ドラマ一気見の脳内補填と、衝撃の不意打ちキス
陣内が大量に抱えてきた看板をきっかけに動画配信で美月ちゃんのドラマを履修し、脳内変換でキュンキュンが限界突破してしまった氷室涼香が、まさかの不意打ちほっぺキス(!?)をかます衝撃のドタバタ劇
私――氷室涼香は、普段あまりテレビやドラマを見ない生活を送ってきた。
だが、一昨日に陣内さんが大量の「美月ちゃん等身大ボード」を両腕で抱きかかえて帰ってきた姿を見て以来、居ても立ってもいられなくなった私は、ついに『アマドゥン・プレミアム』の会員契約をしてしまったのだ。
なぜならそこでは、美月ちゃん主演の大ヒットオフィスラブコメドラマ『社内恋愛は御法度ですが!?』が全話配信されていたからである。
鏡で自分の顔を改めて見てみると、確かに目元も口元も彼女によく似ている。口の横のほくろを指で隠すと、確かに私に瓜二つと言っても差し支えないレベルだ。
ドラマの相手役の上司役の俳優はさほど陣内さんには似ていなかったが……私の脳内補填(陣内さんへの顔面変換)は、ほぼ余裕で完璧に行われた。
「あっ……別にドラマなんて興味ありませんけれど……これは後学のためよ……! 文華先輩にも『一般感覚と恋愛リアリティを養いなさい!』って言われていましたし……っ!」
そう自分に言い訳しながら画面を見つめる。
物語が展開し、ひょんなことからオフィスで美月ちゃんが上司と唇を重ねる甘いキスシーンに突入した。
「キャー……っ!? ちょっ、ちょっとぉ……っ!?」
私はベッドの上で枕を抱きしめ、一人で悶絶していた。正直、猛烈に興奮していた。
脳内で完全に美月ちゃんを自分に、相手の上司を陣内さんに重ね合わせてしまう。
(キッ……キスしたいわ……っ! 陣内さんと……っ!!)
翌朝――白鳥駅前店。
100ケース誤発注という痛恨のミスをしたまひろは、特設コーナーの『朝までフィット』の売れ行きが心配で落ち着かない様子だった。
しかし、氷室涼香はそれどころではなかった。昨夜のドラマのキスシーンと脳内補填が頭から離れず、完全にぽーっと上気した顔で熱い吐息を漏らしていたのだ。
そこへ、バックヤードから俺――陣内拓海が歩み出てきた。
「どうだ、まひろちゃん? 特設コーナーの動きは?」
「まだまだ山積みですぅ〜(泣)! 拓海さん、どうしよう……っ!」
焦る二人の横で、涼香は相変わらずぼんやりと空を見つめている。
(えっ……薬局長、大丈夫か……? 以前のテストの時みたいに、また高熱でも出してるんじゃ……!?)
異変に気づいた俺は心配になり、熱があるか確かめようと涼香の前にかがみ込み、そっと彼女の額に手を伸ばそうと試みた。
その瞬間――!
「ん……っ♪」
熱っぽい瞳で俺を見つめていた涼香が、吸い寄せられるようにすっと顔を近づけてくると――俺の左ほっぺにチュッと音を立てて唇を重ねたのだ!!
「「「「……っ!??!?!?」」」」
一瞬で店内が凍りついた。
まひろも、ほのかも、あげはも、そして俺自身も、まるで時間が停止したかのように全身を硬直させて固まった。
静まり返る店舗の真ん中で、涼香はポッと頬を真っ赤に染めると、恥ずかしそうに胸の前で手を組み、甘くトロけた笑顔で囁いたのだ。
「……今日は、ホッペで……我慢してあげる♪」
「「「「ええええええええええーーーーーっ!?!?」」」」
悲鳴にも似た静寂と衝撃が白鳥駅前店を駆け抜ける。
ほのかは絶句して固まり、まひろは目玉が飛び飛び出そうなほど見開き、あげはは「マジで!? 薬局長先行逃げ切りっしょ!?」と口ぐわぁっと開けている。
(な、な、何が起きたんだ今ーーーーーッ!? ほっぺ……ほっぺにキスされた……!? 氷室薬局長に!?)
あまりの衝撃と、頬に残る柔らかく温かい感触の余韻に、俺の思考力は完全に壊滅した。
(お、俺……今日、家に帰ってから顔洗えるのか……!? 洗顔したら氷室さんのキスの感触が消えちゃうんじゃないかとか……いや変態か俺はーーーッ!!)
パニックと甘すぎる衝撃で脳みそが沸騰した俺は、尋常じゃない冷や汗を全身から噴出させながら、震える手でポケットの『ラベール胃腸薬プレミアム』を取り出し、そのまま一袋丸ごと喉奥へ流し込むのだった。
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