キスの波紋と、暴走するスキンシップおねだり合戦
前回の氷室涼香による不意打ちほっぺキスの波紋が白鳥駅前店を直撃! 怒りと危機感を爆発させた白石ほのかと有栖川まひろによる猛反撃とスキンシップおねだり合戦、そして店舗全体が大パニックに陥る中で胃薬を煽り続ける陣内のドタバタ劇をお楽しみください!
「――きっ…キスぅ!今……何をしたんですか、薬局長ーーーっ!?」
白鳥駅前店のバックヤードに、白石ほのかの雷のような叫び声が轟いた。
静寂が破られた瞬間、ほのかと有栖川まひろの全身からメラメラと凄まじい嫉妬のオーラが立ち上った。二人の目は完全に血走り、獲物を狙う肉食獣のようになっている。
「え、ええ……? 何って……陣内さんに、日頃の感謝と親愛の情を表現しただけです……♪」
ほっぺに唇を寄せた張本人の氷室涼香は、ポッと頬を染めたまま、両手を胸の前で合わせてウットリと余韻に浸っている。ドラマ『社内恋愛は御法度ですが!?』の美月ちゃんになりきった脳内補填は、未だに解けていないらしい。
「感謝と親愛でほっぺにキスなんてするわけないでしょーーーッ! ずるいです! 職権乱用です! ズルすぎますっ!!」
ほのかが顔を真っ赤にして地だんだを踏む。
「そうですようっ! いくらなんでも…私よりスキンシップしちゃってー!!エリア長に抜け駆けなんて絶対に許せませんっ! 私だって……私だって、拓海さんと二人でサシ飲みして『名前呼び』の約束までしたのにぃーっ!!」
まひろも涙目になりながら激しく抗議の声を上げた。
調剤室の陰で見学していたギャル実習生の涼宮あげはは、目を丸くして口をぐわっと開けている。
「マジヤバイっしょ……薬局長の不意打ちストレートからの、ほのか先輩&まひろ先輩のブチギレモード……白鳥駅前店、完全に終末戦争突入っしょ!!」
そんな女子たちの修羅場の中心に立たされている俺――陣内拓海は、左頬に残る温かく柔らかい感触と、周囲から突き刺さる殺気と嫉妬の視線に挟まれ、生きた心地がしていなかった。
(あ、あかん……! 氷室さんの不意打ちキスも破壊力抜群だったけど、二人の怒りと対抗心が限界突破して爆発してる……っ!!)
「陣内さん……! ほっぺを洗うのは絶対に禁止ですわ。私のキスの痕跡を消さないでくださいね……♡」
涼香がメガネの奥の瞳を甘く潤ませ、さらに追い打ちをかける。
その言葉が、ほのかとまひろの理性のヒューズを完全に吹き飛ばした。
「先輩っ! 薬局長だけズルいです! 私にも……私にもお返ししてくださいっ!!」
ほのかが勢いよく俺の右腕に抱きついてきた。可憐な見た目からは想像もつかない必死さで、フワフワとした胸の感触がダイレクトに腕に伝わってくる。
「ひ、白石さん!? ちょっと待っ……!」
「ダメです待てませんっ! 先輩の右頬は私のものです! ほっぺに……ううん、おでこでもいいから、私にもスキンシップしてくださいぁぁっ!」
「ちょっとほのかちゃん、ずるいーーーっ!」
まひろが間髪入れずに左腕側へすがりついてきた。
「拓海さんっ! 私は……私は拓海さんの『まひろちゃん』なんですよね!? だったら私にも、ほっぺにチュー……ううん、ぎゅーって抱きしめてくださいっ! 抱きしめてくれなきゃ、今日のお仕事ボイコットしちゃいますからねッ!!」
「ま、まひろちゃんまで……っ!?」
右腕には、潤んだ瞳で顔を寄せてくる清楚系良妻のほのか。
左腕には、涙目になりながら「ギューして」とおねだりしてくる本気モードのまひろ。
正面には、余裕の笑みを浮かべつつ「私のキスの上書きはさせませんわ」と優雅に立ちはだかる絶対女王の涼香。
(((「「「私のこともっと見て(抱きしめて・お返しして)くださいーーーッ!!」」」)))
「ひぇぇぇ……っ!? み、みんな落ち着いてくれ! ここは職場だ! ドラッグストアのバックヤードなんだよーーーっ!?」
左右から迫り来るあまりにも甘く贅沢すぎるプレッシャーと、身動きの取れない密着状態。心臓がはち切れんばかりに高鳴り、脳みそが沸騰して真っ白になっていく。
(だ、ダメだ……! このままだと俺の理性も、この白鳥駅前店の平和も、すべてが粉々に吹き飛んでしまうーーーっ!!)
もはや仕事どころではない大パニックの中、俺は命からがら両腕をすり抜けると、がくがくと震える手でスーツのポケットへ手を伸ばした。
そして、甘いキャパオーバーと修羅場の熱気が渦巻くバックヤードの隅で、相棒である『ラベール胃腸薬プレミアム』を取り出すと、限界悲鳴を上げる胃袋に向けて一気に二袋丸ごと喉奥へ流し込むのだった。
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