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なんもしないのがお仕事です〜ニートが滅んだはずの地球が謎の再生をしたので観測員になりました〜  作者: 小兎


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11 今どき宇宙海賊って


「俺は地球の観察しかしないぞ! たとえ隣に巨大なラブホが建とうが、俺の知ったことか!」


俺は自室のフカフカなベッドの上で、ララとリリを両脇に抱えながら力強く宣言した。窓の外では、ピンク色のネオンを撒き散らす宇宙ステーション『ルナ・アモーレ』が、まるで宇宙の静寂を嘲笑うかのように完成を祝う光を放っている。


『……。観察、ですか? 昨日のあなたのログには「雲が美味しそうだった」という一行しか残されていませんが。そもそも、ろくに仕事をしていないあなたに、関係ないと言い切る権利があるのか怪しいものです』


「うるさい! 俺の仕事は『何もしない』ことだ。あっちで人類がどれだけハッスルしようが、合コンで盛り上がろうが、俺はこの隔離された聖域で、嫁たちとダラダラ過ごす。それだけだ!」


そう、俺は断固として関わらない。あんなギラギラした繁殖施設に足を踏み入れるくらいなら、一生この船で寝て過ごしてやる。オープン初日の喧騒なんて、ノイズキャンセリング機能でシャットアウトだ。


――だが、運命はどこまでも俺の安眠を許さない。


ピ、ピ、ピ、ピーン!!


鼓膜を突き刺すような、聞き飽きたはずの船内アラートが、かつてない音量で鳴り響いた。


「……ッ、今度はなんだ!? 猫の出産か? それとも二代目の変態エリートか!?」


『……ネタ。事態は最悪です。オープン直後の『ルナ・アモーレ』に、複数の武装艦が接近。……解析終了、宇宙海賊です。ステーションは完全に占拠され、新人類のカップル予備軍たちが人質に取られました』


「……はぁ!? 宇宙海賊? 今時そんな古典的な悪党がいるのかよ!」


『「生物的促進」の効果は、悪党の野心も活性化させたようですね。彼らの要求は、新天地への身代金と……なんと、この地球観測船『レンズ』の引き渡しです。彼らもまた、地球の秘密を独占しようとしています』


モニターには、ステーションの豪華なエントランスを蹂躙する、いかつい武装集団の姿が映し出された。


「……最悪だ。俺の隣でラブホを建てるからこんなことになるんだよ!」


『文句を言っている暇はありません。海賊たちは、返答がない場合は一分ごとにカップルを一組ずつ、宇宙の塵にすると宣言しています。……さあ、観察官殿。出番ですよ』


「俺は……俺はただ、寝ていたいだけなのに!」


俺は泣き言を言うしかない。そもそも


「俺は荒事に関してはプロ級の素人だぞ。無理無理、絶対無理! こういうのは本国の軍隊がシュバッときて、ドカーンと解決する仕事だろ!」


俺は最新のタクティカル・コンソールにしがみつき、生まれたての小鹿のように膝を震わせた。モニターの中では、いかつい海賊たちがステーションの高級シャンデリアをぶち壊している。


『……ネタ、忘れたのですか? この船は前回の事件を受けて、本国が国家予算を投じて重武装・高機動シールドを搭載するアップデートを施したばかりですよ。今の「レンズ」は、ただの観測船ではありません。ハリネズミのような重武装艦です』


ルールーの声が、あきれ果てたように脳内に響く。そうだった。この船には今、俺の知らない物騒なスイッチが山ほど増設されているんだった。


「だからこそだよ! こんな高性能な船、素人の俺が下手に動かして暴発させたらどうするんだ。……そうだ、いい考えがある。ルールー、ヤツらがこの船を要求してるなら、いっそ渡してやればいいんじゃないか?」


『……は?』


脳内で、ルールーが思考停止したようなノイズが走った。傍らでオロオロしていたララとリリも、目を丸くして俺を見ている。


「だってそうだろ? 海賊の目的はこの船だ。なら、無人でこっちからステーションにドッキングさせてやるんだよ。あいつらが大喜びで乗り込んできた瞬間に……本国から遠隔操作で自爆させるか、全ハッチをロックして強制収容所に自動航行させりゃいい。俺たちは脱出ポッドで、地球の裏側にでも隠れて昼寝してようぜ」


『……ネタ、その発想は「戦術」ではなくただの「丸投げ」です。しかも、最新の防衛システムを一つも使わずに宝の持ち腐れにするつもりですか?』


「使い方がわからないんだから仕方ないだろ! 宝の持ち腐れ万歳だ。俺は命が惜しいんだよ!」


『……。あなたの「逃げるため」の発想力だけは、やはり人類の限界を突破していますね。ですが、残念ながら海賊はすでにこちらの武装を警戒して、人質を盾にしながら小型艇で接近中です。もう、逃げる時間は残されていませんよ』


「……うわぁぁ! 来るな! くるなよぉぉ!」


「……よし、決めた。入ってきたら全員『ゴミ』指定だ。まとめてダストシュートから宇宙の彼方へポイしてやる!」


さっきまでガタガタ震えていたのが嘘のように、俺はガバッと立ち上がってコンソールを叩き始めた。極限状態のパニックが一周回って、脳内の変なスイッチが入ったらしい。


『……ネタ? 正気ですか。ダストシュートはあくまで廃棄物用ですよ。武装した海賊を物理的に放り出すなんて、どんな理屈で……』


「理屈なんて後付けだ! ルールー、あのサキの猫軍団を迎え撃った『猫の糞処理監視システム』を今すぐ呼び出せ! あのアルゴリズムを書き換えるんだ」


『は? あの、尻を持ち上げた瞬間に掃除ロボが急行する、あの不毛なシステムをですか?』


「そうだ! 船内スキャンを全開にして、海賊の生体反応を『巨大な動くゴミ』として再定義しろ。奴らが一歩でも土足で踏み込んできたら、新型の高速掃除ロボ部隊を急行させて、有無を言わさず回収・圧縮・ダストシュートへ直行だ!」


脳内のルールーが一瞬沈黙した。おそらく、軍事レベルの演算能力を「排泄物処理の応用」に使うという、新人類史上最も汚い発想を処理しきれなかったんだろう。


『……。解析完了。……ネタ、あなたの発想は最低ですが、システム的には可能です。本船の最新鋭ナノマシン掃除機なら、武装した人間一人を数秒で「梱包」し、排出口まで運搬する出力があります』


「だろ? 本国が付けた物騒なミサイルなんて使い方がわからん。だが、掃除ロボの操作なら、この数ヶ月でマスターしてるんだよ!」


俺は不敵に笑い、ララとリリに指示を出した。


「二人とも、予備の掃除ロボを全部起動しろ。モードは『超強力・粗大ゴミ回収』だ。一匹……じゃなかった、一人も残さず綺麗に掃除してやるぜ!」


『……了解しました。地球観測船『レンズ』、全セクションの掃除ロボを戦闘……いえ、清掃配備。これより、宇宙海賊を「不燃ゴミ」として処理する作戦を開始します』


エアロックがこじ開けられる不気味な音が響く。だが、今の俺に恐怖はない。


あるのは、自分の聖域を汚す「ゴミ」に対する、潔癖症にも似た冷徹な殺意(掃除心)だけだった。



「ヒャッハー! 宝の山だぜ!」

 

エアロックがこじ開けられ、最新鋭のレーザーライフルを構えた宇宙海賊たちが、土足で観測船『レンズ』のメイン通路に踏み込んできた。彼らの頭の中には、本国が積み込んだ最新兵器や地球の機密データ、あるいは豪華な内装を分捕る計画しかなかったはずだ。

 だが、彼らが一歩踏み出した瞬間。船内の照明が、不気味なほど「清潔感あふれる白」に切り替わった。


『――不法投棄物を検知。これより強制清掃シーケンスを開始します』

 

ルールーの無機質なアナウンスとともに、壁際のハッチが一斉に開いた。そこから飛び出してきたのは、本国が改修時に配備した最新鋭のナノマシン掃除ロボ軍団だ。


「……あ? なんだこの丸っこいのは。どけっ、ジャマだ!」

 

一人の海賊がロボットを蹴り飛ばそうとした。だがその瞬間、掃除ロボの天面から、強靭な高分子拘束ネットがシュシュッ! と音を立てて射出された。


「うわっ!? なんだこれ、動けねぇ!」


 ネットに絡まった海賊は、そのまま掃除ロボの底部にある超強力な吸引・牽引システムによって、床を滑るように回収されていく。


「助けてくれ! 足が、足が吸い込まれるッ!」


「こっちに来るな! 撃て、このルン〇みたいな化け物を撃てぇ!」

 

通路のあちこちで、海賊たちがパニックに陥った。彼らが引き金を引くよりも早く、別のロボットが背後から忍び寄り、足首をホールドしては「梱包」していく。最新鋭のナノマシン技術は、武装した成人男性をわずか三秒で、身動き一つ取れない「人間サイズの不燃ゴミ」へと仕立て上げた。


「……よし、いいぞ! 次はあっちのヒゲ面だ。ダストシュートへの搬送ルートを確保しろ!」

 

俺は司令室のモニター越しに指示を飛ばす。


『ネタ、第一波の「ゴミ」十名の梱包を完了。現在、自動搬送ラインに乗せて、最短ルートでダストシュートへ直行させています。排出準備、整いました』


「よし、ポイしちゃえ!」

 

船体下部の廃棄物排出口がガバッと開き、梱包された海賊たちが、まるで宇宙に放たれる豆のように次々と射出されていく。彼らは宇宙服の生命維持装置があるおかげで死にはしないが、その姿は完全に「捨てられた粗大ゴミ」そのものだった。


「ひゃっはー! ざまぁみろ! 俺の船を土足で歩くからだぞ!」

 

リリがモニターを見ながら爆笑し、ララが「お部屋が綺麗になりますね、ネタ様」と微笑む。


『……ネタ、ステーションに残っている海賊のボスが、モニター越しにこの惨状を見て、顔を真っ青にして震え上がっていますよ』


「いいぞ。その調子で、ステーションの方まで掃除ロボをデリバリーしてやろうか?」

 

史上最もやる気のない観察官による、宇宙一「清潔で無慈悲な」防衛戦。海賊たちの阿鼻叫喚は、真空の宇宙へと吸い込まれて消えていった。


「ったく、せっかくの昼寝タイムを台無しにしやがって。ララ、リリ、工作ドローンを全機出せ。こじ開けられたエアロックを速攻で溶接して元通りにするんだ。隙間風が入ったら安眠の妨げになるからな」


俺は不機嫌そうに指示を飛ばしながら、コンソールのサブウィンドウを開いた。


「ルールー、本国経由で隣のステーション『ルナ・アモーレ』の管理局に緊急打診だ。あっちの清掃システムの制御権を一時的にこっちに寄越せって伝えろ。管轄が違うとか手続きがどうとか抜かすだろうが、『今すぐやらないと、そっちのVIP客たちが全員まとめて梱包されるぞ』って脅しとけ」


『了解しました、ネタ。……本国管理局、驚愕していますね。「清掃システムで武装集団を制圧する」という前例のない要求に、AIたちが論理エラーを起こしかけていますが……あ、承認されました。背に腹は代えられないようです』


「よし、回線を開け。……あっちのゴミ箱も、全部『海賊専用』に設定し直してやる」


俺の指先が、掃除ロボの群れを操る指揮棒のように動く。

隣の豪華ステーションでは、生き残った海賊たちが『レンズ』から次々と射出される仲間の姿を見て、パニックに陥っていた。そこへ、ステーション備え付けの業務用大型掃除機や自律走行型クリーナーが一斉に「覚醒」し、彼らを取り囲む。


『ステーション側の清掃ネットワーク、接続完了。……ネタ、あちらの海賊のボスが、ソファの下に隠れようとしていますが、自動バキュームがすでに彼の背後に回っていますよ』


「逃がすな。あいつは特大の『不燃ゴミ』だ。まとめてダストシュートの刑に処せ!」


俺はモニター越しに、ステーション内の海賊たちが次々と「シュシュッ」と白いネットで包まれ、壁のダストシュートへと吸い込まれていく光景を眺めた。


「ふぅ……。これでやっと、静かな夜に戻れるな。エアロックの修理が終わったら、今度こそ二度寝だ。……あ、そうだ。ルールー、後で本国に『掃除ロボの消耗品代』を請求しとけよ。これ、立派な防衛任務だろ?」


『……。本国からは感謝の言葉と共に、「なぜそんな戦い方を思いついたのか」という困惑の通信が止まりませんがね』

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