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スライムの召喚魔導師  作者: じぱんぐ
アスタール
22/136

18

「あーあ」

 

 笑みをパッタリと止めて。

 レイオッド先生から発せられた声は、いつもの、優しい声、ではなく。

 それは何かにガッカリとしたような感じだった。

 落胆、というほど、落ち込んだ様子は見られない。子供が悪戯に失敗したような、そんな軽さが感じられる。

 でも、どうして……?

 

「先生、どうかしました?」


 先生の様子が変だと思ったからか、ルシルが先生の肩に触れる。彼女の顔が、不安そうに歪む。


「あは、ふふふ」


 すると、どうしたことかレイオッド先生は、また笑い始める。

 その先生の態度に、驚いたルシルは先生と距離を置き、後ろに数歩、フィリーネさんの隣にまで下がってしまう。

 そこで、興味なさそうにしていたフィリーネさんも、先生の異変に気が付いたのか、少し身構えた。 

 

 先生は、こんな事態だから、狂ってしまわれたのだろうか? こんなに打たれ弱い人、だったっけ?

 先生はモンスターが、好きなはずだ。危害を加えるのが例外だったとかか?

 仲良くしていた人、好きだった人が化け物によって殺されたからなのか。

 俺たちと出会って、抑えていた感情が(あふ)れ出てきてしまったのだろうか。


 混乱。錯乱。

 頭の中が、パニックだ。

 本日、何回目の混乱だろうか。今日は考えても考えても、分からないことが頻繁に起こりやがる。

 

 こうしたことが何回も起きたのだから、頭も慣れてほしいものなのだが、なかなか慣れそうにも無さそうだった。


「――ふぅ」


 一頻(ひとしき)りレイオッド先生が笑い終えた後、ようやくいつもの表情に戻る。


――が、その時の先生の顔は表面上だけであったことに、気が付けなかった。


「がっ……!?」


 いきなり、背後から苦しげな声が聞こえる。


「は…………?」


 振り向いて早々、思わず阿呆な声を上げ、口を大きく開いた。

 が、そんなことを気にしている暇もなく、俺は背後で起きた光景に、驚くことしか出来なかった。


 そこには、苦しげな声を発した主のダバルが、脇腹に両手を当てていた。

 先生との会話に周りの注意がいっていなかったのだろう。無防備な状態で攻撃を受けたらしい。

 ダバルの脇腹から――彼の肌の色とは違う腕が見えた。


 何者かもわからぬ2本の腕が、ダバルの腹に食い込んでいたのだ。

 

 その腕を辿(たど)っていくことで、局所的になっていた視界が次第に広がっていく。

 2本の腕を伝っていくと、そこには当然肩へと繋がっている。――が、それは同じところに繋がっていた。

 普通の人間ならば、あり得ないくっつき方。

 しかも、腕が2本ともどうやら同じ腕の向きをしており、つまりは腕の造りが同じだった。


 それだけ見れば、自然とあの化け物か、と答えが導きだせるのだが、"これ"は少し違う。

 その肩にまだ、あと2本の腕が残っていたのだ。

 

 それが片方だけならまだしも、バランス良くもう片方にも4本の腕が、窮屈そうに肩から伸びている。

 次に、胴体。

 俺たちの見てきた化け物のベースは、やはり人間と近しい感じだったのだが、"これ"は違った。

 胴体が、異様に長いのだ。

 胴長というレベルを軽々と超え、それは昆虫の腹を見ているかのように、長い。

 8本の足も、その胴体とやらについており、もはや腰の概念がなくなっている。

 そして、やはりと言うべきか、頭も四つ存在していた。それも、どれも普段なら見れないような、狂った笑みを見せていた。

 

 "これ"を簡単にいうならば、あの化け物を、体長も、四肢も、そして頭部も倍にした、何か。


 単に、"これ"が背後へと迫り、ダバルに不意打ちをした。それだけだ。

 ……まさか(ひそ)んでいるなんて、思いもしなかった。


 それだけ、他の人と会って気が緩んでいたのだろう。

 足音の正体が、レイオッド先生たちだと判明して。他に敵がいるだなんて、気が回っていなかったのだ。


「て、てめぇ……!!」


 ギリリッ、と奥歯を食いしばった表情を見せるダバルだが、


 ドンッ、と"これ"の残った腕が振るわれ、追加攻撃を受けたダバルは窓諸共(もろとも)、外へと弾き飛ばされた。


「あ゛あ゛あ゛」


 4つあるうちの、一つの頭部が、笑い声をあげた。

 自然に発声されたもの、というよりも喉の奥底から出てきたような、聞いているだけで苦しくなる声。

 不気味な化け物、でしかないはずなのに。


――なんだか、その顔を。どういうわけか、俺は見たことがある気がした。


 はっとしている間にも、"これ"が動きだす。……俺たちを無視して、ダバルが消えていった窓へと飛び込んでいったのだ。

 なんだあれは……?


 理解が、追いつかない。


 混乱が、さらに深まっていくにも拘わらず、レイオッド先生がさらなる混乱を招きいれた。


「――そういえば、あんな知り合いとは、会いましたか?」


 決して大きくはない声。抑揚もなく、すらりと発せられた言葉。

 先生はこんな時に一体、何を言っているんだ、と思った。


「あ、ああ…………いやあああああああああああああああああ……………!」


 発狂。

 今度は一体何なんだと、声の発生源へと目を向ける。

 そこには、


「フィリーネさん?」


 先ほどまで"あれ"の登場以外は、特に驚きもしていなかったフィリーネさん。

 俺たち4人の中では、一番落ち着いていたであろう人物が……泣き叫んでいた。

 どうして、こうなった。

 ワカラナイ。

 原因として、一番可能性が高いのは……さっきの先生の言葉か。


「――――」


 頭を押さえ、髪を振り乱すフィリーネさんの様子を気にすることも無く、レイオッド先生は、デイラネイラに向かって何かを話している。

 

「フィリーネッ! 落ち着いて、フィリーネッ!!」


 俺も、ルシルみたいにフィリーネさんに向かって、何か声をかけてあげるべきかもしれない。

 彼女は、尋常では無い様子だから。

 もしかしたら、俺の声でも彼女が我を取り戻す可能性が極僅かにでも、あるかもしれないし。

 

 でも、視線をすぐにフィリーネさんから、先生の方へと移した。

 味方であるはずのレイオッド先生たちが、一体何をするのか、何故か気になってしょうがなかったからだ。

 

 前後の様子に板挟みになってしまい、俺は動けなかった。

 思考が、現在の状況を、処理しきれていない。

 頭も働かなきゃ、身体も動かない。

 心だけが何かしなきゃ、と焦っている。それも、空回りもいいところで、上手く自分の中で噛み合っていない。

 濃密で、短い時間が過ぎ去っていく。


 錯乱したフィリーネさんをルシルが揺さ振っている。

 彼女たちは手が空いていないのだから、下に落ちていったダバルの安否を俺が確認するべきだ。

 落ちた衝撃で怪我などして、彼がピンチになっているなら、俺が囮でもした方がいいだろう。

 先生たちの様子がおかしい中、自由に動けるのは俺だけだ。

 俺がなんとかしないと。

 そう思うのに、身体はまだ動こうとしない。何もしていないのに、心臓は痛いくらいに動いているのに。

 

――まるで、俺だけこの状況に取り残されているみたいだ。


 先程まで、置物のように突っ立っていたデイラネイラが、急に動きを見せる。

 地面に接着剤でもへばり付いてでもいるんじゃないか、と思われた足を振り上げ、彼女の身体が躍動した。

 その時、普段はローブに隠されているところが、彼女の走った勢いで、(めく)れ上がる。


「は……?」


 思わず見てしまった。つい、見てしまった。

――彼女の身体が、おかしいところを。……彼女の肌が、青かったのだ。

 見間違い、だと思った。目が、おかしくなったんじゃないか、とも。

 でも、その青色は内出血の(あざ)にしてはとても鮮やかで、光沢があった。

 光沢。

 普通の人間なら、ありえないこと。

 ツヤツヤとした肌に光を当てたりすると、反射して光沢があるようにも見えるかもしれない。

 油なんかを身体に塗りたくれば、それ以上に光沢が増すかもしれない。

 けれど、彼女の場合は、そのどちらにも当てはまらない気がした。

 人間の皮膚というよりも――俺には爬虫類の鱗に似ているように思えてしまう。


 何故?

 

 わからない。わからない。わからない。わからない。わからない。わからない。わからない。わからない。わからない。わからない。わからない。


 頭を必死で働かせているというのに、身体は相変わらず動きやしない。

 首だけを何とか無理矢理動かして、背後へと移動したデイラネイラの姿を追う。

――彼女は、俺を素通りしたのだ。


 そして、そのままどこかへ駆けていくんじゃないか、と思うくらいに疾走したかと思ったら、フィリーネさんの前で、急停止した。


「『エア・ブロー』」


 そして、無機質な声で、詠唱した。

 何で、目の前に来てやったんだとか、そもそもフィリーネさんに魔法を使う理由は、とかそんな疑問が浮かび上がる。

 彼女を助けにいきたいと思う心と、相反して、身体の方は金縛りにあったかのように、ちっとも動かない。

 どうすることもできないまま、魔法は、無情にも放たれた。

 不可視の攻撃、圧縮されたとされる空気が、フィリーネさんを襲う。が、対する彼女はまだ頭を抱えて発狂したままだ。

 傍にいるルシルは……フィリーネさんの身体を抱えたままで、迎撃するには、間に合わなかったようである。


 そして、また。穴の空いた窓へと、彼女たちは吸い込まれるようにして、吹っ飛ばされた。


「ルシルッ、フィリーネさんッ!!!!」


 そこまでされて、俺はようやく身体の自由を取り戻すことに成功した。

 いきなり身体を動かしたからか、前のめりにつんのめたのも構わず、壊れた窓へと近寄る。

 物理法則に従って落下していく、ルシルとフィリーネさん。2階という高さだからか、普通は死ぬことはない。

 が、それはあくまで、足から落ちた時である。――彼女たちは、頭が下方向へと向いていた。

 

「――『レビテーション』ッッッ」


 ルシルの、叫んだ声。

 咄嗟の判断だったのだろう。彼女の身体から、風が纏わり始める。

 その風は実際に視認できるものではないものの、落下中ではためく彼女の服の(しわ)から、その姿が見てとれる。

 上下逆さまの状態のまま、二人の女生徒が浮いている。

 奇妙な絵面だが、俺は不謹慎ながら二人がスカートで無かったことに、残念さを覚える。

 何を考えているんだ、とは思うが、これはもう緊迫状態が一周回ってるだけに違いない。そう、思いたい。


「うわっ……!!」


 見ていて冷や冷やしたが、取りあえず一安心かと思ったところで、何者かに窓から押しやられる。

――デイラネイラだ。

 地味な顔が、さらに無表情と相極まって、彼女の印象を余計に薄めるのだが、その行動には目を見張った。

 だって、彼女自ら窓の外へと飛び出していったのだから。


 何だろうか、窓から飛び出すのって、流行っているのだろうか。軽々しく飛び降り自殺をやっているみたいに思えるのは、俺だけだろうか。

 たとえ、何かしらのスリルがあろうとも、俺ならやりたくない。

――と、現実逃避したところで、現状は変わりはしない。


 デイラネイラは宙に一瞬だけ留まった直後、重力に従って、落下。落ちる先には、地面――よりも先にルシルたちに向かっている。


「危ないっ!!」


 わかっていても、つい口に出してしまう。ルシルだって、見えているのだから、それくらいは分かっているに決まっている。

 『レビテーション』で一時的にではあるが、空中を移動する術を得ているルシル。

 が、重り(フィリーネさん)があるせいか、思ったようには動いていない。

 彼女が動けたのは、せいぜい体勢を地面を足の方に立て直したぐらいだ。

 落下のスピードを『レビテーション』で抑えていたせいか、すぐに着地とまでにはいかない。

 デイラネイラは、そんな彼女たちに構わず足から突っ込んだ。

 流石に、その攻撃には耐えられなかったのか、ルシルたちはデイラネイラに巻き込まれ、再び落下を始める。


「あらら、僕とクレヴ君、二人になってしまいましたね」


 彼女たちがどうなったのか、それを確認する暇もなく、レイオッド先生から声をかけられた。


「先生が、そう、したんでしょ……」


 ショックが大き過ぎて、返事を返せただけでも、自分を褒めてやりたかった。


「先生、何でこんなことを……?」


「それを話そうと思ったところで、君がこんなことを言ってしまったから、サプライズにはなりませんでしたよ」


「いえ、今、人が4人ほど下に落ちていったので、充分です」


 心臓に悪過ぎるサプライズである。それも、尋常じゃないくらいに悪質だし。


「まぁ、地下に来てなかったから、心配しましたよ」


 こんな時にでも、ニコリといつものように笑うレイオッド先生。あの笑顔に恐怖を覚える時が来るなど、思いもしなかった。

 にしても、今になって先生の異常性にようやく気付くなんて、俺はなんて鈍いのだろうか。

 彼のことを相当信頼していて、気付くのに遅れたのか。

 落胆と失望感と心配と恐怖。


 この短い時間の間に、どんどん心の中に色々な感情が混ざり合っていく。こんな時、俺はどんな顔をしていいのか、分からない。


「……いくつか、聞いてもいいですか?」


 だが、いつまでも感情に振り回されていても、どうしようも無い。

 俺はやれることを、するまでだ。


「聞けば何でも答えてくれる、なんて思ってはいけませんよ。自分で考えることが、大事です」


「俺、生徒。あなた、先生。生徒の質問には、答えてくれるのが、普通だと思いますけど?」


「まぁ、そうですね。僕も話したいことがあるのですが、いいですかね?」


 こっちの要求を飲むかわりに、こちらの要求にも答えてもらう、か。デメリットなんて思いつかないし、先生に頷きを返した。

 まぁ、まともな話し合いが出来れば、の話だけど。他の皆みたいに、不意打ちされるかもしれないし。


「じゃあ、俺から。先生は、このことをやったんですか?」


 彼が、この騒動を引き起こしたこと、は半ば確信している。が、まだ俺は信じたくなかった。

 これだけの証拠を目の前に突き付けられても、先生の口から直接聞くまでは。


「こんなこと? どんなことですか?」


「……外の騒ぎのことですよ」


 わざとらしく言う先生に、俺はあえて低い声を出し、話を促す。


「えぇ、私がやりましたよ」


 それを聞いた途端――落胆した。ショックは、もう受けなかった。

 分かってはいたが……やはり先生が、この騒動の犯人だったのだ。


「次は、僕の番ですかね。では、今日何で地下に来なかったんですか?」


 俺が、さっきの会話ではぐらかしたところだ。

 何で、先生がこんなことを気になるのかは、分からない。この騒動の他に、重要な用事でもあったというのか。

 

「別に、さっきも言った通りですが、忘れていただけですよ」


「念押ししていたつもりだったんですけどねぇ」


「こんなことが起きる予定だったからですか?」


 窓の方に親指を向けると、先生は無言で頷く。


「でも、何で俺にそんなことを言うんです? 先生の目的が、まるで分からない」


 レイオッド先生が、あの化け物を魔法学校内に放ったことは分かった。大方、その化け物はあの地下に隠していたのだろう。

 俺が気が付いていないだけで、他にも隠しスペースがあったのかもしれない。

 そう考えると気持ち悪くなってくるが、思考は止めない。


 そうなると、気になってくるのは、その動機。先生が、その化け物を放つ理由は一体何だったというのか。

 ただの虐殺を見たかったから? だとすれば、俺を実験棟の地下に念押しされるまで呼び出す理由が、分からない。

 俺のことが嫌いで、被害者第一号にするつもりだったのか? でも、俺と話し合いに応じている時点で、そうとは思えない。

 だったら、なんで俺を地下呼んだんだ? まさか、逆に俺を生かすつもりがあったとでもいうのだろうか。

 でも、俺を生かすメリットなんて思い付かないのだけど。

 

「君を、驚かせるつもりだったんですよ」


「は?」


 が、返ってきた言葉は、予想外のことだった。


「こんなことに、君を巻き込むつもりじゃなかったんです。さっきも言った通り、君に驚かせるつもりだったんです」


「そんな理由で、こんなことを……?」


「と言っても、これは理由の一つに過ぎませんよ。何も知らないクレヴ君にカミングアウトして驚かせるつもりだったのですけど、先に気付いてしまうんですからねぇ」


「……それで、『あーあ』、ですか?」


 まだ、彼の言っていることが、理解できない。

 俺を殺すつもりはない、ということは伝わった。が、俺を殺さない理由が分からない。

 そして、俺以外の人を殺そうとしていることも、分からなかった。


「結論を急がないでくださいよ。日は高いですし、まだ時間もたっぷりありますから」


「それは、先生の主観ですよね?」


「では、次は君の番でしたね」


 先生と悠長に話している時間が、もったいなかった。

 俺がこうしている間にも、下に落ちた3人がどうなっているか、気になる。

 が、今先生に背中を見せて、また化け物が伏せてあったならば、俺に対処し切れるかどうか。

 それに、聞きたいことが全然消化しきれていない。


「では、次に……何でこんなことを?」


「理由ですか? さっきの以外のですよね?」


 ()かすように、俺は無言で頷く。


「別に大層な理由ではありませんよ。一言でいうと、今のままが嫌だったから、です」


「……で、その嫌なところを端折(はしょ)らないでくださいよ」


 何だか先生は、こうして話題の本質を話さずに、わざと会話を長くしようとしているように感じる。

 それが性分なのか、あの笑顔を崩さず、先生はゆっくりと口を開く。


「正確には、『人が支配するのが嫌』と思ったんですよ」


「人の支配?」


「そう、例でいうなら、ここは人がアスタールと名付け、支配された土地ということになりますね。他の生物を淘汰して、だ」


 先生は、一息入れてから、話を続ける。


「ここに生えていたであろう植物や木を伐採し、動物を追いだし、そしてモンスターも処分していって出来たのか、街です。ここだけでなく、他の街もそうでしょう。

 他を虐げ、人が土地を支配している、そうなりますよね? 考えてみてください。

 自分は何も悪いことをしていないのに、自分の住んでいる土地を奪われ、そして命さえも奪われていく。理不尽だとは思いませんか?

 何なら、人の視点に置き換えてもいいでしょう。ある日、自分の住んでいるところに自然災害が起きたとしましょう。

 嵐でも、近くの山が噴火したでも、何でも。とにかく、抵抗できないような、そんな大きな力で自分たちの住む場所がなくなったとします。

 そうなったら、君はどう思います?」


「嫌だな、とは思いますけど」


 素直にそう答える。

 すると先生は満足そうに頷いて、口を開く。


「そうですね。酷いと思いますよね。だから、僕もそうしたまでに過ぎませんよ」


「こうして、化け物を放って、ですか?」


「別に、僕は強い力を否定するつもりはありませんよ。こうして人が街である程度の安全を約束されているのも、強い力を持っているからです。

 だから、僕が強い力を持って、人の支配を壊そうとすることも、間違っているとは言えないと思いますけどね」


「だからって、同じように命を奪うのが、正しいことなんですか?」


「クレヴ君、だから僕は暴力を否定していないんですよ。正しいか正しくないかなんて関係ないんですよ。

 結局のところ、人はそれをやった。例えそれが『人のため』とかいう(もっと)もらしい理由があったとしても、です。

 だったら、僕としても『モンスターのため』という尤もらしい理由をつけて、これに臨んだと、そう言わせてもらいたいですよ」


「…………」


 ……これ以上、俺には何も言うことが出来なかった。

 これは、人によって違う、感じ取り方の問題だと思ったからだ。

 俺は、命を奪うことに抵抗がある。特に人の命が亡くなる、と思うと悲しいと感じる。

 でも、先生は違うのだ。先生は、人の命よりも、モンスターの命を優先したに過ぎない。

 モンスターが死ぬ方が、可哀想だと、許せないと、そう思っただけなのだ。

 蝶が蜘蛛の巣に引っ掛かったのを助けようと、巣を壊すのと同じように。

 土地を支配する人を殺し、建物を破壊して、『人の平和』のせいで駆除されそうなモンスターを救う。

 それを、同列に見ているだけ。


 たとえ、俺がそう思えなくとも、関係ない。先生には、先生の感性がある。

 理解されなくとも、良いのだ。人間に、理解される必要がないのだから。

 むしろ、先生にとっては邪魔な存在だと感じているのだろう。


「さて、随分と話してしまいましたが、最初の質問の『どうしてこんなことをしたのか』、について一言でまとめると、『モンスターが安全に住めるようにするために、この街を滅ぼすことにした』、ということになります。

 さて、次は僕の番ですかね」


「……どうぞ」 


「では――クレヴ君、僕の仲間になりませんか?」


 

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