十八、
心から食事を楽しんだ鹿島は、再度、小梅と食事ができないかと考えていた。スマホを持たない小梅との連絡は、簡単には取れない。
(誘うなら、この前のように直接、面と向かって言うしかない)
けれど、と思う。
(秋田さんが小梅ちゃんの恋人なら……もう誘うこともできないだろうか)
先日の食事は、この前の花奈の非礼の詫びという体裁があった。
けれど、次にはもう理由さえない。心許ない状態に、鹿島は気を揉んだ。
(中学、高校と、普通に彼女いたけどこんな風にはならなかった。どうしたらいいんだ。せめて、家がわかっていたら、何とでもなるのに)
スーパーモリタから近いと言っていた。家族がいるだろうが、チャイムを鳴らして挨拶するだけなら、何の問題もない、はず。
「あああ、俺、ストーカーか」
飲み仲間の大同に言えばまた笑いの種にされる。そう思うと、名案というより迷案だなと、心の中で笑った。
そして、次の日。スーパーモリタへと足を運ぶ。レジにいないところを見ると、店内をうろうろしているはずだ。鹿島は店内を回って、その姿を探した。
「小梅ちゃん」
店内の真ん中ぐらいの棚の前で、足元に寄せた段ボールの中から、春雨を出して棚に並べている。
「あ、鹿島さん。こんばんは。この前はごちそうさまでした」
素早く立ち上がって、よれたエプロンを手で伸ばす。そして、再びぴょこと頭を下げた。
周りを見ると、店長や秋田や他の店員の姿はない。
鹿島はチャンスとばかりに、言葉を続けた。
「あ、あの、小梅ちゃん。話があるんだけど」
「はい、なんですか?」
「えっと、また今度、デートして欲しいんだ」
「えっっっ」
「こ、恋人とかいるのかな?」
「だ、誰がですか?」
「いや、俺が訊いてるんだけど……えっと、小梅ちゃんは彼氏とかいる?」
「えええ、わ、私ですか?」
「そうだよ」
「いやいやいや、いませんよっ」
「そ、そうなんだ……って、え? そうなの?」
「ははは、まあ」
鹿島は矢継ぎ早に質問した。
「あ、あの秋田さんは? 違うの?」
「ええ、何言ってるんですか。秋田さんはお父さんみたいなもんですよ」
「え、じゃあ、店長さんとか、」
「店長お?」
素っ頓狂な声が出て、小梅が口を塞いできょろきょろと見る。
「 て、店長は、もはやお父さんですっ」
「じゃあメープルのお兄さんたちは?」
「いやいやいや、あり得ません。隼人さんと真斗さんはああ見えてもう結婚しています」
「ええっ? そうなのっ?」
今度は鹿島の声が高らかに上がり、鹿島が口を押さえた。
「じゃ、じゃあっ、本当に恋人居ないんだ」
「そうですよ。あ、今、ちょっとバカにしましたね」
笑いが込み上げてくるのを我慢しながら、口元を手で押さえる。嬉しさの笑み。
鹿島は佇まいを直し、小梅に真っ直ぐ向き合うと、「なら、俺とデート、してもらえませんか?」
持っていたレジカゴが足に当たって痛かった。けれど、そのまま背筋を伸ばした。
「……はい」
その返事を聞いて、鹿島は心の中でガッツポーズをした。




