようなことはしませんよ。僕にモンスターを傷つける理由がないのですから」
そう言ってレイオッド先生は1体のスライムに触れると、再びその手に光を集めていく。
「『我、今をもって、汝の戒めを解き放たん』」
先生が、古めかしい言葉を紡ぐ。これは、契約魔法というものだ。
あの時――グローヴァインの時にやった契約魔法とは逆のもの、つまりは自らが魔法で定めたものを、解除するといったところか。
この魔法が成功すれば、このスライムは、召喚魔法という枷から解放される。
人の都合に振り回されること無く、自由に生きることが出来る。
先生の手を包んだ光が、スライムの身体をも包みこんでいく。そしてそれは一瞬のうちに、儚く弾ける。
どうやら、成功したようだ。
先生はそのまま間隔をあけずに、他のスライムにも契約魔法をかけていく。
次々に、魔法から解放されていくスライムたち。
……だが、この魔法が万能ではないことを、俺は知っている。
この魔法には、副作用、もとい呪いみたいなものが、付きまとうものだと、俺は知っている。
あれはいつの頃だろうか。確か、俺がスライムを好きになってから少ししてからだろうか。
『スライムたちを自分の都合で振り回すのはよくない』、と思い立ち、彼らの故郷であるルルヌフの森で、今の先生みたいに、契約魔法をかけてあげたのだ。
だけど、この魔法は、その時の俺の満足感しか、満たさなかった。
解放したのはいいが、途中で他のモンスターに襲われないか、心配になった俺は、しばらくの間そっとスライムたちのことを影で見守っていた。
そんな気持ちも裏腹に、スライムたちは襲われることなく、スライムの群れと遭遇した。
弱い者は群れを成す、とは言ったもので、スライムも大抵は群れを作って行動する。
稀に単体で行動する奴がいるが、そういう奴は他のスライムに比べて能力が高かったりして、1体でも生き残れるくらいの力を持ったヤツぐらいで、普通はこのように群れを作る。
そして、俺のスライムたちも、群れに加わることを、選んだみたいだった。
――が、しかし。群れを作ったスライムたちは、それを拒否した。
動物のように、鳴き声で意思疎通をするわけではないスライムたち。
どのようにして意思疎通を図ったのか知らないが、俺のスライムたちを置いて、どこかに行ってしまったのだ。
その間、残ったスライムたちはついていくこともせず、ただその場に留まった。
その時、俺は数ある書物の中の、こんな一文を思い出した。
『人が触れると、その動物には人の匂いが移ってしまう。そしてその匂いは、他の野生動物を敬遠させる』、と。
たぶん、書かれていた文章は、こんな感じではなかったと思うが、ニュアンスとしては正しかったと思う。
つまり、今の状況に当てはめてみると、俺の魔力が染みついていたせいか、他のスライムたちに敬遠されたと考えられるのだ。
その推測が正しいかどうかは、分からない。が、その時の俺には、そう考えることしか出来なかった。
そして、例えどんな理由であれ……俺が契約魔法をかけたスライムは、群れに見放されたのだ。
それから俺は、このスライムたちを大事にしようと思った。
たった10体しかいない仲間。増やすのも、他のスライムが可哀想だから、やめた。
弱いままだと、生き残れない。だから、俺は鍛えた。
住処も、親に内緒で牧場の一部で飼ってやることにした。
そして、今に繋がるのだが……先生は一体何がしたいのだろうか。
モンスター好きだというなら、俺の知っていることなら、当然知っているはずである。
先生が、モンスターを見捨てる、という選択は、考えづらい。先ほど、そのように言っていたのだから、余計に、だ。
「さて、やるべきことはしました。僕の仲間になった暁にはこのスライムたちを……、といきたいところなんですけどね」
先生がスライムたちに手を向けているところから、仲間になった報酬、みたいな形で俺にスライムの仲間を増やさせようとしたのだろうか。
「でも、君に任せようと思います」
「どうして、ですか?」
「約束、だったんでしょう。ナサニエル君との」
それだけ言って、先生はスライムたちに俺のところへと向かわせる。
魔法を解いたとはいえ、スライムたちは先生に懐いていたからか、素直に従っている。
「仲間は多い方がいい、そうですよね?」
先生に勧められるがまま、俺はスライムたちを見つめる。
確かに、このまま何もしなかったら、こいつらを見捨てることになる。
とはいえ、俺が見捨てたとしても、先生なら大事にしてくれそうな気もするのだが……。
悩んだ末に、俺は、こいつらを仲間にすることを選んだ。
確かに、俺のスライムたちにも、仲間が増えた方が嬉しいに違いないと思ったからだ。
果たして、そんな感情があるのか、俺には分からないけれど。
とにかく、そうすることにした。
一度、先生の方に目を向けると、彼は背中に腕を組んだ状態で待機しているようだった。
あれで、攻撃する意思がないことを、示しているようである。
まぁ、少なくとも、スライムたちがいる間は、攻撃される心配はなさそうだった。
「『我、汝を求めん。故に汝、我に従え』」
懐かしく感じる、この言葉。紡がれた詠唱によって、俺の掌から光が生み出されていく。
スライムたちは、そんな光に逆らうこともなく、ただ包まれていく。
そして、その光は、弾け飛ぶ。
「これを、後4回もか……」
正直、かったるい。それに、こんなゆっくりしているのも、もどかしい。
「僕はいくらでも待ちますよ。君が、待っていてくれたみたいに」
先生の方は、あれから直立不動で動いていない様子。本当に、俺がスライムたちに契約魔法が終わるまでは何もするつもりはないようだ。
「そういえば……」
試したことはないが、"一つ目"と"二つ目"を、これにも応用できないだろうか?
戻喚魔法の方も、召喚の逆のギミックをしていたせいか、少し工夫すれば、成功したのだ。
だったらこれも……もしかすると。
目を閉じて、イメージを膨らませる。
掌に魔力を集中させ、それをスライムたちに包みこんでいくように。
『我、汝を求めん。故に汝、我に従え』
そう頭の中で念じ続け、スライムのイメージをそれに付加させていく。
いけ!
そうして、ゆっくりと目を開けたのだが……駄目だった。全く手ごたえが感じられない。
というより、そもそも魔法が発動しなかったのである。
やはり、この魔法陣は、召喚魔法限定、と考えるべきなのだろう。無駄な時間を、過ごしてしまった。
それから俺は、詠唱を4回ほど繰り返した後、彼らを戻喚魔法で牧場にあるスライムの飼育スペースに、移動させた。
戻喚魔法だから、先生の飼っていたところに戻るはずでは?、という疑問が浮かぶだろうか。
まぁ、それは先ほど契約魔法で解除してしまったために、その場所は魔法と共に"定め"から外されてしまったのだろう。
さて、召喚魔法とは一体なんなのか。他の魔法に比べて何かギミックが違うと気付いただろうか。
教えられたことをただ飲み込むだけじゃ、芸がないと思った俺は、自分なりに召喚魔法について噛み砕いてみたことがある。
召喚魔法の仕組み。これは、ある地点Aにあるモンスターを、召喚魔法を使った人がいる地点Bに呼び出すといったもの。
ただし、それは通常ならそこに行くまでに、地点Cという障害物や、そこに至るまでの距離が存在するのだが、召喚魔法は、それを一切無視してそこに呼び出すということになる。
何故そうなるのか、と不思議に思う点があるのだが、実際に起きているのだからと今は納得するしかできない。魔法とは、大概がそんなものだ。
話を戻す。
召喚魔法は、そんな移動するのに存在する距離を無視して、そこに呼び出すというわけなのだが、どこにでも呼び出せるか、というと、それは『イエス』ということになるだろう。
この街から離れたことはないからわからないが、アスタールの、サラナ村から一番離れた場所で召喚魔法を使用したところ、普通に成功。
ただ、若干消費、もとい魔法による代償とされる魔力が大きくなった。
つまり、距離に比例して、召喚魔法に使われる魔力が大きくなっていくのだろう。
後、呼び出されるモンスターが呼応されなければ、この召喚魔法は成功しない。
呼び出す方に、応えないと、成功しないのだ。
まぁ、大体はあの契約魔法で従うようになっているので、それでも素直じゃなく、呼び出されないモンスターというのも、あまり存在しないので、そういうのはレアなケースだとはされているのだが。
それゆえに、モンスター以外、特に生き物でない物質なんかを召喚することも出来ない。
また、魔法というのは曖昧なものだ。
召喚したい場所に、モンスターが召喚されない時も、ある。
それは大体、練度が足りないとかなので、繰り返し練習して慣れでどうにかなる部分もある。
「終わりましたか?」
さて、俺がこんな召喚魔法について頭の中で復習しているのには、理由がある。
まぁ、単純にスライムたちを召喚するかどうか、悩んでいるからだ。
「えぇ、一応」
先生は、俺に仲間にならないか、と交渉を持ちかけてきたところに、俺は断ってしまった。
大概、こうしたパターンは、戦闘という形で収束される、というのがセオリーな気がするのだ。
が、そうは考えてはいるものの、先ほどの契約魔法によって俺の魔力はもうスッカラカンになってしまった。
あの魔法は結構消費が激しいんで、一旦サラナ村に帰ってスパンを空けていなければ、もはや契約魔法すら出来なかったに違いない。
今更気がついたが、俺って魔力の回復が早い気がする。
まぁ、普段はここまで酷使していることもないし、常に意識しているとか、自分の力を把握する努力なんて軽くしかしてないから、分からないもの当然と言えば当然だろう。
とはいえ、使える魔法が召喚魔法関係のみってのが、宝の持ち腐れみたいに思えるけれど。
「もう一度聞きますが、本当に僕の仲間になってくれないんですね?」
「はい」
「本当に、残念です」
そう言って先生は、俺の方に、ではなく窓の方へと歩き出す。
一体何をする気なんだろうか、と思ったところで、先生が顔だけこちらに向けてくる。
「随分と"あれ"の数が減ってしまったみたいですねぇ」
先生の言う、"あれ"というのは、例の化け物のことだろう。もはや名前も考えていない辺り、捨て駒同然のように考えているのかもしれない。
本当に、モンスター以外には興味を示さない人、という印象は間違いではないようだ。
「しかも、街の方も思った以上に事が進んでませんし、僕としても更なる手札を切らざるを得なくなりました」
「……それは俺に言っているんですか? それとも大きな独り言ですか?」
「前者ですよ。君が、心変わりしてくれないかなぁ、って思いまして」
「人の心なんて、簡単に変わらないんですよ、面倒なことに」
冷静を装ってはいるけれど、先生の起こした騒動がまだ終わりではないことに、心の中ではパニック状態だ。
まだ、あるのか。
あの化け物の数が、まだあるのか。それとも、他の手があるのか。もしくは、ただのハッタリなのか。
……自分で考えておいては何だが、俺なんかにハッタリをかます理由はなさそうだ。
だったら、一体何なんだ……?
先生は俺に向けていた顔を再び窓の方へと戻すと、両手を窓の方へと突き出す。
突き出した掌に、光が集まりだす――魔法だ。
が、俺に向かってではない。どういうことだ?
俺に対しての直接攻撃ではない。ハッタリという線は、完全に消え去った様子。
だったら、何をする気なんだ。
一番考えられる可能性としては、召喚魔法でモンスターを召喚といったところか。
先生の優秀な分野ではあるし、それに彼は無類のモンスター好き。何が飛び出すか、俺には想像できない。
――が、集中を乱してしまえば、関係ない!
集中を始めたレイオッド先生に向けて突貫。
ここでぼーっとしていても、状況は良くなるどころか、逆に悪くなってしまうと考えなくてもわかる。
「先に謝っておきます。すいま、せん!!」
走る勢いを乗せた右ストレート。狙いは……先生の無駄に綺麗な顔面――
「謝る必要は、ないですよ」
――に行く前に、俺と先生の間にあの化け物が瞬時に現れる。
……やっぱり、伏せていやがったか!
いきなりのことだったので、俺は走る勢いそのままに、前へと突っ込む。
ヤケクソで、どうせ止まれないなら、せめて化け物に一撃を、と思ったのだが。
「……くそっ」
化け物の四本の掌に、あっさりと拳の勢いを殺されてしまった。
が、このままボヤボヤしている暇もない。
俺は右の拳を一旦開き、掌底でもう一度あの四つ重なった化け物の掌へと打ち込み、その勢いを利用して後ろへと距離を取る。
「「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」」
化け物から追撃でももらうかと思ったら、ヤツは鳴き声をあげるだけという拍子抜けの行動を取る。
どうやら、先生から何か指示を受けているのだろう。あの容貌の割に、忠誠心がお高いようだ。
そうして、俺が化け物に手を拱いている間に、先生の準備が整ってしまったようだ。
化け物の影から先生の姿が見えるが、召喚魔法であれほどまでの光を発しているのは、見たことがない。
ここまで来てしまえば、後はこれを見送ることしか、俺には出来ない。せいぜい他に出来ることと言えば、最悪にならないことを祈るのみ。
が、こういう時は大体いい方向には転ばないことが多い。
前にも思ったが、悪い予感というのは、良く当たるものだ。
今回も、その例には洩れなかった。
「『召喚、グルタウロス』」




