神崎葵の野望と、悪魔の朝礼宣言
昨日の大暴走と大騒動の翌朝、気まずさと動揺で出勤した涼香たちヒロイン陣を待ち受けていたのは、神崎葵統括課長の破天荒すぎる「野望」と「欲望肯定論」全開の朝礼! まさかの夫(神崎誠)との代表取締役争い宣言、等々力・陣内への宣戦布告、そしてヒロインたちへの悪魔の激励(?)に慄く一同と、胃薬を握りしめる陣内のドタバタ劇をお楽しみください!
翌朝――。
『ドラッグラベール白鳥駅前店』の店舗前で、氷室涼香は足を止め、激しい葛藤と恥ずかしさに身を悶えさせていた。
(ど、どうしましょう……! 昨日はショッピングモールの真ん中で泣き叫び、そのまま拓海さんの部屋で毛布にくるまってポヤポヤするなんて……とんでもない醜態を見せてしまったわ……! 今日からの現場で、一体どんな顔をしてスタッフたちの前に立てばいいのよ……!)
逃げ出したいような心地で戸惑っていると、後ろから声をかけられた。
「なによー涼香ちゃん! 何で入口で固まってんの? 早く入んなさい!」
振り返ると、そこには不敵な笑みを浮かべた神崎葵統括課長と、スーツ姿の等々力隆弘ブロック長が並んで立っていた。
「は、はわわ……っ! か、課長……お、おはようございます……!」
恐る恐る店内に入り、朝礼が始まる。
昨日の「私だもん!」宣言をまひろとほのかに見られてしまった手前、涼香は顔を上げることができず、ひたすら俯いていた。
そして肝心の陣内拓海はといえば、昨夜の刺激過多と胃薬倍プッシュのダメージが残り、完全に魂の抜けた放心状態で壁にもたれかかっている。
そんなカオスな空気の中、神崎課長がパンパンッ! と豪快に手を叩いて前に躍り出た。
「はいはいはい! 全員注目ーーーっ!! 昨日臨時で店舗に入ってくれた等々力ブロック長だけどね、白鳥駅前店の現場にいたく感激されてたわよーっ!」
(そ、そんなところを褒められても……)と涼香が胃を痛めていると、等々力ブロック長が重厚に頷いた。
「素晴らしい出来だ。隅々まで清掃が行き届き、POPや売り場作りも社内トップクラスだ!」
「でしょ〜!? そしてぇー!? 昨日の何かで『コツ』を掴んだ諸君も、今日は実に素晴らしい顔つきをしてるわーーーっ!!」
「「「(((????)))」」」
涼香、まひろ、ほのかの3人は思わず顔を見合わせた。昨日、自分たちが陣内の自宅で繰り広げた泥沼の愛憎劇とパニックを、一体どう解釈したら「素晴らしい顔つき」になるというのだ!?
神崎課長はニヤリと笑うと、等々力ブロック長に向かって胸を張った。
「特別に! この等々力ちゃんにも私のプロデュース哲学を教えてあげるわ!」
「何だと……?」と怪しむ等々力ブロック長。
神崎課長はビシッと人差し指を天に突き上げた!
「それはぁーーー……ズバリ! 『欲望』よっ!!」
頭上に大量のクエスチョンマークを浮かべる一同を前に、神崎課長はクワッと目を剥いて力説を始めた!
「昨日はみんな、己の欲望を存分に発散したようね!! 大いに結構! 患者様やお客様に『より良いサービス』を提供するためには、まず提供する側に巨大な『欲望』が必要不可欠なのよッ!」
「良いかしら!? この等々力ちゃんだってね、血の滲むような猛勉強の末に今のエリートの地位と、最愛のシュガーちゃん(環奈さん)を手に入れたわ! 向上心のない1薬剤師や仕事の出来ない奴には、到底クリアできない領域よ!」
「白石ちゃん(ほのか)の感染予防指導には、高校生(美園太)が鼻の下を伸ばしまくって群がり、結果として薬学部を目指す未来の才能を生み出したわ!」
「有栖川ちゃん(まひろ)には『綺麗になりたい』女子高生たちが押し寄せ、卓越したメイク技術でマスカラを完売させて物品を売り抜いた!」
「氷室ちゃん(涼香)の美しさを見たいがためにうろつく常連客が大量発生し、普段ならスルーされるような『響声破笛丸』を買い求めるロックスター(桐生)まで現れた!」
「小寺ちゃん(結衣)は、高額な分子標的薬をさばきながら、せっかちな患者様をゆるくいなすプロの力を開花させた!」
「そう! すべては『欲望』を発散したからよ!! 己の欲望に正直になれない奴には、患者様の悩みの深さや『もっと良くなりたい』という欲望を理解することなんて不可能なのよ! フハハハハッ!!」
圧倒的な屁理屈と熱量に、店内全員が呆気にとられて開いた口が塞がらない。
「そしてぇーーーッ!! この私と、夫である神崎誠夫妻の野望はーーーッ!! 将来、どちらかがグループの『代表取締役社長』に登り詰めることなのだぁーーーっ!! よって! ここで将来の大きな障壁になるであろう等々力ブロック長! そして陣内拓海に、正式に宣戦布告しまーーーすっ!!」
「「「「!!??????」」」」
社内トップを狙う大悪魔のビッグすぎる野望と、突然の宣戦布告!
店舗全体がビビり散らかしている中で朝礼は終了し、神崎課長はコソコソと涼香、まひろ、ほのかの3人を事務所の裏へと呼び出した。
悪魔の表情から一転、少しだけ真面目な顔になった神崎課長は、フッ……と優しく微笑んだ。
「……安心しなさい。拓海くんはね、必ずあなたたち3人のうちの『誰か』を選ぶわ」
「「「……っ!?」」」
「私と話している時のあいつと、あなたたちと接している時のあいつは……全然目の色と顔つきが違うもの。……まあ、私には最愛のパートナー(誠)がいるしね! 私に興味を示さないのは当然なんだけど……少しだけ女として傷つくわね(笑)」
神崎課長は3人の肩を順番にぽんぽんと叩いた。
「大丈夫! たとえこの恋の勝負で敗れる子が出たとしても、拓海くんを本気で好きになって綺麗に磨かれたあなたたちは……間違いなく『最強の女』になれるわ! 頑張りなさい!」
大悪魔からの思いがけない温かい激に、胸を熱くしかけた3人だったが――次の瞬間、神崎課長は極上の悪魔の笑顔を咲かせたのだった。
「そしてぇ〜♪ 全員、将来社長になる我が夫婦の最高の下僕(部下)になるのよーーーっ!! フハハハハッ!!」
「「「(((やっぱり悪魔だーーーーッ!!)))」」」
こうして、朝から全員が恐れ慄く前代未聞の朝礼が幕を閉じたのだった。
【調剤室の陰】
「神崎課長め……まさか等々力ブロック長と俺に向かって『代表取締役の座を賭けて宣戦布告』してくるなんて……っ!!」
ようやく正気を取り戻した俺――陣内拓海は、胃の痛みに耐えかねて調剤室の陰へ逃げ込んでいた。
神崎課長の底知れぬ野望、等々力ブロック長からの熱い視線、そして昨夜の「私だもん!」の爆弾から覚醒した涼香さん、前かがみアタックのまひろちゃん、あ〜ん手料理のほのかちゃん……。
(あ、あかん……! 店舗の売上は過去最高だが、俺の周りの人間関係と環境がスケールアップしすぎて……キャパシティが完全に限界突破してるーーーっ!!)
俺はダラダラと冷や汗を滝のように流しながら、ポケットから取り出した『ラベール胃腸薬プレミアム』の袋を固い拳で握りしめ、来るべき府中出張とさらなる波乱の予感に震えあがるのだった。
「少しでも『面白かった!』『続きが気になる!』と思ってくださったら、下部の【★で評価する】や【ブックマーク】を押していただけると執筆の大きな励みになります!」




