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第248話 55日目⑭宴の夜

 すっかり夜の帳が下りた箱庭。あたしたちが漂流初期に生活していた砂浜の拠点前の元炊事場をスウェーデントーチと焚き火の灯りが照らしていて、そこにノアズアークの十五頭全員が集まっていた。


 元々上の砂浜にいたのが仔を産んだばかりのモエギとルビー、三頭の仔たち、子守り役のシノノメとミルで、この七頭には先に食事をさせたので、すっかり満ち足りて各々思い思いの場所に寝そべってまったりとくつろいでいる。


 対して、ついさっきまで津波の漂着ゴミに埋もれてしまっていたモエギとルビーの巣の片付けをしてくれていたノアたち残りの八頭は、今しがたこちらに戻ってきて合流したばかりだからこれから食事となる。

 みんないっぱい働いてお腹が空いている上に、あたしたちがモエギたちに魚を振る舞っているのも見てたから、次こそは自分たちの番だと期待してあたしたちの前で押し合いへし合いしながらあたしたちの前で横一列になって待機している。


「焦らなくてもみんな分はたっぷりあるからね。端から順番だよ。……ドーラ」

「クアッ」


「はい、オニキス。次はマツバ」

「クル」「クウ」


 横並びのたまたま端にいたドーラから順にまず魚の半身を一枚ずつ歩きながら手渡していく。みんな大喜びで受け取ってガツガツと食べていく。


「まだまだあるぞー。柔らかい魚の内臓や貝の身、イカやタコもあるぞ」


 最初の魚の半身に続いて岳人がバケツに入った内臓や頭足類や貝類も配っていく。これはあれだ。味変ってやつだね。

 小骨はあるとはいえ、大きい骨や殻や甲を取り除いたご馳走に後半組もいたく感動したようで、前ヒレで地面をバンバンしたり、嬉しそうに喉を鳴らしたり、首を擦り寄せてきたりと様々な方法で喜びと感動を伝えてくれる。

 

「ふふ。これだけ喜んでくれたらしてあげた甲斐もあるよね」


「そうだな。あの苦労も報われたってもんだ」


 あんなにたくさんあった魚の身も内臓や頭足類や貝の身も、一仕事終えてきた腹ペコの食いしん坊たちを前にしてはあっという間に少なくなっていく。残っちゃうと生ゴミになるだけだからたくさん食べてくれるのは助かる。


 とりあえず用意していた魚の身と内臓、頭足類や貝はぜんぶなくなって、みんなお腹が一旦落ち着いたみたいだから、満腹になった子はそのまま散ってもらい、引き続き食べたい子には残ってもらう。ここからは二次会みたいな感じで。


「じゃあ俺たちもぼちぼち食っていくか。みさち、エイ串から焼いていってくれ」


「おまかせられ」


 一口サイズに切ったエイの身を一度塩水に漬け込んで臭み抜きと塩味を付けて、ハマゴウの粉を振りかけて風味付けして木の串に刺したエイ串。これを焚き火で炙って焼いていくと周囲に香ばしい匂いが漂い始め、この場に残っているノア、ヒスイ、ヒイロが興味深そうに匂いを嗅いでいる。生しか食べたことがないこの子たちにとって火を使った調理はそれだけでエンタメだよね。


 あたしがエイ串を焼いている間にも岳人が次々に串焼きの準備を進めてくれている。食べやすいサイズに切ったイカ、殻を剥いたイセエビやロブスターの尾身。

 ちなみにこのイセエビやロブスターの尾身だけど、頭部との境目にナイフを入れて尾身を引っこ抜き、尾身を覆う殻のサイドをハサミで切ってから殻をベリベリと剥き、尾と一緒に背ワタを引き抜いたもので、そのまま刺身にできるような最高の食材。元のサイズが30㌢を超えてるようなイセエビだからこの尾身一匹分でも何千円もするらしいけど…………それがめっちゃたくさんある。腐らせるのは勿体ないからと片っ端から拾い集めちゃったからね。

 一つ一つがそれなりに大きいので40㌢ぐらいある長い串一本につき二つぐらいしか刺せないけど、それが十本以上はある。こういうエビって群れてるらしいから、群れごと津波に巻き込まれて打ち上げられたんだろうね。


「あの高級食材がこんな雑に串焼き用になってるのって、脳がバグりそうになるねー」


「まあ今更ではあるけどな。ここでは散々贅沢してるし」


 確かに。アワビにタイラギにアカガイ、タケノコメバルにクロソイにトラフグ……と列挙し始めたらキリがない。


「それはそうだね。……エイ串焼けたよー。食べれる?」


「俺はまだ手が汚れてるし作業中だから先に食べな。こっちももうちょっとで終わるし」


「そう? じゃお言葉に甘えて、いただきまーす」


 見た目からして魚より肉っぽい感じのエイの串焼きにかぶりつく。熱々で肉の繊維強めのエイの食感はまるで鶏肉だ。脂っけがあまりないのでむね肉に近い。しっかりした塩味とハマゴウの清涼感のある爽やかな香りも堪らない。


「はふっはふっ! 熱い! でもおいひい! 塩焼き鳥みたい!」


「ふふ。そうだろ。適切に処理した新鮮なエイは旨いんだ」


 意外に美味しいエイに舌鼓を打つあたしを見てノアたちがざわつくけど、こんなに熱々の食べ物はさすがに水棲のノアたちに食べさせたら火傷(やけど)しちゃうと思うから、十分に冷めるまで一旦別にしておく。

 あたしが一本食べ終える頃には十分に冷めてたから、串から外した焼きエイをノアたちの口にポイポイと入れてあげる。身体の大きなノアたちからすれば味見程度の少量だったけど、生ではあり得ない独特の食感と風味は驚きつつも気に入ったらしく、もっともっととおねだりしてきたので、岳人の分はきっちり取り分けた上で残りのエイ串を焼いてノアたちに食べさせる。


 次いであたしはイカ串を焼き始める。たちまちのうちに炎に炙られたイカが縮みながら反り返り、ポタポタと焚き火に落ちたイカの汁が焼けてイカ焼きの暴力的なまでに香ばしい匂いがあたり一面に充満する。イカ焼きってなんでこんなに美味しそうな匂いなんだろう。匂いにつられて満腹になっていたはずの他の子たちまで集まってきた。


「えー、なに? あんたたちもまだ食べたいの?」


「「「クアッ!」」」


「ガクちゃーん、みんなイカ焼き食べたいみたいだから一匹ずつ串に刺すぐらいでいいかも」


「あー、おけおけ。じゃあ俺たち用以外は一匹刺しに変更だ」


 食べやすいサイズに切り分けたイカ串はあたしたち用に取り分けておき、40㌢ぐらいのアオリイカを丸ごと一匹刺した姿焼き串をどんどん焼いていく。

 冷水のバケツを用意して、焼き上がったイカを水にくぐらせて熱を冷ましてから提供していく。

 串に刺さったままの焼きイカを一頭に咥えさせ、串だけ引っこ抜いて岳人に返す。岳人は串に次のイカを刺してあたしに戻し、あたしはそれを焼いて冷まして次の子に提供する。そんな流れでどんどん焼きイカを焼いていき、残ったら一夜干しにしようと思っていたイカも残らずノアズアークのお腹の中に消えた。もちろんみんな大喜びだった。


 一通り落ち着いたので、あたしと岳人も自分たち用の串焼きを再開する。エイにイカにイセエビにタイラギの貝柱。ロブスターのハサミも殻付きのまま焼いている。どれも最高に美味しい。途中でちょっとつまみ食いしたとはいえ、朝食以降ほとんど食べてなかったから空腹感も相まって堪らない。


「では、いよいよイセエビの串焼き、いっちゃいます!」


「おう。こんな贅沢そうそうできるもんじゃないからガブッと盛大にいけ」


 焼き縮んで、それでも特大のフランクフルトぐらいはあるイセエビの尾身にがぶりと(かぶ)りつく。しっかりした歯ごたえのエビの身を噛みしめると凝縮された暴力的なまでの旨味が口の中を蹂躙(じゅうりん)、そうまさに蹂躙する。


「……!? 甘っ! 旨味すごっ! ヤバいよガクちゃん。イセエビってやっぱり別格だね」


「そこまでか。実は俺もこんなにデカくてしかも鮮度抜群のイセエビって食ったことないんだよな。じゃあ俺もさっそく…………おぅ、すごいな。イセエビってこんなに甘かったのか。甘さの質もアルゼンチン赤エビとは全然違って臭みも全く無いし、これは想像以上だ。エビの甘みの概念変わるな」


 岳人もまたイセエビの美味しさに感動している。いやほんとにすごいよ。


「これなら冷蔵庫に取り分けてあるお刺身用も期待できるね」


「そうだな。明日のお楽しみだ。それと、面倒くさいからこのまま捨てるつもりだったんだが、こんなに旨いならイセエビやロブスターの頭でビスクスープも作りたくなってきたな」


「ビスクスープ飲んでみたい!」


「じゃあそれもやるとするか。……お、ノアも焼きエビ食うか?」


「グルゥ」


 すっかり串焼きの虜になってしまったノアたちが再び集まってきたので、イセエビやロブスターの串焼きもあっという間になくなってしまったのだった。











 この話でノアズアーク編終わるって予告してたけど、ごめん。あれ嘘じゃった。実際に書いてみたら一話で収まらなかったです。もうちょっとだけ書きたいエピソード残っているので、もう一話(おそらく)あります。


 今年もそろそろ年度末で確定申告の時期なので、ノアズアーク編を書き切ったらしばらくリアルの方に専念したいと思っています。第四部に関しても色々構想は練っているのですがまだ完全に固まってはいないので、第四部を始める前に本編では書けなかった閑話をいくつか単話で出すかもです。


 さて、ここで一つ残念なお知らせがございます。裏で進行していた話なので今まで公言はしていませんでしたが、実はこの沈没ライフに商業コミカライズのお話があり、かなり具体的なところまで打ち合わせが進んでいてもうすぐ皆さんにも発表できると思っていたのですが、不運が重なり、結局このお話そのものが無くなってしまいました。詳しい顛末はなろうの活動報告とカクヨムの近況ノートにて報告させていただきます。そして、コミカライズに際してプロローグを小説版とは変更することを予定しておりまして、それ用に書き下ろした文章ネームも供養としてそちらにて公開させていただきます。

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― 新着の感想 ―
いいね、最高な描写ですね。
更新ありがとうございます!伊勢エビ一気喰いやってみたか事の一つです!殻ごと!バリバリと!ノアズアークが火を使い始めたりしてw本になるかな?なったらいいなぁ。って思ってた矢先に残念です。
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