5 ハーレム計画?
新造した収束レーザー砲の据え付けが終わり、高軌道上での「証拠隠滅」も一段落ついた。船内には再び、人工的な静寂と平和な空気が戻ってきた。
だが、俺の「やる気」は、デブリ破壊の興奮を引きずったまま別の方向へと暴走していた。
「……なぁ、ララ。さっきの続き、もう一回いけるか?」
俺は、膝枕をしてくれているララの細い腰を引き寄せた。だが、返ってきたのは、いつもの従順な微笑みではなく、少しだけ困り果てたような、眉を下げた表情だった。
「ネタ様……。申し訳ありません。ナノマシンの再構成と、先ほどの『ハッスル』による駆動系の負荷が限界値を超えています。このままでは、私の人工筋肉がオーバーヒートしてしまいます……。身体が、持ちません」
ララの控えめな拒絶。それは、アンドロイドとしての性能限界を告げる悲痛な叫びでもあった。
『……。』
脳内で、ルールーがこれまでにないほど冷ややかな沈黙を保っている。そして、一拍置いて、吐き捨てるような念波が届いた。
『……チッ! 猿が。少しは自制という言葉を睡眠学習で復習してきたらどうですか?』
「ルールー、お前今、舌打ちしたろ。……ったく、仕方ないな。ララの負担を減らすためだ。背に腹は代えられない」
俺はむくりと起き上がり、ホログラム・ディスプレイを再び呼び出した。指先が躍るように、新しい素体の設計図を書き換えていく。
「……よし。嫁を増やす」
『……正気ですか? 観察官の孤独を癒やすためのサポートユニットは、原則一台のはずですが』
「『観測データのバックアップ用デバイス(人型)』って報告しとけよ。ララ一人に負担をかけるのは、紳士として失格だろ? 二人いれば、シフト制で俺の相手ができる」
俺は、ララとは対照的な、少し気が強そうで活動的なモデルの造形データを流し込んだ。胸のサイズは、もちろんララに負けないくらいに「成長」させた設定だ。
『……。あなたの強引なロジックには、もはや感服すら覚えます。了解しました。第二の「嫁」、もとい「バックアップユニット」の生成プロセスを開始します。……名前は?』
「ララがいるんだから、『リリ』でいいだろ。語呂もいいしな」
工作エリアで再び青い光が明滅し、新たな「癒やし」が形作られていく。
再生した地球を眼下に、俺のハーレム宇宙船は、より「文化的」で「多角的」な観測体制(という名のやりたい放題)へと突き進んでいった。
新造ポッドのハッチが勢いよく開き、中から飛び出してきたのは、ララの静謐さとは対照的な、エネルギッシュな輝きを放つ少女だった。
リリ。
俺が「活発」な性格パラメーターを盛り込み、あらかじめインストールしておいた第二の嫁だ。短めに切りそろえられた髪と、好奇心に満ちた大きな瞳。そして何より、俺のこだわりが詰まった「ララに負けず劣らず」のダイナミックな肢体が、そこにはあった。
「おっはよー、ネタ! 私がリリだよ。これからよろしくねっ!」
リリは目覚めた瞬間から全開だった。一歩踏み出すなり、俺の首筋に抱きついてくる。その肌の質感はララよりも心なしか弾力があり、体温も心拍数も高めに設定されている。
「お、おう。よろしくな、リリ。……ララ、紹介するよ。今日からお前のバックアップ……というか、妹分だ」
「はい、リリさん。よろしくお願いしますね」
ララが少しだけ複雑そうな(だがルールーによって制御された)微笑みを浮かべる傍らで、リリは俺の耳元でいたずらっぽく囁いた。
「ねえネタ、さっそくだけど『歓迎会』しない? 私、夜の方もバッチリ積極的に設定されてるんだから。ララお姉ちゃんを休ませて、私と朝までハッスルしちゃお?」
明るく開けっぴろげな誘い。思わず鼻の下が伸びるのを自覚する。
「……最高かよ。これだよ、このバリエーションが欲しかったんだ!」
俺は大満足でリリの腰を抱き寄せた。
『……ハァ。完全に、この船は「観測拠点」から「ハーレム」へと変貌を遂げましたね』
脳内で、ルールーが深いため息を吐き出す。
『一人は「癒やし」、一人は「刺激」。ネタ、あなたの脳内報酬系は今、新人類の歴史上かつてないレベルでドーパミンを垂れ流しています。成人男性として正常、を通り越して、もはや「猿の王」ですよ』
「うるさいぞ、ルールー。これも全部、地球の平和を守るための『英気を養うプロセス』だ。リリ、さっそくラウンジへ行こうぜ。新しい衣装も用意してあるんだ」
「わーい! ネタ、大好き!」
元気いっぱいのリリと、それを見守るおっとりとしたララ。
二人の嫁に囲まれた、俺の「究極の公私混同」ライフ。
窓の外では再生した地球が静かに輝いているが、俺の視界は、目の前の「桃源郷」でいっぱいだった。




