ロックスター桐生と、魔女の授けた秘薬
オータムフェスのライブで喉を酷使した往年のロックスター・桐生(年齢不詳)が来店! 意を決して声をかけたミニ魔女姿の氷室涼香から、歌手や声優御用達の漢方薬『響声破笛丸』を完璧な薬理説明とともに提案され、そのロックすぎる処方に感動して購入していく心温まる(胃薬要らずの)ドタバタ劇
俺の名前は桐生。
知る人ぞ知る、往年のロックスターだ。もちろん、年齢はロックの美学として明かせないぜ!
ここ数日、地元のオータムフェスのステージで、ロックなシャウトと熱いナンバーをバンバン歌い上げてきた俺だったが……さすがに連日のシャウトが響いたのか、自慢のシャウトボイスがすっかりガサガサになっちまった。
「ふぅ……俺の癒やしの聖地へ行くとするか……」
足を向けたのは、いつも利用している『ドラッグラベール白鳥駅前店』だ。
風邪・乾燥対策のキャンペーンで華やかに彩られた店内は、なぜか喉を酷使した俺の心と身体を不思議と癒やしてくれる(※理由は自分でも不明だ)。どうやらこちらの店舗のオータムフェス(ハロウィン大感謝祭)も、そろそろフィナーレを迎えるらしい。
慣れた手つきでのど飴の棚へ向かおうとした――その時だった。
「……っ!?」
普段は調剤室の奥で知的でクールに佇んでいる【美人薬局長(氷室涼香さん)】が、なぜか頭に小さな黒いミニ魔女帽子をクリップで留め、ボルドーのリップを引いた可憐すぎるミニ魔女姿で店頭に降臨しているではないか……!!
(可憐だ……可憐すぎるぜ……麗しの魔女よ……!)
そうそう、今日は喉ガレの相談だったな。
いつも買っている普通のど飴より、もっと喉に効く特別なものはないか、以前から専門家に聞いてみたいと思っていたのだ。
俺は胸の中のロックなハートに火炎放射器で火をつけ、勇気を振り絞ってミニ魔女(涼香さん)に声をかけた!
「あっ……あのっ! いつものど飴買ってるんすけど、ライブが好評すぎてちょっと声がガサガサなんすよ!! 何かいつもより喉に良いものってないっすか!!」(※声ガスガス)
言ったぞ! さあ、どう出るのか……麗しの美人薬局長!!
涼香さんは、ボルドーの唇をフワリとほころばせると、一言。
「はい、こちらへどうぞ♪」
スタスタと迷いのない足取りで歩き出す涼香さん。
おいおい……のど飴のコーナーを完全にスルーしちまったぜ!? 一体どうするつもりだ、この麗しの魔女は……!?
涼香さんが足を止めたのは、漢方薬のコーナーだった。
彼女は棚からひとつの箱をすっと取り出すと、両手で包み込むように掲げて見せた。
「こちらなどはいかがでしょうか?」
「……『きょうせい……はてきがん』……!?」
涼香さんは、まるで魔法の呪文を唱えるかのように、スラスラと流れるような声で解説を始めた。
【氷室涼香の漢方服薬指導:響声破笛丸】
「『響声破笛丸』は、声の出しすぎや喉の酷使による『しわがれ声』や『のどの不快感』を改善する漢方薬です。中国の古代医書『万病回春』に収載された伝統ある処方で、古くから『美しい声を出すための薬』として重宝されてきました♪」
主な効能・効果:
しわがれ声: 声のかれ、声が出しにくい状態の改善。
のどの不快感: 声帯の炎症を鎮め、声を出しやすくする。
対象となる方: 歌手、声優、ナレーター、アナウンサー、教師など、日常的に喉を酷使されるプロの方々。
「……っ!!」
ゲキカワな魔女からスラスラと放たれる完璧な薬学知識と、『響声破笛丸』というどこか厨二病心をくすぐるロックでカッコ良すぎる薬の名前!
良い意味で予想を裏切られまくった俺は、その圧倒的な説得力に一瞬でノックアウトされ、「それ、買います!!」と即買いしてしまった。
会計を済ませると、涼香さんは真顔でひとつ注意を添えてくれた。
「風邪や扁桃炎などの『急性のどの痛みや発熱』には適しませんので、ご注意くださいね?」
「おうよ! 風邪にはダメなんだな! 覚えたぜ!」
声帯の酷使に特化した、まさにロックスターのための最高にロックな薬だぜ……!
仕上げに、店頭のガラガラ抽選に挑む俺!
ガラガラ……コロン。白玉。
「残念、ハズレですわ♪ でも、お買い上げありがとうございました……♡」
ハズレ玉だったが、ミニ魔女姿の涼香さんが可憐に手を振ってくれた。
(フッ……ハズレクジなんて関係ねぇ。俺は今日、最高の『相棒(薬)』と出会えたんだからな……!)
俺は大満足で鼻歌(※ハスキーボイス)を口ずさみながら、夕闇の街へとクールに去っていったのだった。
【調剤室の陰】
「相変わらずロックでアツいなぁ。でも涼香さんの『響声破笛丸』のチョイスと服薬指導は完璧だったよ。声帯を酷使するアーティストには一番効く処方だからね」
調剤室の陰から一部始終を見守っていた俺――陣内拓海は、ニコニコと上機嫌で帰っていく桐生さんの背中に手を振り、ホッと胸を撫で下ろした。
涼香の凛とした美しさと完璧な専門知識。
そして、自分の買った薬と涼香の笑顔に大満足して去っていく個性的なお客様。
(うん、今日も平和で良い日だったな……)
波乱に満ちたハロウィンキャンペーンも、こうして一人ひとりの患者様・お客様の笑顔とともに穏やかに締めくくられていく。
俺はスーツのポケットに忍ばせていた『ラベール胃腸薬プレミアム』から静かに手を離すと、パタンとポケットのフタを閉じるのだった。
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