不眠に悩む木戸さんと、誠実な服薬指導
混雑する店内に迷い込んだ68歳の木戸さんが、ほのかによる抗ヒスタミン系睡眠改善薬の完璧な受診勧奨&服薬指導を受け、さらに認知症やベンゾ・オレキシン等に関する服薬不安を解消されて大満足! 仕上げにポリグリップを買って涼香のクジに挑む心温まる(?)ドタバタ劇
私は木戸(68)。
今日は日用品を買いに出かけたはずなのだが、何やらやたら混雑している『ドラッグラベール白鳥駅前店』に迷い込んでしまった。
実を言うと、私はここ数日なかなか寝付けずに困っていて、市販の眠剤(睡眠改善薬)が欲しいのだ!
だが……以前、親友が「眠気覚ましや睡眠薬を長く飲みすぎて認知症になった」というような怖い話をしていて、手を出せずに躊躇していたのだ。
店内を見渡すと、なにやら可憐な格好の黒猫耳をつけたお嬢さん(ほのか)が接客している。店内の謎の人だかりはこれか。
その横では、ブーツを履いた綺麗なお姉さん(三木)が「足が痒いんだけど!」と大声で叫んでいるではないか。それを嫌な顔ひとつせず普通に笑顔で対応するお嬢さん。
(……よし。私もあの可愛らしいお嬢さんに聞いてみるか。何か収穫があるかもしれん!)
私は人だかりが途切れた隙に、白衣に猫耳を乗せたほのかちゃんへ声をかけた。
「お嬢さん、ちょっといいかね。眠剤が欲しいんだが」
「はい! 市販の睡眠改善薬ですと『ドリエル』などがございますね。お求めの前に、安全にお使いいただくために数点ご質問させていただけますでしょうか?」
「ほう、質問とな? 何を聞こうというのだね」
「現在の眠れない症状は、長期にわたって続いていらっしゃいますか?」
「いや、数日続いていて体が疲れておるのだ」
「承知いたしました。では、現在医療機関などで喘息や花粉症などのアレルギー疾患の治療は受けられていますでしょうか?」
(アレルギー? 眠気と何の関係があるのだ……?)と思いつつ答える。
「受けておるよ。喘息と持病のアレルギーがあってな」
すると、ほのかちゃんは申し訳なさそうに、けれど誠実な眼差しで首を振った。
「そうですか……それでしたら、市販の睡眠改善薬はお勧めできません。ぜひ一度、医療機関を受診されて、入眠障害なのか中途覚醒なのかなどの適切な鑑別を受けられることをお勧めいたします」
(なっ……!? 売らないだとっ!? 人だかりができていて商売に余裕があるからとでも言うのか!?)
驚く私に、ほのかちゃんは分かりやすく解説を始めてくれた。
「実は、市販の睡眠改善薬(ドリエル等)は、医療用で使われていた第一世代の古い抗ヒスタミン薬(アレルギーの薬)なんです。世代の古いアレルギー薬は、脳に作用して強い『眠気』が出るという副作用があり、ドリエルはその抗ヒスタミン作用を応用したお薬なんですよ」
「なにぃ……! そういうことだったのか……!」
「はい。お客様は現在アレルギー疾患のお薬を処方されているとのことですので、成分が重複してしまう可能性が高いんです。ちなみに、病院から処方されているお薬の名前は覚えていらっしゃいますか? 」
「オ……ロ……?」
「はい、オロパタジン(アレロック)ですね!」
「そうそれだ! なぜ分かったのだ!?」
「オロパタジンをお飲みでしたか。ですので、成分の重複や相互作用を避けるためにも、市販薬のご利用はお控えいただいた方が安全です。……それと、お友達の認知症のお話ですが――」
ほのかちゃんは優しく微笑みながら、私の抱えていた根本的な不安に寄り添ってくれた。
「昔から使われている睡眠薬(ベンゾジアゼピン系など)は、神経の活動を抑える作用が一般的でした。長期服用と認知症の発症リスクについては現在も議論が続いており、明確な関連性が証明されているわけではありません。ただ、薬の作用で『直前の出来事を忘れてしまう(前向性健忘)』という一時点な副作用があり、それが認知症の症状と混同されてしまったケースはよく見られますね」
「前向性健忘……!」
「最近のお医者様で処方される睡眠薬は、体内の体内時計を整える『ラメルテオン(ロゼレム)』ですとか、脳の覚醒システムを抑えて自然な眠りのパターンを得られやすい『オレキシン受容体拮抗薬』といった新しいタイプのお薬がたくさんございます。ですので、どうか恐れずに病院のお医者様にご相談なさってみてくださいね♪」
――私は、心から大満足した。
ドラッグストアというのは、何でもかんでも商品を売りつければ良いというものではないのだな。客の健康と安全を第一に考え、売らないという選択肢を提示してくれる。素晴らしい教育だ。
納得して店内を歩いていると……ふと、店頭の特設スペースが目に入った。
「ん……? あのプリティーなミニ魔女は一体……?」
黒いミニ魔女帽子を乗せた、息をのむほど美しい薬局長(涼香)が佇んでいる。
「2000円以上お買い上げのお客様、または対象商品をご購入のお客様は抽選ができますわよ〜♪」
(な、なんだとっ……!? 買えばあの美人が配っているクジが引けるというのかっ!!)
私はすぐさま棚へ走り、愛用の『ポリグリップ』を手に取ってレジへ向かい、鼻の下を伸ばしながら特製ガラガラ抽選に挑んだのだった。
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