天使の包容力と、逃げ場なきアパートメント
ポヤポヤ覚醒の涼香と過激アピールに走るまひろを前に、妹・有珠の助言(「お兄ちゃんを一番長生きさせられるのはほのかちゃん」)を受けて立ち上がった白石ほのか! 「胃に優しい愛情手料理&上目遣いあ〜ん」で極限状態の陣内を包み込み、怒涛の家飲みサバトがカオスなまま終結する
私、白石ほのかは、目の前の狂乱を冷や汗交じりに観察していた。
さっきショッピングモールの真ん中で涙目の大暴走をかました氷室薬局長は、完全に「あちらの世界」へ旅立たれてしまったようだ。
いくらなんでも修羅りすぎである……。
今は拓海さんの綿毛布に包まり、トロンとした瞳でフハフハと匂いを嗅ぎながらニコニコしている。破壊力と半端なさがあり得ないレベルだ……。
そして、先ほど高速で親友にLINEを打っていた有栖川まひろちゃんはまひろちゃんで、別の方向へ修羅っていた。
なによなによ! あのあからさまなミニスカの太ももアピールと前かがみアングルは!
さっきの地獄絵図から、どうやってそんな一瞬で立ち直って攻勢に転じているのよー!!
(はっ……! さっき等々力ブロック長が言っていたお話……!)
等々力ブロック長を一発KOした奥様の『シュガーちゃん』は、まひろちゃんとあげはちゃんを足して2で割ったようなタイプ……。
そして来週、まひろちゃんは府中での勉強会とサントゥリーのビール工場見学で拓海さんと二人きりになる……。
(コイツ……! 薬局長の痛恨の一撃でパニックになっている『女慣れしていない拓海さん』を、その刺激で完全に殺りに来てやがるわ……っ!! ち、ちくしょう……! 私には……私には何もないの……!?)
焦りでキーッとなっていると、ニヤニヤ顔が止まらない有珠ちゃんがトコトコと私に近づいてきた。
私の作った『胃に優しい出汁巻き卵』をパクッと口に含むと、嬉しそうに目を細める。
「んーっ♪ ほのかちゃんの卵焼き、すっごく好きーっ! あのね、お兄ちゃんはね……最近30歳になって、少しサッパリした優しい味が好きになってきたんだよ? ほのかちゃんが、お兄ちゃんを一番長生きさせられそうね♪ ほら、あっちの二人は刺激が強すぎて、お兄ちゃん完全にパンクしてるもん。胃薬も倍プッシュしちゃって、どうしようもない感じだよ?」
「(はわわわ……っ! か、可愛いぃー……っ! 有珠ちゃんにならいくらでも卵焼き作ってあげたくなっちゃうーっ!)」
……ううん、ダメよ! しっかりしなさいほのか!
私だって、あの二人のような『恋愛モンスター』たちに必死で食らいついているんだから!
今の私には、栄養士並みの健康知識と料理の腕がある!
(この私の『ゲキカワ・癒やし料理』は社内ナンバーワンよーっ! 負ける要素なんてないんだからーっ!)
有珠ちゃんは私の背中をポカポカと叩いて煽ってくる。
「ほらほら〜! お兄ちゃんを助けてあげてよ〜! あんなに動揺してるお兄ちゃん、見たことないんだから! もう奴の胃はもうゼロよっ!」
訳の分からないアニメ名言を言っている場合じゃないわ!
助けるのよ! 白衣の天使たるこの私が!!
私は意を決して立ち上がると、前かがみでアピール中のまひろちゃんの横へ、ちょこんと可愛らしく座り込んだ。
女慣れしていない超エリア長(拓海さん)の思考回路は完全にショートしている。
今こそ、私の番だもん!!
私は上目遣いに拓海さんの顔をじっと見つめ、優しく卵焼きを差し出した。
「あっ……あの……拓海さん……。いつも皆を支えてくれて、ありがとうございます……♪ はい……あ〜ん……して?」
極限状態だった俺(陣内拓海)は、吸い寄せられるように壊れそうな体を起こし、ほのかの手から直接、温かい卵焼きにかぶりついた!
「「((!?!?))」」
これには、脳内ショート中だった涼香さんも、小悪魔アピール中だったまひろちゃんも、目を見開いて驚きを隠せない!
じんわりと広がる出汁の優しさと、ほのかの温かな包容力。
「……今日、一番安心したよ(※まひろと涼香さんの刺激が強すぎた)。……ほのかちゃん、おいしい……」
「〜〜〜〜っっ……♡(勝った……!!)」
ほのかは胸の中でガッツポーズを決めた。
(まだまだよ! まだまだ!! この泥沼の拓海さん争奪戦はこれからなんだから! 私は絶対に負けないわ!!)
それを見つめる有珠は、満足そうにフッと笑った。
(ふふっ……本気だわ、三人とも……。これは後で葵ちゃんに報告ね♪ 一体誰が私のsister(義理の姉か妹)になるのかしら……みんな全員可愛すぎるから、誰がなっても絶対に退屈しなさそうね!)
夜が更け、カオス極まりない陣内宅での家飲みサバトは、なんとかお開きを迎えた。
だが――。
「拓海さん、今日は本当にお布団ごちそうさまでした……♡」(涼香)
「拓海さん! 来週の府中出張、楽しみにしててくださいねっ♪」(まひろ)
「拓海さん、また胃に優しいお弁当作ってきますからね♪」(ほのか)
秘密の隠れ家であったはずのアパートの場所をヒロイン全員にガッツリ突き止められ、今後の逃げ場が完全に失われたことを悟った陣内拓海。
(あ、あかん……! 休日が終わっても……俺の胃の休まる場所がどこにも存在しねぇぇぇーーーーッ!!)
立ち去っていく3人の後ろ姿と、笑顔で手を振る妹の有珠を見送りながら、陣内は冷や汗を滝のように流し、力なく玄関のドアを閉めるのだった。
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