謝罪のカップルと、ポヤポヤ涼香の密かな妄想
かつてGLP-1受容体作動薬の美容目的・適正外使用を拒否されて店内で騒いでしまった元ミス大日本の斎藤由香と彼氏の裕也が再来店! 陣内と涼香の誠実な適正使用推進への感謝と、店頭で繰り広げられたアツアツなカップルのキスに感化され、「私も拓海さんと……♡」と妄想を爆発させてポヤポヤと蕩ける涼香、そして胃薬を煽る陣内のドタバタ劇をお楽しみください!
私、斎藤由香は、ここ最近すこぶる機嫌が良かった。
路線変更して第一志望にした証券会社から、無事に内定を獲得したからだ。我ながら「流石ミス大日本」と自画自賛したくなるような快挙である。
しかも今日は、忙しい彼氏の裕也と久しぶりの休日が重なり、甘い熱々デートを楽しんだ帰り道だった。
……だが、駅前の通りを歩いていた私の足が、ある店舗の前でピタリと止まった。
『ドラッグラベール白鳥駅前店』。
(あ……例のお店だ……)
少し前、就活のストレスでやけ食いして体重が増えた時、私は半狂乱になってこの店へ飛び込み「糖尿病治療薬のマンジャロをダイエット用に処方しろ!」と騒ぎ立ててしまったことがあったのだ。
あの時は親切なエリア長さんと綺麗な薬局長さんに「適正使用ではありません」と諭され、結局別の処方箋(防風通聖散など)で真面目に体調を整え、体重も元通りに戻したのだが……。
(あの時は……裕也にも『今の由香でも十分可愛いよ』って優しく言われてたのに、八つ当たりして酷いこと言っちゃったな……悪いことしちゃった……)
「ん? どうしたんだ、由香?」
立ち止まる私に、裕也が優しく顔を覗き込んできた。
「あのね、裕也……。前に就活でムシャクシャしてやけ食いして太った時……裕也に大丈夫って言われたのにあたっちゃって……それで、このお店で無理な薬をよこせって騒いじゃったことがあって……」
正直に打ち明けると、裕也は目を丸くしたあと、愛おしそうに私の頭を優しく撫でてくれた。
「なんだよ……由香はそのままですごく可愛いのに、そんなに一人で悩んでたのか……。気づいてあげられなくて悪かったな」
二人で店内に入り、日用品のお会計を済ませると、レジの奥には前回の綺麗な薬局長(氷室涼香)が佇んでいた。
黒の小さなミニ魔女帽子を乗せ、ボルドーのリップを引いた、息をのむほど可愛さ満点の魔女姿だ。
「あら……この前のお客様……」
「あっ……あの……っ!」
私が恐縮して小さくなっていると、隣の裕也がまっすぐ薬局長に向き直り、深々と頭を下げた。
「以前は、うちの由香が無理なお願いをしてご迷惑をおかけしました」
「えっ……?」
「でも、薬局長さんたちが『適正使用』をしっかり守って説明してくださったおかげで、可愛い由香の健康が害されずに済みました。本当にありがとうございました」
「えっ? いえ……そんな、当たり前のことをしたまでですわ……っ!」
誠実なお礼の言葉に、涼香は照れたように頬をポッと染めた。
「では、2000円以上のお買い上げですので、こちらのガラガラ抽選をどうぞ♪」
ガラガラ……コロン。白玉。
くじは残念ながらハズレだったが、涼香は「ご来店ありがとうございました♪」と可憐に手を振ってくれた。
するとその瞬間――裕也がフッと微笑み、私の腰を抱き寄せると、大勢の客がいるレジの前でキスした!
「んむっ……! 居、居場所で……んっ……♡」
「ひゃっ……ひっ…人前で…キ、キスした……っ!?」
目の前で繰り広げられたアツアツカップルの突然の激甘キスシーンに、涼香は目を丸くして顔面を真っ赤に沸騰させた。
(す……すごいですわ……! 男性の側からあんなに自然に、大好きな人にキスするなんて……っ!
あ……あたしも……あたしも拓海さんと……あんな風に不意打ちで……キス……したいわ……っ♡)
昨夜の「涼香さん呼び」の余韻と、目の前の激甘キスシーンに感化された涼香の脳内サーキットが完全に焼き切れた。
涼香はボルドーの唇を半開きにし、潤んだ瞳をトロ~ンと蕩けさせながら、ポヤポヤと夢見心地で妄想の海へと沈んでいったのだった。
「うわぁ……あの薬局長さん、マジで美月ちゃんに激似なのに、照れてポヤポヤしてるの可愛すぎだろ……!」
「ヤバイ、見惚れて固まっちゃう……!」
店内の客たちが、デレデレポヤポヤ状態になったリアル美月ちゃん(涼香)の圧倒的可愛さに溜め息を漏らし、店外まで見惚れる人々で人だかりができていた。
【調剤室の陰】
陰で見守っていた俺――陣内拓海は、元ミス大日本カップルの仲直りキスと、それを見て完全にデレデレのポヤポヤ状態(脳内拓海さん祭り)になって蕩けている涼香さんの姿に、激しい冷や汗を流していた。
(あ、あかん……! 涼香さんが『拓海さん……♡』って呟きながら熱い視線を送ってきてるし、まひろちゃんとほのかちゃんが後ろから『薬局長だけズルイーッ!』ってメラメラ嫉妬の炎を燃やしてるーーーっ!!)
全ヒロインからの甘すぎる情熱と激しい視線、そして過去最高売上金を夜間金庫へ預けに行くプレッシャーに挟まれた俺の胃袋は、すでに崩壊寸前であった。
俺は震える手でポケットの『ラベール胃腸薬プレミアム』を取り出すと、激しく悲鳴を上げる胃袋に向けて、流し込んだ。
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