奇跡の16点と、電撃のラブロマンス
絶望の15点差から、臨床症例(5-FU流涙症への防腐剤無添加点眼提案と眼科連携)で叩き出した奇跡の「16点」! 総合点「179点 vs 178点」という超ハイレベルな死闘を制し、見事最優秀新人賞に輝いたほのか! そして、敗北した生駒に手を差し伸べる陣内の包容力と、生駒のまさかの電撃心変わり(小寺結衣への突然の告白)で会場がカオスに包まれる怒涛の展開をお楽しみください!
僕は生駒遼。
最優秀新人賞の獲得を、ほぼ確実に確定させたようなものだ。
いま僕は、我がフィアンセ(白石ほのか)が最期のあがきで【臨床症例報告】を行う姿を高みの見物と決め込んで眺めているところだ……。
結局、任意提出の臨床報告を行う者などほんの数名しかいないようだ……フッ。しかも歴代の新人研修でも、症例報告に付く点数など数点(せいぜい3〜4点)が付くかどうかだという。
涙目になりながら、ほのかが緊張した面持ちで発表席へとつく。
(……こんな絶望的な状態で、諦めもせず僕に立ち向かってくるとは……何というヤツ! ますますゾクゾクするぞ、白石ほのか!!)
だが! 我が慶旺大学の医学薬学教育は日本一ぃぃぃーーーッ!! できんことはないーーーっ!!
過去の症例報告における全社最高点は「9点」だったはずだ。
仮に、万が一彼女が過去最高タイの「9点」を取れたとして……っ!!
(それでも合計172点だ!! 僕の178点という超高得点に、6点差まで迫る女ということ! フッ……我が妻にふさわしいではないか……!)
マイクの前に立ったほのかが、意を決して発表を始めた。
「でっ……では……症例発表をはじめます……! 私は店舗にて、72歳男性のお客様の接客を行いました。ご来店時、『最近目がおかしくて涙が止まらない』とのことでした。手足に軽度の色素沈着と腫れが見られ、お身体も痩せていらっしゃいましたので、ただのドライアイではないと判断し、プライバシーに配慮して健康相談ブースへご案内し、細かく既往歴・服薬歴を確認いたしました」
ほのかの通る声が会場に響く。
「聞き取りの結果、大腸がんの術後補助化学療法を行っていらっしゃることが判明しました。レジメンはFOLFOX療法(5-FU+エルプラット等)でした。私は、抗がん剤である5-FUの副作用による『5-FU誘発性流涙症』を疑いました。患者様からご了承をいただいた上で、主治医および近くの眼科クリニックへ情報提供・トレーシングレポートを送付いたしました」
「5-FUによる流涙症の場合、一般の防腐剤(ベンザルコニウム等)入り点眼薬やヒアルロン酸点眼の使用により、角膜障害や症状悪化をきたすリスクがあります。そのため、まずは防腐剤無添加の点眼薬を提案させていただきました。軽症段階であったため、角膜上に残存する抗がん剤成分を洗い流す目的で、防腐剤無添加の人工涙液(ソフトサンティア等)を1日6回、1回2〜3滴で使用していただき、その後眼科を受診された結果、劇的に症状が改善されたという一例です」
ほのかが深々と一礼する。
(フフ……白石ほのか……。それでは……ただ目薬を一箱選んで売っただけではないか……! これで僕の勝――ん?)
発表が終わった直後、審査員席のファシリテーター(専門薬剤師・本部幹部たち)がガヤガヤと大きくざわつき始めた!
「……おい、あの患者様から本部に届いた『感謝状』、この症例のことじゃないか!?」
「ただの市販薬販売じゃないぞ! 早期に5-FUの流涙症を見抜き、防腐剤の有無まで考慮して眼科連携まで繋げている……!」
「1年目でこんな高度な臨床アプローチとOTCカウンセリングができるのか!?」
「陣内君! 素晴らしい教育成果ではないか!!」
くっ……何だ!? 何が起きているんだ……っ!?
そして――緊迫の最終集計結果が、スクリーンへ大音響とともに表示された!
『【症例検討・評価点】白石 ほのか:16点(全社過去最高得点・特例加点)!!』
「「「「!?!?!?!?!?」」」」
なん……だとっ……!?
めっ……目薬に! 目薬一箱の臨床フォローで『16点』だとーーーーっ!!??
『【総合集計結果】』
『白石 ほのか:179点』
『生駒 遼:178点』
「今年は両者ともに過去最高得点を塗り替える、非常にレベルの高い死闘となりました!! 本年度の最優秀新人賞は……白石ほのかさんです!!!」
「「「ワーーーーーッ(大歓声)!!!!」」」
割れんばかりの拍手と歓声が巻き起こる会場の中、僕は膝から崩れ落ち、そのまま床へ倒れ込んだ。
(僕が……この僕が……負けた……だと……!?)
茫然自失となる僕の視界に、ぬっと差し出される無骨で鍛え抜かれたゴツい手。
見上げると――そこには陣内拓海が立っていた。
「実に君は優秀だ! 生駒君。君という最高のライバルがいたからこそ、ほのかちゃんも限界を超えて良い勉強ができたのだろう……素晴らしい戦いをありがとう!」
眩しいほどの包容力と爽やかな笑顔。
くっ……敵である僕に、なぜそんな優しい顔ができるんだ……!
こ、これが……白石ほのかのフィ……フィアンセだというのか……っ!!
その時――僕のすぐ隣に、派手さはないが、可憐で優しげな雰囲気を纏った小寺結衣がそっと佇んでいた。
「ほのかちゃん凄かったけど……生駒君も本当に凄いね! 最初はおうちが凄いだけの人なのかなって思ってたけど……私の完全な勘違いだったよ。私だったら、家が凄かったらそこまで努力できないもん。生駒君、すごくカッコいいよ! 本気で将来代表取締役になろうとしてる気概を感じたよ!! 私なんて症例検討しても、全然及ばなかったな……」
(はっ……な、なんて可憐で誠実な彼女なんだ……っ!!)
敗北で傷ついた僕の心に、彼女の温かな言葉がじんわりと染み渡っていく。
胸の奥から湧き上がる衝動を抑えきれず、僕はとっさに大声で叫んでしまったんだ……!
「こっ……小寺結衣ッ……好きだーーーーっ!!」
「「「「!!??????」」」」
静まり返る会場。
目を見開いて「ええっ……!?」と顔を真っ赤にする小寺結衣。
(はっ……僕は何を叫んでいるんだーーーーッ!?)
あまりにも異例尽くしの展開に、オータム新人研修の会場は爆発的な大騒然と化したのだった!
【会場後方・陣内拓海】
「……はぁー……はぁー……っ! ほのかちゃんの奇跡の逆転勝利は感動的だったが……最後の生駒君の謎の電撃告白で……脳内の処理が完全にパンクしたぞーーーーッ!!」
怒濤すぎるドラマの連続に、俺――陣内拓海は冷や汗を滝のように流しながら自室の胃を強く押さえた。
ほのかちゃんの涙の感動、生駒の敗北と更正、そして小寺結衣へのまさかの突然のラブコメ乱入。
(あ、あかん……! めでたしめでたし……なんだろうが、俺の胃袋とメンタルが今日一日で寿命を何年分削られたか分からへんーーーっ!!)
俺は震える手でポケットから『ラベール胃腸薬プレミアム』を取り出すと、激しく悲鳴を上げ続ける胃袋に向けて一気に喉奥へ流し込むのだった。
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