17
俺たち人間は、勝手な生き物だ。
というのも、例えば不幸になっている人間がいるとしよう。その人間は苦しくて、つらい人生を送っている。
さて、自分がその人間と関わりがあるのだとしたら、助けるだろうか?
たぶん、だいたいの人は、『はい』と答えるだろう。
だが、それがもし、助けた自分までもが、不幸になってしまうと考えたら、どうだろう。
そうなれば、たぶん先ほど肯定した大多数の人間は、正反対の答えへと移るはずだ。
言葉だけなら、肯定を示すだろうけれど、心から思う人は、少ないと思う。
それを、現在の状況にあてはめてみたら、どうだろうか。
突如、化け物がうろつくようになってしまった、ここアスタールの魔法学校。
敵戦力は、未知数。個体の強さでいえば、フィリーネさんでも倒せなくはない程度。
つまりは、腕の立つ生徒なら、撃退出来る、とでも考えられる。
が、問題は見た目。
その化け物は、人間に良く似たパーツを持ちながら、その身体の構成は、人間ではない異形の姿。
それを見た時、気持ち悪い、というよりも先に、怖いという感情が真っ先にきた。
グロテスクな、その姿形は恐怖を生む。
戦力的に勝っていたとしても、あの姿には躊躇させられる。
相対した者にしかわからないが、あれは攻撃しづらい。
人間に似ている、っていう点もあるかもしれないが、手を出してはいけない、何か禁忌に近いものを思わされる。
実際、今は昼で助かったが、夜なんかにあんなもんと遭遇でもしてみろ。軽く失神する奴が現れるに違いない。
夜でなくても、心臓に悪い敵だ。
立ち向かおう、なんて思う奴は少ないと思う。まずは、逃げようと考えるのが、普通なはずだ。
さて、少し遠回りをしてしまったが、本題に戻ろう。
そんな化け物が出没する中、ある生徒が襲われている状態に遭遇した時。
自分だったら、どうするだろう。
相手は、怖くて恐ろしい存在。不気味で、正体などわからない生物。いや、生物と呼んでいいのかさえも疑わしい"何か"。
そんな化け物に、進んで立ち向かおうと考えるだろうか。
……俺だったら、普通は見て見ぬ振りをするに違いない。
確かに、その生徒が可哀想だとは思うが、自分の命を投げ出してまで、助けようとは、思わない。
誰だって、自分の命が一番大事だと考えるのは当然のことである。
仮に大切な親友を人質にとられ、その助ける条件が自分が身代わりになること、なんて言われたら躊躇し、そして時には自分の命大事さに見捨てることも選択するだろう。
それが、他人なら、尚更である。
さて、長くなってしまったが、いよいよ本当に、本題。これがメインだ。
現在、俺たちは管理棟の前に立ち止まっている。
ここまでたどり着くまでに、何体かの化け物に襲われたが、それはルシルたち3人が軽く撃退したので、特に問題はない、といったところだった。
「なんだあれは?」
着いて早々に、ダバルが何かを発見した様子。彼は顔を見上げて、上の階層の、ある部屋に注視しているみたいだった。
「どこよ?」
「あそこっす」
ルシルも気になったのか、ダバルにどこなのかを聞いていた。
彼はそれに、少し自慢げに指で、5階のある部屋を指し示した。
そこの窓には、確かに他の部屋とは違い、何か影が映っていた。大きさ、形から推測するに、人というのが妥当だろうか。
「避難した人、ってところかしらね」
「……上に逃げてきた、って考えられるかもね」
ルシルとフィリーネさんが、それぞれ自分の意見を確かめあっている。
「ここまで来たなら、会ってみる?」
明るい声で、ルシルが皆に確認を取る。
「もちろんっす」
「えぇ」
二人は、特に反対がないのか、即答する。
俺は、すぐには答えられなかった。別に、反対の意思は、ない。ただ、進んで賛成する意思もなかった。
――彼らは、強い力を持っている。
それこそ、あの化け物を軽く圧倒するくらいに、強い。
だったら、その力を生かして、他の人を助けに行こうとは思わないのか。
役立たずで何もしていない俺が、生意気にも、そう考えてしまった。
そこで、先ほどの思考に、再び戻る。
彼らは強い力を持っている。
それこそ、誰かを救っても、彼らには、その誰かを守る程度の余裕があるくらい、強い力を、だ。
が、彼らは積極的に助けようとは、しなかった。
戦い、という自分の欲求を満たす行動を、優先した。――少なくとも、ダバルとフィリーネさんの目的はそうだ。
誰かを救う力を持っているのに、助けない。
どこかで逃げ惑っている人がいるのに、助けようとは思わない。
なぜか。
それは、たぶんごく単純なこと。彼らは英雄でも、なんでも無いからだ。
他人を助ける理由が、無いからである。
まぁ……彼らにも、多少の正義感はあるとは思う。
が、彼らには広大な敷地を自由に、速く動き回る機動性が、広大な土地全体を捜し回れる体力が無い。
というより、人間の殆どはそれを持っていない。
だから、不特定多数の人間を救うことはできない。
当たり前の話だ。
が、俺はその当たり前に、引っ掛かる。
助けよう、という意思はあるのかもしれない。
けれど、現実がそれを邪魔をする。
彼らは、俺なんかよりも、よく分かっている。
自分たちが、何もかも救える存在じゃないってことを。
だから、今は。
目の前に人の命を助ける機会があるから、助けようと思ったのだろう。
別に、俺はそこに不満はないのだ。
今どうなっているか、行方が知れない友人たちも、いるに違いない。
表情からは読み取れないが、心配もしているだろう。助けたい、って思ってもいるだろう。
けれど、助けようとは、動かない。
何処にいるか、なんて分からないから、ということもあるだろう。
友人たち自身が、彼らを頼らずとも何とかするかもしれない、なんて考えているかもしれない。
けれど助けたい、と思うのが、普通じゃないだろうか。
でも、それを彼らは、意思表示しようとしない。
誰にも、言おうとしない。行動で示そうとしない。
なんで?
分かっているから。それを、やろうとするのが、現実的でないから。
どこにいるかわからない人間を、どうやって救うのか。
それこそ、虱潰しに探すぐらいしか、俺の頭には思い浮かばない。
でもそれじゃあ、時間が足りな過ぎる。
頭で理解はしているんだ、そんなことは。
でも、俺にはそこまで割り切れない。皆、どうしてそこまで割り切れるのか、理解できない。
出来ないことを出来ない、って認めたくない。
分かりたくない。
けれど、出来ない。どうにもならない現状を噛み砕いて、呑み込むしかないんだ。
自分が、無茶苦茶なことを考えていることは、分かっている。
俺はたぶん、今までも、そしてこれからも悩み続ける。
重い選択していくことに、躊躇していくに違いない。
けれど、進まなくてはならない。
ここで、俺は拒否したところで、事態は好転しないどころか、彼らの足を余計に引っ張るだけなのだから。
それに。
このままウジウジとやっていて、上にいる人たちが死ねば、それは……人の命を見殺しにしたのと同義ではないだろうか。
――まぁ、そう決まったわけではないけれど。
どうにもならない、悔しいこと。
強い人たち、というのは、たぶんそう言ったことも割り切り、進む力を持っているのかもしれない。
俺は弱い。だから出来ない、なんて甘えているだけなのかもしれない。
けれど、今は。強くならなくちゃ、いけない。出来る限り、彼らの重荷になっちゃいけないんだ。
「……そうだな」
少し、時間はかかったけれど、ようやく俺も頷くことが出来た。
せめて、"最悪"にならないように、努力をしよう。そう思った。
管理棟1F。
ひと目見た感想、っていうと実験棟なんかの建物よりも、シンプルな造りとなっていた。
入学の手続きで一度入ったから、俺には特に目新しい部分がなかった。
入り口を潜ると、すぐ右方向に待ち構えてある受付らしき部屋。
確か、ここで案内を受けた記憶があるのだが、その時はリアナの世話で精一杯になっていて、説明してくれた人の顔が思い出せない。
まぁ、今は気にする必要はないか。
続いて奥に進むと、目の前には左右に伸びる廊下に、それに連なっている部屋がある。
間隔が均等に並べられているところから、部屋の大きさはだいたい同じ、といったところなのだろう。
一応、警戒しながら廊下を進むが、特に何も起こらない。
耳も澄ませてみたが、物音などは全然しなかった。逆に不気味である。
「先生たちは、いないようね」
呟くようにしてルシルが言う。
あまり大きな声では無かったのだが、静かな環境だったが故か、すんなり耳に入ってきた。
「教師たちはここを根城にして、立て篭もることも考えないんすかね?」
抜き身のロングソードで肩を軽く叩きながら、不思議そうに疑問を漏らすダバル。
それには俺も同意だった。
化け物が外にいると気付いたならば、ここを閉鎖して立て篭もった方が安全だと、誰しも気付くと思うのだけど。
もしくは……生徒たちを保護しに行くのに、敢えて外に向かったとか?
だとすれば、何人かは中に残していくのが、セオリーなんだとは思うんだけど……。
まぁ、今更考えても仕方ないか。
「上にいた人がやっぱり先生なのかもしれないよ?」
久々にフィリーネさんの発言が聞こえる。やはり、彼女の小さめな声でも、静かな廊下に良く響いた。
そんな静かな環境に、不安を覚えるのは俺だけなのだろうか?
彼らは誰一人として、俺みたいにビクついていない姿が頼もしく感じる。
「まぁ、可能性としては一番ありえるかも、ね」
ルシルの言葉で、俺たちは止まっていた足を再び動かした。
念には念を、ということで、一応確認として一つ一つ部屋の中を確認してみることに。
まずは手前の部屋。
誰もいない。中には、本棚や机、椅子など、最低限事務を行えるぐらいの物しか置かれていない。
特に汚れた様子もなく、普段から使われている部屋の一つのようだ。
次々に部屋の中を覗いていくも、人の姿は見られない。
部屋の中身も、貴重品などが管理されている部屋と、教師たちが作業する部屋、その他の書類が仕舞われている部屋の、主に三つに分類できるようだった。
1階には、誰もいない。
かといって、何かに襲われた形跡などもなく……何だかさっきまで人がいたような、そんな感じがしたのだ。
作業中の書類なのか、書きかけの文章で止まっているものや、本棚から抜き取ったままの書物。
ダバルやルシルからは、面倒くさがりの人だからじゃない?、の一言で片づけられたが、俺にはどうも気になってしょうがない。
これは、ほんの些細なことだ。忘れてしまえ。
そう思うのだけれども、俺の頭にはびっしりと刻み込まれてしまって、記憶から切り離せそうにない。
「1階には、何にもなさそうね」
ルシルのその一言を皮切りに、1階の探索を終了させ、廊下の行きつく先にあった階段を上った。
階段を上り切った直後、廊下の方から何かがちらっと確認できた。
「今の……」
ルシルの、見た、と言葉が続く前に、三人で頷いて見せる。一旦、階段へと戻り、様子を窺う。
すると、影の主は大して気配を隠すようすも無く、足音を鳴らして此方に近付いてくる。
「……二つ」
フィリーネさんが、何かを呟く。
が、相手がどんどんと近付いてくることで、その言葉の意味にようやく気が付くことが出来る。
足音が、二つあるのだ。
まだ距離が離れていた時には、音が反響してよくわからなかったのだが、今はよく分かる。
そこまで二つの音がズレているわけでも無かったから、今まで俺が気が付かなかったとしても、俺の感覚器官が鈍いわけでは無いだろう。
フィリーネさんが異常に鋭いだけだ。
「どうする?」
こんな時に他の人に聞いている場合ではないのだが、つい言葉にしてしまう。
「どうするもこうするも……戦うのみっすよ」
相手の正体が分からないというのに、こういう時でも強気なダバルだ。背中に担いでいるロングソードの柄に、既に右手を添えていた。
長い得物を室内で、しかも近くに人がいるのに振り回したら危ないだろうに、とは思うが、そこらへんは彼でも考慮しているだろう。
俺は、そう信じることにする。
が、念のため、彼から少し離れておくことにしよう。少なくとも、刃が届かぬ範囲までは。
そんなことをしている間にも、足音はどんどん大きくなっていく。
それに同調してか、俺の心臓の音も、大きく、そして速くなっていく。
そして、相手は階段のところまで来るか、と思われたところで、直前で足音が止まってしまった。
「どうしたんだ……?」
まさか、俺たちがここに待ち伏せていることが、バレてしまったのか。
「ここは、勢いっす!!!!」
先手必勝。開き直り。破れかぶれ。
ダバルが雄叫びと共に気合一閃、と残り数段の階段を一気に駆けあがり、廊下へと飛び込んでいく。
そして……その声が突然消えてしまう。
どうしたのだろう?
俺たちは、慌てず、ゆっくりと廊下を覗きこむ。
そこには――
「レイオッド先生……?」
今見た状況を一旦整理してみよう。
飛び出していったダバルは、現在床へとうつ伏せになっている。つまり、何かに躓いて転んだのか。
それとも、先生が故意にダバルを倒してしまったのか。
そして、その転んだダバルの前方には、驚いた顔をしているレイオッド先生と……あの地味な生徒。
確か、デイラネイラって名前だった気がする。
二人して並んでいるってことは、足音の正体もどうやらあの二人のものと考えてもいいだろう。
「おや? 無事だったんですね」
こうした異常事態が発生しているにも拘わらず、先生はいつものように微笑む。いや、俺たちに会ったことへの安心感で笑顔を浮かべたのだろうか。
「先生も、ご無事で何よりですっ!!」
ルシルから、普段の何割増しの黄色い声が発せられる。
元々色素の薄い頬に、上気したせいで色づいた薄紅色が、余計に目立って見えた。
それに対して、俺は顔が青くなっていたことだろう。思わず顔を伏せてしまっていた。
あの光景――先生の歪んだ、もといマイノリティな性癖が露見してしまったために、すごく気まずい。
「けっ」
ダバルは楽しげにレイオッド先生と話をするルシルを見て、面白く感じないからか、少し不機嫌そうだった。
フィリーネさんは……あの子は特殊なんだろうか。美形のレイオッド先生を前にしても、平然としている。
いや、彼女は女顔が好みでないだけなのかもしれない。
そして最後。デイラネイラ。
熱烈なレイオッド先生のファンな彼女だが、とても静かだった。それに……何だか無表情にも見える。
感情なんて、まるで感じられないくらいに。
まぁ、彼女のことをあまり知らないので、これが彼女の素で俺たちと会ったことに何も感じていないからなのか、それとも表に感情が現れない人なのか、判断しにくい。
レイオッド先生のファンならば、先生の傍にいるんだし、ルシルみたいに喜色満面とならないのか、疑問である。
「それで……さっきからキョロキョロと、クレヴ君は一体何が気になっているんですか?」
レイオッド先生から不思議そうに顔を見つめられる。
流石に、他の人に視線を向けて、先生とはなるべく目を合わせないようにするため、なんて言えそうにもない。
「HAHAHA、別に何でもないですよ」
愛想笑いを顔に貼り付け、なんとか誤魔化す。
「ところで、5階にいた人影って、先生たちですか?」
視線がレイオッド先生に一直線のルシルが早速切りこんだ。
「えぇ、そうですよ」
「そこの彼女の他には、誰かいないんですか?」
「そうですね、僕たちだけです」
「他の先生とかは?」
「僕が来た時には、もういなかったと思います。今どこにいるのかも……」
先生との会話のキャッチボールが嬉しいのか、次第にテンションが上がっていくルシル。
そんなルシルの後ろでは、ダバルが苦悶の表情を浮かべ、口を開くものの、言葉にする前に口を閉じる、を繰り返している。
たぶん、会話の邪魔をしてルシルに嫌がられることと、このイチャイチャとした空気を何とかするために会話を中断させようとするので、心の天秤が揺れているのだろう。
あぁ、他人の恋路を眺めているのは、こうも楽しいものなのか。
「ところで、今日はどうして来なかったんだい?」
さっきまでルシルに質問攻めにあっていたレイオッド先生が、こちらに話を振ってきた。
ルシルなんかは、途中で途切れさせられたからか少し不機嫌だし、ダバルはダバルで、サムズアップさせているし。
まぁ、それでもあの光景を見たせいで、先生に戸惑っている俺は彼らよりも忙しない奴なんだろうけれども。
「あぁ、それはちょっと色々あって、忘れてました。ごめんなさい」
本当は、寸分狂わずに今日の約束は覚えているのだが、例のスペースで行われていた"アレ"で、先生と対面する気は失せてしまっていた。
いまだに受け入れられていない光景だが、今は時間が経ってなんとか無難な表情を保っていられるが、もし図書館に行かずにあのまま先生の行為を待っていたならば。
引き攣った表情に出さずに会話するなど不可能だっただろう。
「それで、先生の方は大丈夫だったんですか?」
だから、知りたくなかった事実とは向き合うことはせず、先生に話を振った。
「えぇ、でなければ、ここであなたたちと会えてませんよ」
笑みを崩さずに、レイオッド先生は言う。
化け物と直接遭遇していないからだろうか。それとも、俺たちを不安にさせないために、強がっているのだろうか。
もしくは、レイオッド先生のことだから、化け物への恐怖よりも興味の方が強いとかだろうか?
「地下に隠れ通す、って考えなかったんですか?」
取りあえず、追撃。あちらに会話の主導権を渡して、気まずくなるのだけは、避けたかった。
「まぁ一応僕も教師だから、生徒を助けに、ね」
……あれ、なんか今、自分で変なことを言った気がする。
ほんの些細な、ひっかかり。小骨が喉に刺さったままになったかのような、違和感。
俺は、今なんて言った?
「そういえば、先生」
「ん? どうかしたかい?」
「先生は、この騒ぎについて、何か知っていることとかありますか?」
「いや、全然? 何か見たことのない生物が外を歩き回っているってくらいですね」
レイオッド先生は笑みを絶やさない。
平常と変わらず、心に余裕を持っているみたいだ。
「――それを、一体どこで知ったんですか?」
「何って、外を見れば誰にだってわかりますよ?」
先生は、俺の質問に不思議そうに答える。それは、もう自然に。
「先生は、地下にいたんですよね?」
「えぇ、その手伝いを、クレヴ君はすっぽかしてくれましたけれどもね」
「あそこ、相当音が聞こえにくい場所なのに、何で知ることが出来たんですか?」
単なる、疑問だった。
先生の私有スペースであるあの場所。実験棟の地下に偶然できたスペースを改造し、出来たところ。
実験棟は生徒が集まってうるさいにも拘わらず、あの地下だけは防音の効果でもあるのか、とても静かな場所だったのである。
だからこそ、先生もそこを選んだ。
それに、そこは滅多に他の人は訪れない。最近で言えば、手伝いで行くのは俺だけであったし、その日も俺以外には、来訪者はいないはずである。
この化け物騒動は、突発的に起きたこと。
俺は、その日先生が地下に籠りっきりだったことを、知っている。実際にも、その姿は"アレ"の最中である先生を見た。
だったら、先生は一体このことを、どうやって知ったのか。
「他の先生が呼びに――」
レイオッド先生は、そこで言いかけたまま、口を閉じてしまう。
その可能性がないと、気がついたのだろう。
だって先生は先ほどこう言っていたのだ。『僕が来た時には、もういなかったと思います。今どこにいるのかも……』、と。
だったら、レイオッド先生を呼びに来た先生から、何か聞いていなければ、おかしいはずなのである。
「先生……?」
いきなりレイオッド先生が黙ってしまったからか、ルシルが心配そうな顔をする。
普段の彼女からは拝めないような、弱気な表情だった。
俺は、単なる疑問に躓いただけだった。
それが、気になったから、ただ聞いただけだ。
「ふふふふふ……」
急にどうしたのか、レイオッド先生が顔に手を押さえ、笑みを深くした。
『この歳で、物忘れなんて嫌だなぁ』、なんて自嘲してために笑ってしまったのだろうか。
確かに、若いうちにボケてしまうのは嫌だ。それを生徒から気付かされるなんて、恥ずかしいのもあるかもしれない。
そんな、呑気なことを考えていたのだが。
「あーあ」
飛び出してきた言葉は、全く予想だにしていなかった言葉だった。
途中、強引なところがありますが、書こうとしていたことに矛盾が発覚し、こんな感じになってしまいました……。
粗さには、目を瞑っていただけたらなぁ、と思います。
次はそうならないようにしたいなぁ、とは思っているのですが、なかなか難しいものですね……。




