十九、
「これ、」
ショーウィンドウの中の指輪を見る。
(これ、小梅ちゃんに似合いそうだなあ)
ふわふわと心地よい空気を感じながら、鹿島は横へとずれた。
「これも、似合いそうだ」
今度は口から出て言葉になり、それを受けてショーケースの向こう側にいる店員が前へと出てくる。
「新作です、可愛いですよね。ダイヤのカットが素晴らしいんですよ。で、こちらがですね、」
「あ、すまない。購入するわけじゃないんだ。この上からでいい、ちょっと見させてくれ」
店員はすっと後ろへと戻り、もちろんです、と笑顔で言う。
視線をケースへと戻すと、鹿島はそのまま横へと進んだ。
(初めてのデートでプレゼントなんて渡したら、びっくりさせちゃうだろうな)
「そんなことはありませんよ。女性はプレゼント、嬉しいものです」
店員の控えめなコメントを聞いて、鹿島は独り言を言っていたことに気づいて、苦笑した。
「そうかな。引かれないだろうか」
「大丈夫です。喜んでもらえますよ」
その言葉で、鹿島はゴールドのブレスレットを購入した。プレゼント用の包装は、きらびやかで目に眩しい。
鹿島はそれをそっとカバンに入れて、軽い足取りで駅まで向かった。
駅で待ち合わせなんて久しぶりだ、そう思いながら腕時計を見る。改札を行き来している人々を見ていると、その中に背の低い小梅の姿が目に入った。
手を上げると、とととっと小走りで走ってきて、鹿島さんっと名前を呼ぶ。
(ああ可愛いな)
鹿島の中にそんな気持ちが芽吹く。
「遅れてすみません」
腕時計を見ながら「全然、遅れてないよ」と言う。
「今日は、メープルも定休日なんだね」
「はい、あそこはモリタに休みを合わせてあるんです。モリタのお客さんが、買い物帰りに寄っていくんで……」
Tシャツに裾のすぼまった黒の短パンを履いていて、この前のワンピースとはまた違う雰囲気だ。若さも手伝って、カジュアルな服装も似合っている。
「あ、あの、」
おずおずと訊ねる。
「こ、これって、デートです、か?」
鹿島は慌てて言った。
「俺はそのつもりだけど、嫌だったら言って」
「や、違うんです。デートとかって、初めてだから、どうして良いかわかんなくて」
鹿島は眉を下げながら、「したことないの?」
「はい。高校出てからずっと働いているんで」
「こんなこと訊いて良いのかわからないけど、親御さんは?」
「今はもういないんです。高校に入る頃に二人とも車の事故で亡くなって。私、おばあちゃんに育ててもらったんで」
「え、じゃあ、今そのおばあちゃんが入院してるってこと?」
「そうなんです。だから、私が働かなくちゃ」
にこっと笑う。
「え、っと」
言葉を失った。何と言っていいのかがまるでわからなくなった。
まだ君は18歳だというのに。そう呟くと、「うそうそ、私19ですよ」と言う。
「高校を出て働いて、これでも社会人二年目なんですよ」
須賀が18歳だと言っていたと伝えると、須賀さんめー‼︎ と叫ぶ。
年齢のことは、須賀が勝手にそう勘違いしたらしいという話で落ち着いた。
(1つだけ、差が縮まったな)
苦笑する、いや、含み笑いをする。
次の言葉を探る鹿島を見て、小梅が笑った。
「ごめんなさい、こんな話。重いですよね。えっと、今からどこに行くんですか?」
そして、鹿島はゆっくりと頷いて、口を開いた。




