悪魔の計算違いと、男たちのノーサイド
ほのかの敗北(と生駒のフィアンセ化)を期待して高笑いで会場へ乗り込んできた神崎葵統括課長を待ち受けていたのは、予想外すぎる大逆転劇と生駒の電撃告白! 葵の夫であり関東東部を統括する神崎誠ブロック長の器の大きさと漢気あふれる激励、そして悔しがる悪魔をよそに全員で向かう大打ち上げ大会の賑やかな模様をお楽しみください!
オータム新人研修が終盤を迎える頃――。
『ドラッグラベール白鳥駅前店』の店舗には、ほのかの「骨を拾う」ためにやってきた本部の悪魔・神崎葵が高笑いを響かせていた。
「フハハハハッ! そろそろ会場では、生駒遼と白石ほのかのウェディングベル(フィアンセ決定)が鳴り響いている頃かしらねぇーっ!?」
事務所で腕を組んでいた氷室涼香が、キッと葵を睨みつける。
「そんなことありませんわ! 白石さんはあの分厚いテキストと症例報告に死に物狂いで取り組んだのですもの! 必ず白鳥店の意地と底力を見せてくれますわ!」
「ほぅ……? 全社過去最高点の氷室薬局長様がそこまで仰るとは……なかなかの自信じゃないの!」
「でもでも……噂に聞く生駒君って、本当にすごい人なんでしょ?」と有栖川まひろも心配そうに食いつく。
実習生のあげはが、長い爪を弄りながら溜息をついた。
「いやいや……まひろ先輩、慶旺はマジでヤベーっしょ……。完全に口だけじゃなくて超エリートっしょ。流石に勝ち目は薄いっしょ……」
それを聞いた神崎葵は、ニヤリと悪魔の笑みを深めた。
「よしっ! ならば私のコネと統括権限で、終わり際の奴らの泥沼の死闘を現地で見届けてあげようじゃないの!! ……っまあ、死闘になればの話だけどねッ!!」
「「「負けません!!」」」
こうして、今回は完全に「敵のボス」である大悪魔・神崎葵の引率のもと、涼香、まひろ、あげはの3人は新人研修のフィナーレ会場へと乗り込んだのだった。
だが――会場のドアを開けた瞬間、彼女たちの目の前に広範囲の衝撃的な光景が飛び込んできた!
ステージ前で無惨に膝から崩れ落ちている慶旺のエリート・生駒遼!
その横で、涙を拭いながら誇らしげに勝ち誇る白石ほのか!
そして何故か、顔を真っ赤にした生駒から大声で「好きだ!!」と決死の告白をかまされている小寺結衣の姿……!!
「どっ……どういうことなのよーーーーっ!!???」
いつになく激しく動揺し、目を剥く神崎葵。
「こっ……これは何かの罠よ!! あり得ないわ!!」
パニックになる葵の元へ、体格の良い見慣れないスーツ姿の男が呆れ顔で歩み寄ってきた。神崎葵の夫であり、関東東部ブロックを束ねる統括ブロック長――神崎誠である。
「葵〜……なにいきなり怒鳴り込んできて騒いでんだオメェ……」
「だって誠っ! こんな……え!? 生駒が負けるわけないでしょ!!」
「勝ったんだよ、白石くんが。凄かったぞあいつの症例報告。……つーか、白石くんだってお前の部下なんだから、素直に喜べばいいじゃねーか」
「なっ……なんだとおぉぉーーーーっ!?」
後ろで見守っていた白鳥駅前店のヒロインたち(涼香・まひろ・あげは)は、「やったぁぁぁ! ほのかちゃんが勝ったぁぁぁ!」と大喜びで抱き合っていた。
ふと、悪魔が混乱しながらなら囁く。
「有栖川ちゃん!氷室ちゃん!ライバルが1人減らなかったのよぉ!?」
「そんな棚ボタみたいな形で勝っても……意味なんてありませんわッ!」
涼香とまひろがバチバチと火花を散らす横で、神崎誠は等々力隆弘ブロック長の方へと向かって歩き出した。
「等々力ブロック長、流石です……。絶対にウチの生駒が上回ると思ってましたよ……」
「いや……私も正直、彼が勝つと思っていましたよ。これも陣内君と氷室君の日頃の熱心な指導と、白石君本人の努力のおかげです。小寺君も非常に健闘してくれた。我がブロックの誇りですよ」
誠はニッと不敵に口角を上げた。
「フッ……次は譲りませんよ、等々力さん」
「勝ち負けそのものが目的ではないが……こうして若手がお互いを高め合うイベントは実に重要だ。君も我がブロックに負けない素晴らしいチームを作り給え」
「分かりましたよ……等々力ブロック長」
男たちの熱い視線が交差する。
そのまま神崎誠は、まだ床で呆然としている生駒遼の元へと歩み寄った。
「負けて傷心して、訳の分からん告白してるところ悪いが……生駒よ。俺からもお前の健闘を讃えよう。今年の新人戦は伝説回になりそうだ」
生駒は悔しそうに拳を握りしめ、声をごわつかせた。
「しっ……しかし……僕は最優秀賞を約束されたような男! なのに無様に……無様に負けたんです……!」
「勉強できてもバカだな、オメェは。……負けて良かったじゃねーか」
「「「「「!!??????」」」」」
誠の不意の一言に、周りで聞いていた全員が耳を疑った。
誠はポケットに手を突っ込み、眼光を鋭くして生駒を見下ろした。
「太正製薬様がお前をうちの現場の研修に出した理由はなんだ? 単に現場の売り場を知るためだけか? お前は将来、向こうの代表取締役副社長か専務になる男だろ。それまでの人生で『負け』の悔しさも知らねぇような雑魚のまま上に立ったら……人間の伸びしろなんて知れてるだろ」
「しっ……しかしっ……!」
「負けて悔しいか? 悔しいならもっと泥臭く励め! 太正製薬にとっても、うちのドラッグラベールにとっても、本当の意味で必要な『ド級の男』になるための、最高の試練じゃねぇか」
誠の男気あふれる言葉に、生駒の瞳からポロポロと涙が溢れ出した。
「はっ……はいっ!! ありがとうございます、神崎ブロック長!!」
一瞬にして、緊迫していた会場全体が温かな感動と拍手に包み込まれた!
神崎誠はハハハッと豪快に笑うと、手を高く叩いた。
「よし! 等々力さんも、葵も、陣内君も、そこの白鳥駅前店の賑やかな連中も! これから全員でドカンと打ち上げに行くぞ!! みんなの健闘を讃えようじゃないか!」
「「「おーーーーーっ!!!」」」
歓喜に沸き立つ一同の中でただ一人――「キーーーーーッ! 私の完璧なシナリオがぁぁぁーーーっ!」と髪を振り乱して1人で悔しがり続ける、本部の悪魔・神崎葵なのだった。
【打ち上げ会場・居酒屋の個室】
「 ほのかちゃんの奇跡の逆転勝利に、生駒君の更生と電撃告白、そして神崎ブロック長の漢気……! 感動で胸がいっぱいだ!
乾杯の音頭が響く中――ひとり感動する陣内拓海。
隣では最優秀賞に輝いたほのかちゃんが「拓海さん! 私、拓海さんのために頑張りましたっ♡」と満面の笑みでビールを注いでくれ、反対側では涼香さんが「拓海さん、私も白石さんの指導を頑張りました……♡」とトロンとした瞳で迫ってくる。
さらには、生駒から突然告白されて顔を真っ赤にしている小寺結衣ちゃんと、それを必死で口説こうとしている生駒の姿。
感動とカオスの中
俺は震える手でポケットから取り出した『ラベール胃腸薬プレミアム』を、誰にも気づかれないよう素早く口の中へ叩き込み、賑やかな宴の渦の中へと飲み込まれていくのだった。
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