10 本国で成長促進効果を報告したら
サキ・ミナセが本国へ持ち帰った報告書は、新天地の停滞した社会に、文字通り「生物学的な爆弾」を投下することになった。
「地球型バイオーム内における、特定周波数の生命波動による生殖本能の劇的回復――」
彼女自身の妊娠という、0.05%の奇跡を体現した生きたエビデンス。そして、同行した猫たちが一世代で三倍に増殖したという異常なまでの繁殖データ。これらは、高度なAI管理下で「種としての情熱」を失いかけていた人類にとって、失われた野生を取り戻すための聖杯に見えた。
本国評議会はこの結果に狂喜乱舞した。
「これだ! 人類に必要なのは、効率的な栄養管理ではなく、地球が放つこの『毒』にも似た生命の昂ぶりだ!」
評議会の決定は迅速だった。予算は湯水のように注ぎ込まれ、ネタが漂う地球軌道上には、かつてない巨大プロジェクトの火蓋が切られた。
数ヶ月後、ネタの乗る『レンズ』の窓越しに、異様な光景が広がり始めた。
巨大な建材が次々と次元跳躍で現れ、宇宙空間で組み上げられていく。
「……おい、ルールー。あのアホみたいに巨大な建造物は何だ? 観測用の増設ユニットか?」
『いいえ、ネタ。あれは本国が社運……いえ、種運をかけて建設を決定した、超大型宇宙ステーション『ルナ・アモーレ』です』
「ルナ・アモーレ? 名前からして嫌な予感がするんだが」
『あなたの予感は常に的中しますね。そこは、全人類から選りすぐられた独身男女を集める巨大合コン会場、および、カップル成立後に即座に移行できる新婚旅行専用の極上リゾートホテルを兼ねた、巨大な繁殖促進施設です』
「……はぁ!? 聖域のすぐそばで、人類総出でハッスルしようってのか!?」
『その通りです。地球の生命波動を最も効率よく浴びる位置に、あえて「覗き見」の特等席を作ったわけです。人類はかつてない狂乱のハネムーンを楽しもうとしていますよ』
「……。俺の静かな、何もしない生活が……」
ネタの目の前で、巨大なステーションがピンク色のネオンをまたたかせ、完成に近づいていく。
聖域の番人だったはずの彼は、いつの間にか、宇宙で最も賑やかな「ラブホテルの管理人」のような立場に追い込まれようとしていた。




