表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/86

十八、


心から食事を楽しんだ鹿島は、再度、小梅と食事ができないかと考えていた。スマホを持たない小梅との連絡は、簡単には取れない。


(誘うなら、この前のように直接、面と向かって言うしかない)


けれど、と思う。


(秋田さんが小梅ちゃんの恋人なら……もう誘うこともできないだろうか)


先日の食事は、この前の花奈の非礼の詫びという体裁があった。


けれど、次にはもう理由さえない。心許ない状態に、鹿島は気を揉んだ。


(中学、高校と、普通に彼女いたけどこんな風にはならなかった。どうしたらいいんだ。せめて、家がわかっていたら、何とでもなるのに)


スーパーモリタから近いと言っていた。家族がいるだろうが、チャイムを鳴らして挨拶するだけなら、何の問題もない、はず。


「あああ、俺、ストーカーか」


飲み仲間の大同に言えばまた笑いの種にされる。そう思うと、名案というより迷案だなと、心の中で笑った。


そして、次の日。スーパーモリタへと足を運ぶ。レジにいないところを見ると、店内をうろうろしているはずだ。鹿島は店内を回って、その姿を探した。


「小梅ちゃん」


店内の真ん中ぐらいの棚の前で、足元に寄せた段ボールの中から、春雨を出して棚に並べている。


「あ、鹿島さん。こんばんは。この前はごちそうさまでした」


素早く立ち上がって、よれたエプロンを手で伸ばす。そして、再びぴょこと頭を下げた。


周りを見ると、店長や秋田や他の店員の姿はない。


鹿島はチャンスとばかりに、言葉を続けた。


「あ、あの、小梅ちゃん。話があるんだけど」


「はい、なんですか?」


「えっと、また今度、デートして欲しいんだ」


「えっっっ」


「こ、恋人とかいるのかな?」


「だ、誰がですか?」


「いや、俺が訊いてるんだけど……えっと、小梅ちゃんは彼氏とかいる?」


「えええ、わ、私ですか?」


「そうだよ」


「いやいやいや、いませんよっ」


「そ、そうなんだ……って、え? そうなの?」


「ははは、まあ」


鹿島は矢継ぎ早に質問した。


「あ、あの秋田さんは? 違うの?」


「ええ、何言ってるんですか。秋田さんはお父さんみたいなもんですよ」


「え、じゃあ、店長さんとか、」


「店長お?」


素っ頓狂な声が出て、小梅が口を塞いできょろきょろと見る。


「 て、店長は、もはやお父さんですっ」


「じゃあメープルのお兄さんたちは?」


「いやいやいや、あり得ません。隼人さんと真斗さんはああ見えてもう結婚しています」


「ええっ? そうなのっ?」


今度は鹿島の声が高らかに上がり、鹿島が口を押さえた。


「じゃ、じゃあっ、本当に恋人居ないんだ」


「そうですよ。あ、今、ちょっとバカにしましたね」


笑いが込み上げてくるのを我慢しながら、口元を手で押さえる。嬉しさの笑み。


鹿島は佇まいを直し、小梅に真っ直ぐ向き合うと、「なら、俺とデート、してもらえませんか?」


持っていたレジカゴが足に当たって痛かった。けれど、そのまま背筋を伸ばした。


「……はい」


その返事を聞いて、鹿島は心の中でガッツポーズをした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ