秘めやかな買い物の結末と、届いてしまった特製ノベルティ
クリニック院長(医師)である和田先生の密かな楽しみと、氷室涼香のどこまでも真面目でド直球なキャンペーンフォローが引き起こした「愛ある(?)名誉の爆死」事件! クレームではないけれど陣内に縋りつくしかない院長と、またしても胃を痛める陣内のドタバタ劇をお楽しみください
私、和田利治(62)。聖霊マリアンナ医科大学を卒業し、ここから少し離れた場所で泌尿器科クリニックの院長を務めている。
私のような立場のある人間が、なぜわざわざ休日や合間を縫って『ドラッグラベール白鳥駅前店』へ足を運ぶのか。
理由は二つある。一つは、調剤室にいる薬局長(氷室涼香さん)がえらく可憐で美しいこと。そしてもう一つは……「自分のクリニックの近所では絶対に知られたくない買い物」をするためだ!
火曜日の午後。私のクリニックは休診日だ。
白鳥駅前店に入ると、調剤室の奥に今日も凛とした姿の薬局長が見えた。私は服薬指導カウンターの前で、軽く「コホン」と咳払いをする。これが彼女を呼び出すための私だけの合図だ。
パタパタと可憐な足音を立てて寄ってくる涼香さん。ふわりと漂う爽やかな香りに、私は密かに鼻の下を伸ばしてしまう。
私は無言で、カウンターの棚にあるいつもの商品を指差した。
「これを……5本ください」
「あ、和田先生。いつもありがとうございます……。毎回しつこいようで大変申し訳ございません。医薬品医療機器等法上の規定に基づき、第1類医薬品の適切な情報提供をさせていただきますね」
透き通るような凛とした声。私は「私は医師だぞ!」などという無粋な野暮は言わないことにしている。なぜなら、彼女のこの丁寧で真摯な解説を聞くこと自体が、日々の診察に追われる私のささやかな癒やしだからだ。
ふっ……今日も無事に手に入れたぞ。
発毛剤の金字塔――『リアップX5』を5本!!
私がほくほく顔で会計を済ませ、商品を鞄にしまって店を出ようとすると、背後から涼香さんが声をかけてきた。
「あっ……先生! あの……今、メーカーのノベルティキャンペーン中でして……! あ、行っちゃった……」
まあいい、買い物が無事に済んだのだから大満足だ。私はルンルン気分で白鳥駅前店を後にしたのだった。
数日後――私のクリニックの院長室。
なぜか私の元に、ドラッグラベールからの厳重な「袋とじの宅配便」が届いていた。
それを持ってきたのは、私の妻であり、当院の看護師長でもある妻だった。
「あなた……ドラッグラベールとかいうお店に行ってらしたの? 何か届いていますけれど」
妻が怪しむような視線を向けてくる。
(ん……? なんだろう。別にやましい買い物などしていないぞ私は……! いや、リアップは買ったが……!)
「う、うん……記憶にないな。何かの誤りかもしれん。開けてみたまえ」
私は平静を装って妻に告げた。
ハサミで袋とじを開封した妻は――次の瞬間、「きゃははっ!」と盛大に爆笑し始めたのだ。
「あっ……あなたったらもう……! くすくす……!」
「ど、どうしたというのだ!? なぜそんなに笑っている!?」
私が慌てて袋の中身を覗き込むと、そこには驚愕の品が入っていた。
涼香さんの直筆で書かれた『和田先生、先日はリアップ5本のご購入ありがとうございました! キャンペーンの応募用紙を代行してお送りしておきました。見事当選されましたので、特製ノベルティをお送りいたします♪』という丁寧な手紙。
そしてその横には――デカデカと『リアップ限定・超豪華プレミアム腕時計』と刻まれた輝くノベルティグッズが鎮座していたのだ!!
「なっ……なんだこれはーーーっ!? 私は知らんぞ!!」
「あなたったら……コソコソと電車で遠くのドラッグストアまで行って、買っていたのは『これ』だったんですね(笑)!」
腹を抱えて笑い転げる妻。
(ば、バレただとっ……!! 隠していたのに!! 院長としての私の威厳が……!!)
しかし、妻は涙を浮かべて笑いながら、優しく私の肩を叩いた。
「ふふっ、気づいていましたよ……? たまに電車でお出かけになっては、わざわざ院長室のカギを閉めて頭皮にトントン塗ってらっしゃるの……(笑)」
「ぐぬぬぬぬ……っ!!」
誰も悪くない。
涼香さんは親切心とプロ意識100%でキャンペーンに応募してくれただけだし、妻も怒っているわけではなく面白がっているだけだ。
だが……男としての恥ずかしさが限界突破して爆死しそうだ!!
(クレームなんて入れたら、私の唯一の憩いの場(白鳥駅前店)が無くなってしまう……! だが、この溢れ出る切なさと恥ずかしさはどこへぶつければいいのだ……!! そうだ……あの店舗には、頼りになりそうなエリアマネージャーがいたはずだ……!!)
【その頃:白鳥駅前店】
「……っ!? ぐはっ……!?」
事務所でパソコンを叩いていた俺――陣内拓海は、突如としてみぞおちを襲った謎の激痛に悲鳴を上げた。
(な、なんだ……!? 氷室さんの不意打ちキス騒動が落ち着いたと思ったら……今度は何だ!? なぜか遠くから『男性の切実で巨大な恥ずかしさの波動』が俺に向かって飛んできている気がする……!!)
理由の分からない恐ろしい予感と胃の痛みに冷や汗を流す俺。
俺は震える手でポケットへ手を伸ばすと、愛用の『ラベール胃腸薬プレミアム』を取り出し、これから訪れるであろう新たな波乱に備えて、一気に喉奥へ煽り込むのだった。
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