突然の課長命令
昨日のドタバタ劇がうそのように静かな月曜日の朝。
開店前のバックヤードで俺は書類整理をしていた
再び高ヒールのかつかつという爽快な音が響き渡った
(おいおい…マジか…なんか不備あったか?何も指摘はなかったと思うが…)
思いがけないヒール音は俺の胃をいきなり押しつぶそうとしている
「おはよー拓海君、昨日の今日でわるいんだけどさぁ、白石さん連れてきて、三人で話しましょう」
現れたのはスーツをスタイリッシュに着こなした本部営業企画部の担当課長神崎葵だった
「白石さんちょっと…課長が俺と白石さん呼んでいるから事務所に来てくれ」
「え?ハイ私指定ですか?なんだろう…」
葵先輩は不敵な笑みを浮かべると2枚の指示書をふたりに見せる
「ん?出張ですか?西城大学新人説明会…人事の畑では…」
「んーそれがねぇ…人事課長からのお願いなのよ二人は西城大学出身者では有名人みたいだしね、二人とも調整全然大丈夫そうでしょー2日指定あるからね、総務が電車やホテルも取ってくれるからさぁ、あぁもちろん別部屋だから安心してね、薬学部5回生の新卒採用合同説明会ね、拓海君は講師よー毎年各大学で行う説明会用のテンプレあるから少しアレンジして話してくれればいいからさ、拓海君なら余裕よ、白石さんはかなりかわいいから客寄せにもなるじゃない?でね最近なんだか優秀な子が多くてね薬剤師国家試験の合格率も上がっているようなのよ、調剤部門も少し人が足りないのは二人とも感じている通りでしょ?新しい店舗開発も考えているし優秀な薬剤師の確保は非常に大変らしいのよ、いろんな部署の助けになると思ってさぁ二人には頑張ってほしいわ」
「えぇ?私が二人っきりでエリア長と同行していいんですかー?」
急にこそこそとほのかを呼び込む課長
「そうよー、うれしいでしょ?なんとなくだけど一番あなたが合いそうな感じするのよーほかの二人から出し抜くチャンスよー」
小声で何やら話をしている…
ほのかはカッと顔を赤らめて跳ね上がった
当然ガヤとなってしまった二人は抗議している
「なんでほのかちゃんなのー私の方が客寄せパンダなら最適なのにぃー」まひろが前髪を少し乱して割り込んでくる
「あらぁー有栖川さんは薬剤師じゃないでしょー、確かにあなたもかわいいけどこれは薬剤師向けの新卒説明会なんだからぁ…人事でもそういう指示なのー」
氷室薬局長もなんだかムスっとしながら抗議する
「お言葉ならが神崎課長、新人への説明であれば現場の職場監督をしている私の方が最適かと、エリア長よりも今の薬局業務であれば私が説明をして…」
「もー二人とも…どうしたのー?薬局長は東京理科学大でしょ?あなたは東京理科学大のほうの説明会をするとなったら話が回ってくるわ、今のところ東京理科学大はあまりOGもいないしあなたとかなり年が離れた住吉先生くらいじゃないの?住吉先生はほぼ退職にちかいからねー東京理科学大学からオファーがあればあなたと拓海君で組んでもらえるようにお話し通してもいいけどー今回はもう本部から指示もあるしぃ…」
葵先輩は人差し指を口元に当ててウインクしている
口だけでほのかに合図を送っている
「が・ん・ば・れ・よ」
抵抗権を一切与えない話の回し方で明らかに2人にして現場を荒らしているように見える
(ほんとうに…人事が考えたのかぁ?これ…)
神崎先輩の悪魔的アシストがぶち決まる
「ふふ、じゃあ拓海君、白石さん、よろしくー」
台風のように去っていく葵先輩
残されたバックヤードではウルウル瞳を濡らすまひろと
般若のような顔でひきつっている涼香
胃の痛みに耐える俺と
可愛くよろこんでいるほのかが残された
チャンス…ほのかはすぐに動く
「エリア長現場で混乱したりしないようにラインで連絡先を交換しましょう!緊急連絡先ではなくて」
「あぁそうだな…どちらが二次元バーコードだそうか」
二人も続く
「ちょっ…ちょっと!私もこれから東京理科学大学行くかもしれないから私とも交換してよ!」
急に声を荒げる涼香
「あーん、私もコスメイベントあるもん!今社内化粧品コンテストの予選なんだから、エリア長も知ってますよね!私優勝候補なんですよ!私とも連絡先交換しましょうよ」まひろも動いた
「え?えぇ…わかったよ…全員と交換しよう」
「「やった!」」
すごい勢いのなか俺は運よく?全員とのライン連絡先を入手してしまう
(なんだこれ…どういう状況なの…大丈夫か俺…事務的に対応しなければこんな美人に手を出したなんて社内の愚か者リストにのってしまったら大変だぞ…俺…)
すさまじい牽制のなかなんやかんやで2人での出張が決まり
全員との連絡先がつながってしまう俺
「エリア長…現場で迷子にならないように頻繁に連絡くださいね!大学の思い出以外にも私知りたいこといーっぱいありますから」
「ちょっとほのかちゃん!抜け駆けはしないでよね、仕事なんだからー仕事ー」
「そうよ貴女もっと勉強が必要なんだから、新人獲得のために非常に重要な任務なんですからね、出張報告書も私に出してもらいますよ」
2人での母校出張なのに謎?のバトルが勃発していくなか俺はまた胃に負担がかかっている
(こんなかわいい子と二人っきりで旅行風に移動していたらやばいぞ…もしかしてパパ活なんて思われるんじゃないか?わかるようにパソコンや書類を持つか?どうしようか…)
「エリア長楽しみですね、思い出のキャンパスも見れますよー、そうだ新館に新しい売店できたのもしっていますか?大学のゆるキャラなんてものもできたみたいですよ、記念に二人でキャンパスデートしましょうね、懐かしの唐揚げ弁当もまだありますよ、私があーんしてあげます」
「「ちょっとー!!」」
俺の知らないところでどんどん出張という名のデート?プランが決まっていき
まひろと涼香がどんどん厳しい表情に変わっていく
俺はいきなりの課長訪問から怒涛の胃酸に押しつぶされそうになり
またスーツから一包慣れた手つきでラベール胃腸薬プレミアムを取り出して掻っ込んだ
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