せっかちな高木さんと、定常状態の教え
せっかちで血圧190超えの高木(37)が「降圧薬(アムロジピン&テルミサルタン)が効かない!」と怒鳴り込んできたものの、新メンバー・小寺結衣の超丁寧かつ可憐な薬学指導(定常状態/CSSへの到達所要時間と副作用・歯肉肥厚の確認)に一瞬で心撃ち抜かれ、妻に内緒で「推し」を決めてしまうドタバタ劇をお楽しみください!
俺は高木歩(37)。
昔から筋金入りのせっかちな性格で、病院のあとの普通の調剤薬局での待ち時間が耐えられないため、買い物のついでに薬が受け取れる『ドラッグラベール白鳥駅前店』を利用している。
このせっかちでイライラしやすい性格がたたったのか……先日、30代最後を前にして病院の血圧計で【上190】という、とんでもない数値を叩き出してしまったのだ!
医者からは「結構強めの出しておきますね!」と言われ、処方されたのは『アムロジピン5mg』と『テルミサルタン40mg』の2剤。
まあまあビックリな数値だったが、真面目に飲み始めて今日で3日目。
……それなのに! 今朝測ってもまだ【160】くらいまでしか下がっていないのだ!
(おいおいおい! 俺は効かないインチキな薬でも渡されたのか!?)
納得のいかない俺は、朝一番で白鳥駅前店へ乗り込んできた。
店頭の特設コーナーには、ガチ小悪魔の仮装をした激カワなコスメ担当が「お客様〜♡」と愛想を振りまいていた。
(ぐぬぬ……要らんところでまた血圧が上がるじゃねーか!!)
イライラしながら調剤室のカウンターへ向かう。
調剤室の奥には、ド派手な仮装ではなく、清楚で大人しい雰囲気を纏ったこれまた信じられないくらい可愛い女の子(小寺結衣)が白衣姿で座っていた。
(……! 外の激カワ小悪魔も凄いが……俺は断然、こういう大人しくて真面目そうなタイプが好みだ……って、そんな鼻の下を伸ばしに来たわけじゃねぇ!)
俺はカウンターの前に立ち、腕を組んで声を張り上げた。
「あのさぁ! 数日前にここで降圧薬もらったんだけどさー! 全然血圧下がんねーんだけどっ!?」
「あ、いらっしゃいませ。お伺いいたしますね、お名前をよろしいでしょうか?」
「高木歩です!」
小寺さんは手元の端末をトントンと操作すると、可憐な瞳をこちらに向けて優しく微笑んだ。
「高木様ですね。はい、3日前にアムロジピン5mgとテルミサルタン40mgが処方されていますね」
「そうだよ! 医者は『強めの薬出しておきますね!』って言ってたのに、全然効いてないじゃないか!」
まくし立てる俺に対し、小寺さんは少しも怯むことなく、ふんわりとした癒やしのオーラで微笑みかけてきた。
「大丈夫ですよ、高木様♪」
(なっ……!? だ、大丈夫だとっ……可愛すぎるだろこの子っ!!)
毒気を抜かれかける俺だったが、必死に抗う。
「だ、だがっ……! もう3日も飲んだんだぞ!?」
「実はですね、お薬には『飲んですぐ効くタイプ』と『じわじわ効いてすぐには効かないタイプ』があるんです。高木様にお出ししているお薬は、後者の『すぐには効かないタイプ』なんですよ」
「なんだと……?」
「効果が長く続くお薬というのはですね、体内の薬の濃度が一定に保たれる『定常状態』という状態に到達するまでに、数日から1週間ほどお時間がかかるんです。高木様はまだ服用されて3日目ですので、定常状態へ到達する途中の段階だと思われます♪」
小寺さんは分かりやすく噛み砕いて説明を続けてくれた。
「ちなみに高木様、飲まれる前の血圧190から、少しは変化がございましたか?」
「あっ……あぁ、今朝測ったら160くらいにはなってたが……」
「それでしたら、お薬はしっかりと効き始めていますよ! あと数日服用を続けていただければ、定常状態に達してさらにグッと落ち着いてくるはずです。ただ、高血圧に慣れていたお体が急に下がると、立ちくらみや目眩が出やすくなりますので、立ち上がる際はお気をつけくださいね」
「お、おう……そうなのか……」
完璧なロジックと優しすぎるフォロー。
さらに小寺さんは、首を少し傾げて俺の顔を覗き込んできた。
「あと、お薬を飲み始めてから、歯茎が腫れたり変な感じがしたりはされていませんか?」
「えっ……? 歯茎? いや、特に何も無いが……」
「よかったです! アムロジピンなどのカルシウム拮抗薬では、たまに『歯肉肥厚』という歯茎が腫れる副作用が出ることがあるんです。高木様は問題なさそうですね! 順調に服用できていて安心いたしました♪」
「あ……ありがとう……っ!」
――俺は、猛烈に感心していた。
ただ急かすだけのせっかちな俺に対し、降圧薬の薬理(定常状態までの半減期と時間)を完璧に説明し、副作用のチェックまで手抜かりなく行ってくれた。
そして何より……こんなにも可憐で誠実な女の子(小寺結衣)に「大丈夫ですよ♪」なんて微笑まれたら、緊張とキュンキュンが一気に押し寄せて、かえって血圧が下がって目眩がしそうじゃないか……!!
(……ふっ。俺もそろそろ、無駄にカリカリするせっかちな生き方を辞める時期なのかもしれんな……)
調剤室を去る際、俺は密かに決意した。
家で待つ妻には絶対に内緒で、俺の「一生の推し薬剤師」が決定した瞬間であった。
陣内「ふぅ……小寺さん、良い服薬指導だったね! カルシウム拮抗薬とARBの定常状態(CSS)への到達期間の説明に、カルシウム拮抗薬特有の副作用『歯肉肥厚』の初期チェックまで落とし込むとは……素晴らしいよ!」
陰で見守っていた俺――陣内拓海は、新メンバーである小寺結衣の目覚ましい活躍と知識量に深く感心していた。
「はいっ! 陣内エリア長! 氷室薬局長のもとで恥ずかしくないよう、勉強してきましたからっ!」
照れながらも胸を張る小寺さん。
(うんうん、小寺さんが入ってくれて本当に良かった……)
と、俺はほっと胸を撫で下ろした
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