男の尊厳と、完璧なるフォロースルー
リアップ当選品事件によって男の尊厳が危うくなった和田院長と、男性のデリケートなプライドを完璧な機転とプロフェッショナリズムで守り抜く陣内の「男の友情と信頼の物語」をお楽しみください!
「……エリアマネージャーはおられますか?」
白鳥駅前店のカウンターに現れたのは、深々と帽子をかぶり、マスクとサングラスでガチガチに顔を隠した怪しすぎる男性客――聖霊マリアンナ医大出身の泌尿器科院長・和田利治先生だった。
「はい、私が陣内ですが……ん?先生? どうされたのですか?そのお姿は……!」
俺はすぐさま先生をバックヤードの相談室へとお通しした。
パイプ椅子に腰掛けた和田先生は、ガタガタと肩を震わせると、テーブルの上にスッと『リアップ限定・超豪華プレミアム腕時計』と涼香の直筆の手紙をおく。
「陣内君……私はね……私は、恥ずかしさで爆死しそうなんだよぉぉぉ……っ!!」
「なっ……これは……!?」
手紙と豪華な腕時計を見た瞬間、俺はすべての事情を察した。
(氷室さん……! 親切心100%でノベルティの応募代行をしてあげたんだろうけど……よりによってご自宅に『リアップ当選品』を直接届けてしまったのかーーーッ!!)
「うちの妻(看護師長)に……全部バレたんだよ……! 『あなた、コソコソ電車に乗って買いに行ってたのはこれだったのね』って……爆笑されたんだよ……っ! 氷室薬局長に悪気がないのは痛いほど分かっている! だが……男として! 医師としての私のプライドはボロボロだっ……っ!!」
頭を抱えて悶絶する和田先生。
俺は一刻の猶予もないことを悟り、すっと背筋を伸ばすと、力強い目で先生の手をしっかりと握りしめた。
「和田先生……お気持ち、痛いほど理解いたしました。……すべて私にお任せください!」
「えっ……? 陣内君……?」
俺はすぐさまバックヤードから調剤室の涼香を呼び出した。
「氷室さん、ちょっといいかい?」
「はい、陣内さん。どうされました……あ、和田先生! 先日はノベルティの時計、無事に届きましたでしょうか……♪」
嬉しそうに微笑む涼香に対し、俺は真剣な表情で語りかけた。
「氷室さん、素晴らしいお心遣いだったけれど、一つだけ大きな行き違いがあったんだ。実はこのノベルティ、和田先生ご自身のためではなく……先生のクリニックで長年勤めておられるご高齢の事務長様への『永年勤続のお祝い品』として、先生が個人的にプレゼントされる予定のものだったんだ…」
(くっ…無理があるか…)
「「えっ……!?」」
涼香も、そして当の和田先生すらも目玉を飛び出させて固まった。
俺は一切の淀みもない堂々とした口調で言葉を重ねる。
「先生はご自身のクリニックのスタッフにサプライズで贈るため、あえて職場から離れた当店で極秘に商品をご購入されていたんだ。ご自宅に届いてしまったことでサプライズの計画が少し狂ってしまい、先生もお困りだったんだよ」
「ま……まああぁぁっ……! そうだったのですか……っ!?」
涼香は両手で口元を覆い、申し訳なさそうに深く頭を下げた。
「私ったら、てっきり和田先生ご自身がお使いになられるものだと勘違いして……ご自宅に届くよう手配してしまいましたわ! 大変失礼なことをいたしました、和田先生……っ!」
「あ……いや……! ぶ、無礼だなんてとんでもない! 氷室薬局長の温かいお心遣いには感謝しているよ……!」
事態の見事なまでのすり替えと、完璧すぎる口裏合わせに、和田先生の瞳に感動の涙が浮かんだ。
さらに俺は、ポケットからサッと特製の「ギフト用ラッピング巾着」を取り出すと、リアップの腕時計を丁寧に包み込み、金色のリボンを結んで和田先生に手渡した。
「和田先生、こちらでラッピング完了いたしました。奥様にも『事務長へのプレゼントが無事に準備できた』とお伝えいただければ、サプライズも大成功かと思います」
「じ、陣内君……っ!!」
和田先生は涙を滲ませながら、俺の手を両手で強く握り返した。
「君は……君はまさに『神』だ……! 男の尊厳とプライベートをここまで見事に守り抜いてくれるとは……! 私は体が利くうちはこのドラッグラベール白鳥駅前店と、君というエリアマネージャーについていくぞ!!」
「勿体無いお言葉です、先生。お客様の尊厳を守るのも、我々医療従事者の大切な務めですから」
二人の間に芽生えた、熱く固い男の友情と信頼の絆。
和田先生は晴れやかな顔で、ギフトバッグを大切そうに抱えて帰っていったのだった。
「ふぅ……なんとか丸く?収まってよかったな……」
和田先生を見送り、胸を撫で下ろす俺。
すると隣で一部始終を見ていた涼香が、熱っぽい瞳でうっとりと俺を見つめていた。
「……陣内さん」
「うわっ!? 氷室さん、どうかしたかい?」
「お客様の尊厳とプライバシーをどこまでも守り抜くそのお姿……そして何より、あの完璧な口八丁……素敵すぎる……♡」
「く、口八丁って言わないでよ! 必死だったんだから!少し無理があるとは思ったがっ!クレームにならなくてよかった…」
「ふふっ……やっぱり私、陣内さんのそういう頼もしいところが……大好きですわ♪」
そう言って、涼香は照れくさそうに俺のスーツの袖口をキュッと引っ張るのだった。
(あ、あかん……! 和田先生のプライドは守れたけど……氷室薬局長の俺へのデレ度がさらに加速してしまっているーーーっ!!)
謎の男の友情を守り抜いた達成感と、ヒロインからの甘すぎる熱視線の猛攻。
俺は冷や汗をダラダラと流しながらポケットの『ラベール胃腸薬プレミアム』を取り出すと、激しく脈打つ胃袋に向けて一気に喉奥へ煽り込むのだった。
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