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美人だらけのドラッグストアで胃薬が止まらない件  作者: 薬師寺 あかね


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ギャル実習生の真摯な手足ケアと、温かな絆

実習生・涼宮あげはの成長と真摯な姿を描いた心温まるエピソードです

華やかなハロウィンウィークの熱気が店内に満ちあふれる中、実習生の涼宮あげはは、実習期間の成果として「何か形に残る報告シートを作ろう」と決意していた。

そんな時、以前店舗を訪れた胃がん患者の野村さんがやってきた。

前回、ほのかのアドバイスと受診勧奨によって睡眠薬を『エスゾピクロン(苦味の副作用)』から『デエビゴ(オレキシン受容体拮抗薬)』に変更してもらい、睡眠の質が劇的に改善した患者様だ。

だが、今日の野村さんは新たな悩みを抱えていた。

抗がん剤『ゼローダ(カペシタビン)』の服用に伴う『手足症候群(Hand-Foot Syndrome)』の発現である。

ゼローダによる手足症候群は、分子標的薬等に比べると比較的緩やかに現れ、服用開始から数週間〜数ヶ月後に手足の赤み、腫れ、皮膚の剥離や痛みとして出現することが多い。1回の投与量が多いほど発現頻度が高く重症化しやすいとされる症状だ。


今日、野村さんが持参したのはステロイド外用薬の『メサデルム軟膏』と、保湿剤の『ヘパリン類似物質ローション』の処方箋だった。

(抗がん剤治療中のスキンケア指導は、QOL(生活の質)を保つために超重要な介入ポイントっしょ……!)

真剣な表情になったあげはは、自分がまとめた成果報告シートを手に、野村さんの元へ歩み寄った。

「野村さん、こんにちは! ゼローダのお薬、がんばって継続されていますね。今日は手足のケアについて、すごく大切なお話があるんです!」

いつもの明るく軽いノリを保ちつつも、その眼差しは一プロの医療従事者としての熱を帯びていた。

あげはは手足症候群における保湿とステロイドの役割、そして塗り方の順序を丁寧に解説し始めた。

【抗がん剤治療における手足症候群のスキンケア基本指導】

基本の保湿タイミング:

手: 手洗い後は「毎回」必ず保湿剤を塗布する。

足: 1日5回を目標に、最低でも1日2〜3回(朝、夕、入浴後や就寝前)塗布する。

就寝前は手足ともにたっぷり保湿し、木綿の手袋や靴下を着用して保護するのが効果的!

保湿剤の使用量の目安(1FTU=1フィンガー・チップ・ユニット):

大人の両手分で1FTU(約0.5g)が基本。

軟膏・クリーム: 大人の人差し指の一番先から第1関節に乗る量。

ローション: 1円玉大の大きさ。

塗り方の順序とポイント:

保湿剤(ヘパリン類似物質)は治療開始と同時にスタート。症状の有無にかかわらず、洗浄後に1日2〜3回以上、ゴシゴシすり込まずにやさしく広げるように塗る。

赤みや痛みの病変が出ている場合は、【洗浄 → 保湿剤(全体) → ステロイド外用薬(病変部位中心)】の順で重ね塗りする!

説明を聞いた野村さんは、少し不安そうに自分の手を見つめながら言った。

「説明はよく分かったよ、お嬢さん。でも……実際にどうやって優しく塗るのか、実演してみせてくれないかね?」

「もちろんっしょ! お手手、失礼しますね♪」

いつになく真面目な顔つきになったあげはは、野村さんのカサついた手を優しく包み込むように両手で取り上げた。

適量のヘパリン類似物質を手のひらに取ると、皮膚のシワの方向に沿って、体温で温めながら一切の摩擦をかけずに、ふんわりとやさしく広げていく。

ド派手なネイルとギャルっぽい見た目からは想像もつかないほど、繊細で、温かい、心のこもった手のひらの温もり。

真剣な眼差しで自分の手を手厚くケア指導してくれるあげはの姿に、野村さんの目頭がじんわりと熱くなった。ホクホクとした温かい気持ちが胸いっぱいに広がる。

(華やかなハロウィンの飾り付けやイベントも素晴らしいが……この店舗には、それ以上に患者の痛みに寄り添う温かさがあるんだな……)

野村さんは深々と頭を下げ、心からの笑顔を浮かべた。

「これで完ぺき防御っしょ!! 毎日の保湿、一緒にがんばりましょうね!」

「ありがとう、お嬢さん。君なら……きっとすごく良い薬剤師さんになれるよ」

「〜〜〜っ! ありがとうございますっ!!」

褒められたあげはは、照れくさそうに、けれど誇らしげに満面の笑みを咲かせたのだった。

調剤室の陰で、そのやり取りを静かに見守っていた俺――陣内拓海は、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じていた。

実習生として入ってきた当初はギャル全開だったあげはが、今や患者様の病態と薬理を理解し、相手の心に寄り添った完璧な服薬指導を行っている。その成長ぶりが、心から誇らしかった。

(……良い景色だな)

全ヒロインからの甘すぎる愛の猛攻や修羅場、怒涛のハロウィンイベントに揉まれ続け、連日悲鳴を上げ続けていた俺の胃袋。

だが今、この心温まる師弟と患者の絆を前にして――

俺の手が、スーツのポケットにある『ラベール胃腸薬プレミアム』に伸びることはなかった。

俺の胃薬はピタリと止まり、穏やかで優しい秋の風が白鳥駅前店を包み込んでいくのだった。

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