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なんもしないのがお仕事です〜ニートが滅んだはずの地球が謎の再生をしたので観測員になりました〜  作者: 小兎


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6 密航船を拿捕せよ


日替わりでララとリリが夜の相手をしてくれ、眠りにつく時には左右から温かな体温に抱きつかれている。そんな夢のような日々の中で、俺はふと、自分の中に芽生えた奇妙な感覚に首を傾げていた。


(……俺って、もっと淡白で、枯れた性格じゃなかったっけ?)

 

新天地にいた頃の俺は、ただ寝ていたいだけの、情熱の欠片もない男だったはずだ。それが今や、二人の嫁を着飾らせ、夜な夜なハッスルすることに全力を注いでいる。どうやら、地球という「生命の源」を間近に感じる環境が、俺の中に眠っていた野性を呼び覚ましてしまったらしい。


だが、そのまどろみを切り裂くように、再びあの無機質なアラートが響き渡った。


ビーーーッ! ビーーーッ! ビーーーッ!


「……ッ、今度はなんだ!? せっかくいいところだったのに!」


左右で驚いて身を起こすララとリリを気遣いながら、俺はコンソールへと這い出した。脳内のルールーが、かつてないほど事務的で冷ややかな速度で情報を処理している。


『ネタ、緊急事態です。監視ドローンが外宇宙から接近する物体を捉えました。所属不明の宇宙船です。現在、一直線に地球へ航路をとっています』


「所属不明? 新天地からの定期便じゃないのか?」


『正規のルートではありません。解析の結果、本国の富裕層による個人所有船の可能性が高いと推測されます。いわゆる、禁じられた聖域への「観光」を企てる不届き者ですね』


俺はすぐさま本国へ超光速通信を入れた。ホログラムに現れた担当官は、俺の報告を聞くなり顔を顰め、吐き捨てるように言った。


『……観測官ネタ。こちらで確認したが、公式な派遣船は一隻もない。おそらく法を無視した私的な密航船だ。いいか、そいつを絶対に地球へ近づけるな! あの星は人類の共有財産だ。一部の不心得者に汚染させるわけにはいかない!』


「近づけるなって、こっちはただの観測船ですよ!?」


『手段は問わない! 警告を無視するようなら……物理的に排除しても構わん。とにかく「聖域」を守れ! 以上だ!』


一方的に切られた通信。モニターには、迷いなく地球へと突き進む、贅を尽くした造りの金色の宇宙船が映し出されていた。


「……ハッ、手段は問わない、か。本国の連中も大概だな」


俺は、いつの間にか後ろに立っていたララとリリを見た。二人の瞳には、俺を信じる強い光が宿っている。


「ルールー。隠して取り付けた『収束レーザー砲』、出番だ。あの成金趣味の船を、宇宙の塵にしてやるか」


『了解しました。……警告通信を無視して突っ込んでくるようなら、容赦なくトリガーを引くお手伝いをしましょう』


俺は不敵に笑い、操縦席に深く座り直した。俺の安眠と、俺の嫁と、そして地球を汚そうとする奴は、たとえ同族だろうが容赦はしない。


俺は不機嫌極まりない顔で通信回線を開いた。ホログラムに投影されたのは、全身を金ピカの装飾品で固めた、絵に描いたような成金の男だ。


「おい、そこの不審船。こちらは地球観測官のネタ・ロゥ・サーネンだ。ここは人類の聖域、立ち入り禁止区域だ。今すぐ回頭して立ち去れ。さもないと……」


『はっ、観測官だと? 黙って見ていろと言われただけの雑用係が、私に指図するな!』

 

男は鼻で笑い、ワイングラスのようなものを揺らしながら言葉を継いだ。


『私は新天地あっちの評議会にも顔が利く身だぞ。この再生した地球を、私のプライベート・ビーチにする権利を買い取るつもりだ。小汚い観測船ごときが、この「黄金の翼号」の進路を塞ぐというのか?』


「……。ルールー、こいつの脳内チップ、壊れてるんじゃないか?」


『いえ、正常に機能しているようです、正常に機能しているという時点で恐ろしいですね。相手は警告を完全に無視。降下シーケンスを維持しています』


 男の通信は一方的に途切れた。救いようのない馬鹿だ。自分の金が、数千光年離れた宇宙の物理法則まで支配していると勘違いしている。


「ルールー、リリ。……あいつのケツに火をつけてやれ。ただし、爆発させるなよ。拿捕して本国に突き出す」


『了解。収束レーザー、出力30%に固定。ピンポイント照射……ターゲット、主推進機関メインスラスター


「いくよ、ネタ! 狙い撃ちー!」


 リリが楽しそうにコンソールのトリガーを叩く。船体下部に隠された漆黒の砲身から、細く鋭い光の針が放たれた。

 

真空を切り裂いたレーザーは、金色の宇宙船の最後尾、眩しく輝いていた推進ノズルを寸分の狂いもなく貫いた。


衝撃音とともに、黄金の船がバランスを崩して回転を始める。


『な、何事だ!? 攻撃されたのか? この私を!?』


「あー、聞こえるか、成金さん。お前の自慢の翼、片方折れちまったみたいだぞ。そのまま放っておくと大気圏で燃え尽きるが……どうする? 助けてほしけりゃ、俺の船のトラクタービームに大人しく捕まれ」

 

モニターの中で、男が泡を食って絶叫している。

俺はそれを見向きもせず、トラクタービームを起動して獲物を引き寄せた。

その間ずっと喚き散らしている。


「あー、うるさい。ルールー、こいつの回線閉じろ。鼓膜が腐る」


モニターの中で顔を真っ赤にして喚き散らしていた金ピカ男の映像が、ぷつりと消えた。トラクタービームに捕らえられた『黄金の翼号』は、今や巨大な魚に釣り上げられた雑魚同然だ。推進器を焼かれ、宇宙の藻屑になる寸前の恐怖で、向こうの艦内はさぞかし賑やかだろう。


「……よし、ゴミ掃除完了。ルールー、本国に放り投げとけ」


『了解しました。本国治安維持局へ暗号通信を送信。「不法侵入を試みた所属不明船を拿捕。現在、本艦のトラクタービームにて係留中。早急に回収要請を求む」……送信完了です』


「ふぅ。これでやっと静かになるな。な、ララ、リリ」


俺は左右から自分を覗き込む二人の嫁に視線を向けた。ララは「お見事です」と言わんばかりに微笑み、リリは「ねーねー、あのご褒美に、また新しい服作ってよ!」と俺の腕に抱きついてくる。


「ああ、いいぞ。次はもっと過激なやつを……」


『ネタ、喜びも束の間ですが、本国から返信です。……「了解した。回収船を急行させる。それまでその男を逃がすな。なお、そちらの防衛手段については……追って詳細な報告を求める」……とのことです』


「報告? 『太陽フレアの奇跡です』って書いとけ。……さあて、回収船が来るまでまだ時間があるな」


俺は二人の肩を抱き寄せ、操縦席から立ち上がった。


成金の怒号も、本国の小難しい顔をした官僚も、数千光年の彼方のことだ。今の俺にとって重要なのは、二人の嫁にどうやって甘い声を上げさせるかそれだけだった。


「……じゃあ、夜の運動の延長戦、行こうか」


『……。呆れて物も言えませんが、バイタルチェックだけは継続しておきますよ、猿の王様』


ルールーの毒づく声をBGMに、俺たちは再び、ピンク色の照明が灯るプライベートルームへとひきあげ

た。



数日後、漆黒の宇宙空間に新天地の法執行機関が所有する、無機質で巨大な回収船が姿を現した。


『ネタ、回収船『ジャスティス・レイ』が到着。ドッキング・シーケンスを開始します。……いいですか、余計なことは喋らないでくださいね。あなたの「過剰な防衛本能」がバレたら、即座に更迭ですよ』


脳内でルールーが釘を刺す。俺は慌てて、リリに着せていた超極小ビキニを脱がせ、標準的な観測官の制服シワだらけだがを羽織った。


「わかってるって。……ほら、ララ、リリ。お前たちは『データ集計用のアンドロイド』って顔をして後ろに下がってろ」


「はい、ネタ様。お気をつけて」


「えー、つまんないの。あの金ピカおじさん、もっといじめたかったのに」


リリをなだめつつ、俺は重い足取りでハッチへと向かった。

プシュッ、という排気音とともにハッチが開くと、重武装した数人の執行官たちが乗り込んできた。彼らの視線は鋭く、まずは俺を、そしてその背後に控える二人の「嫁」を、不審そうに一瞥した。


「……観測官ネタ・ロゥ・サーネンだな。不法侵入船の拿捕、ご苦労。……で、これがその『黄金の翼号』か」


執行官のリーダー格が、トラクタービームで固定されたボロボロの金ピカ船を見上げた。


「見ての通りです。勝手に降下しようとして、勝手に故障したみたいですよ。……まあ、日頃の行いが悪かったんじゃないですかね?」


俺がとぼけると、執行官の一人が不自然に焼け焦げた推進器の残骸をスキャンし始めた。


「……おかしいな。故障というよりは、高出力の熱源によって精密に貫かれたような痕跡がある。サーネン、この船の観測レンズに異常はなかったか? あるいは、未知の宇宙現象でも観測したか?」


その問いに、俺の心臓がわずかに跳ねる。だが、ルールーが間髪入れずに俺の神経系をなだめ、冷静な声を脳内に響かせた。


『……ネタ、落ち着いて。私がスキャンデータを改ざんしておきました。……「記録によれば、微細な宇宙塵スペースデブリが超高速で衝突したことによる偶発的な事故」として出力しています』


俺は平然を装い、肩をすくめて見せた。


「さあ。俺はただ寝て……いや、じっと見てただけですからね。地球の重力が、あの成金野郎を拒絶したのかも。奇跡の惑星ですから、お触り厳禁ってことでしょう」


執行官たちは互いに顔を見合わせた。納得はしていないようだが、提示されたデータに不備はない。


「……ふん。まあいい。この男は我々が連行する。それから、この船のログも精査させてもらうぞ。万が一、お前が『何か』をしていたら、ただでは済まんからな」


連行される金ピカ男が「こいつが撃ったんだ! このニヤけた男が!」と喚き散らしていたが、執行官たちは「錯乱しているな」と一蹴して連れて行った。

嵐が去り、再び静寂が戻った船内で、俺は大きく息を吐き出した。


「危ねぇ…」

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