まひろの痛恨ミスと、抱きかかえられた等身大パネル
名前呼びで浮かれたまひろの痛恨の発注ミス(生理用品100ケース誤発注!)と、それをフォローするために陣内が奔走した結果生じた、氷室薬局長似の女優看板をめぐる甘くカオスな誤解劇をお楽しみください
正直なところ、有栖川まひろは最高に浮かれていた。
あの強い強い氷室薬局長とほのかちゃんを出し抜き、二人のサシ飲みデート(ファミレス)を取り付け、お互いに「拓海さん」「まひろちゃん」と呼び合う関係に進展したのだ。
(拓海さん……なんて素敵な響きなのかしら……♪)
まひろはバックヤードで、まるでバレリーナがダンスでも踊るかのような軽やかなステップで発注機(GOT)を操作し、バーコードを『ピッ、ピッ』とテンポよく読み込んでいく。
その後、しばらくしても『朝までフィット(夜用生理用品)』の入荷が途絶えていたが、(まあ、最近メーカー欠品も多いしね〜)と、まひろは特に気に留めていなかった。
――そして翌朝。
白鳥駅前店の搬入口に、見慣れないムキムキのトラック運転手のお兄さんが爽やかに現れた。
「おはようございまーす! 検品おなしゃす!!」
フフン、私はいま世界一ご機嫌なのよ――そう思いながら検品伝票を受け取ったまひろだったが、記載された数字を見た瞬間、動きが完全にフリーズした。
商品名:朝までフィット(夜用特大パック)……【数量:100(ケース)】。
「はぁっ……!? な、なにこれ……100個じゃなくて、100ケース……!?」
あまりの山積みのダンボール箱に顔を青くしたまひろが、「っ、あの〜! お兄さん、100って……!?」と声を裏返させると、お兄さんは元気に親指を立てた。
「っす! 伝票通り100ケースで間違いないっす! いつもあざっしたー!」
ガタガタと威勢よく走り去っていくトラック。搬入口には、大人が隠れるほどの『朝までフィット』の巨大なダンボールの城がそびえ立っていた。
「えっ……えええーーーーーっ!?」
そこへ、騒ぎを聞きつけた俺――陣内拓海が駆けつけてきた。
「どうしたんだ、まひろちゃん!? ……な、なんだこのダンボールの山は……!?」
「たっ……拓海さん……っ! やっちゃいましたぁぁぁーーーっ!!」
まひろは半泣きになりながら俺に泣きついた。
「あのっ……キャンペーンで注力してた生理用品……間違えて100ケース買っちゃいましたぁ……♡(泣)」
「なっ……何だってーーーっ!?」
ミスして半泣きになりながらも語尾に「♡」が見えるような可憐さで縋りつかれ、俺は頭を抱えた。
幸い、紙類(衛生用品)には使用期限がない。しかも今期はグループ全体の重点キャンペーン商品だ。放置しておけば利益を圧迫するが、うまく売り出せば店舗の売り上げを爆増させられる!
ちなみにこの『朝までフィット』は、今をトキめく黒髪ロングのクール系美人女優・美月ちゃんがCMを担当している。そしてこの美月ちゃん、実は「白鳥駅前店の氷室薬局長にどこか雰囲気が似ている」と社内で密かに話題の女優さんだった。
「よし、まひろちゃん! なんとかするよ! 売り場をドカンと作って、『店長オススメ!』の特大ポップで売り切るんだ!」
俺は速やかに策を練ると、「等身大パネルを集めてくる!」と言い残して颯爽と店舗を飛び出した。
美月ちゃんの立ち姿の等身大パネル看板は非常に可愛らしく華やかなのだが、サイズがかなり大きいため、スペースの狭い小規模店舗では「置けないからグループの本部倉庫に返却したい」という店舗が多いのだ。俺は目星をつけた近隣店舗へ急行し、パネルを回収して回った。
……そんな裏での奔走劇を知る由もない店内では。
売り場に残された氷室涼香、白石ほのか、涼宮あげはの三人が、本部から先行して届いていた美月ちゃんの等身大パネルを見つめて頷き合っていた。
「この看板の人、マジで超薬局長に似てるっしょ〜!」
あげはがパネルの横に涼香を並べ立てる。
「本当ですね。凛としていて、すごく可愛いです」
ほのかも素直に同意した。
「そっ……そうかしら……? 女優さんに似ているだなんて、そんな……」
涼香はどこか嬉しそうにメガネの位置を直していた。
そこへ――!
「はぁ……はぁ……! 集めてきたぞーっ!」
汗だくになった俺が、他店舗からかき集めてきた大量の美月ちゃん等身大パネルを両手いっぱいに抱え、バックヤードからドサドサと入ってきたのだ。
「あっ……ありがとう……拓海さん……っ!」
事情を知っているまひろだけは、自分のミスをカバーしてくれた俺に深々と感謝していた。
――だが!
事情を知らない涼香、ほのか、あげはの三人は、その光景を見て一瞬で固まった。
「「「えっ…………」」」
たくましいムキムキの腕で、黒髪ロングの美月ちゃんパネルを愛おしそうに何枚も(ギュッと)抱きかかえて帰ってきた俺の姿。
それが彼女たちの目には――『氷室薬局長を何人も全力で抱きしめている陣内エリア長』という、あまりにも衝撃的な絵面に映ってしまったのだ!
「ち、チョッ……やだ……っ! 私ったら、何変なこと妄想してるのかしら……っ!?」
涼香は顔面を沸騰させ、両手で顔を覆って照れまくっている。
一方、ほのかとあげはは不満そうにジト目を向け、猛烈な危機感を募らせていた。
「ちょっ……マジでヤバイっしょ(笑) エリア長、薬局長のこと抱きしめたすぎる願望が溢れ出ちゃってるっしょ!」
「そんな……っ! 先輩が『薬局長みたいなクールなお姉さん路線』が好きなら……私、絶対に勝てないじゃないですかぁ……っ!!」
(((絶対、薬局長のこと狙ってるーーーッ!!)))
「えっ……? な、なんでみんなそんな目(嫉妬と照れ)で俺を見てるんだ……!?」
まひろの小さな発注ミスから始まったドタバタ劇は、なぜか「陣内のフェチと本命疑惑」という超大型の誤解へと発展。
またしてもヒロインたちの視線に挟まれた俺は、冷や汗をダラダラと流しながらポケットの『ラベール胃腸薬プレミアム』を取り出し、悲鳴を上げる胃袋へ向けて速攻で流し込むのだった。
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