ファミレスのサシ飲みと、破壊力抜群の呼び方
まひろの突然の「サシ飲み(ファミレス)ディナー」と、小悪魔テクを封印した「本気のガチアプローチ(呼び捨て&敬語オフ)」に心を撃ち抜かれる陣内のドキドキのひととき
まひろの突然のサシ飲みディナーのおねだりに、涼香もほのかも「流石に今日の今日じゃどこも予約していないはずだし、いきなり込み入ったところには行かないはず……」と、ひとまずその場はたじろいで様子見の姿勢をとった。
――実際に二人(陣内とまひろ)がやってきたのは、駅前のこぢんまりとしたファミリーレストランの一角だった。
お互いに向かい合って座るやいなや、これまでの小悪魔的な余裕はどこへやら、まひろの顔は真っ赤に染まり、両手でコップをぎゅっと握りしめてガチガチに緊張していた。
「えっと……エリア長!」
「お、おう。どうしたんだ急にこんなところに呼び出して……って、ここなら落ち着いて話せるな」
「あの……! 今までのボディタッチとかは、その……失礼なことしちゃってたなって思って、謝ります!」
「えっ……? どうしたんだ急に。俺は別に、そんなに気にして――」
(はっ! まさか今の発言、『ボディタッチ目的で店舗に通う変態上司』みたいになってないか……!?)
(またエリア長は心の中で変な的外れなこと考えてる……! 違うもん、私は本気で向き合いたいんだもんっ!)
それぞれの頭の中で激しい思考のラリーが走る。
まひろは小さく息を吸い込むと、震える声で決死の告白を続けた。
「わっ……私、本気ですからっ!!」
「コンテストの売上やポップの相談……とかの話、かな?」
「そ、それは色々です! けど……その……それでですね、ボディタッチはこれから頑張って減らすので、その引き換えと言いなんですが……お願いがあって……」
(えっ、ボディタッチが減るのか……? 別にセクハラとして本気で嫌がっていたわけじゃないし、むしろ近くに来てくれるとあの柔らかい……いや、とても可愛いから嬉しかったというか……って、俺まで何を考えてんだ、この変態め!)
激しく動揺する俺に、まひろは意を決したように潤んだ瞳を真っ直ぐに向けた。
「あの……! 拓海さんっ! ……って、呼ばせてください! だ、駄目なら……拓海先生……とか、その……」
「…………えっ?」
いつもの、ベタベタと甘えてくる『エブリデイ可愛い有栖川まひろ』とはまったく違う。
一歩大人びて、けれど全身全霊で勇気を振り絞っている「等身大のひとりの女性」が、目の前に座っていた。
(えっ……『拓海さん』……だと……!? いつもみたいなしな作りじゃなくて、本気の緊張と照れが混じったその呼び方は……反則じゃないのか……!? ボディタッチとは違う次元で、胸を直接撃ち抜かれるような破壊力があるぞ……!)
「あ、あの……! 全然、その呼び方くらいは……!」
「じゃあ! じゃあ……あの……拓海さん!!」
(かっ……可愛い……! なんだこれ、可愛すぎるだろ……!)
「あ、あのさ……じゃあ…こっちもまひろちゃんって呼んでみるか…で、で、まひろちゃんコンテストの相談は……?」
(はあぁぁ……♡ 呼んでくれた……! 私の名前を呼んで、優しく微笑んでくれてる……! かっこいい、好き……って、違う違う! 今はコンテストのポップの話をしなきゃいけないんだからね、私っ!)
「ひ、ひぁい……っ!」
「ん? どうかしたのか?」
「い、なんでもないです……! 間の抜けた返事しちゃって、バカバカ、私のバカ……っ」
顔を真っ赤にして自分の頭をポンポンと軽く叩くまひろ。
「えっ、えっと……それで、拓海さん……ここのドリンクバーのスープを飲みながらなんですけどね、この前の新商品のポップなんですけど……」
いつもとは違う、甘くて、けれどどこかピュアで温かい空気がファミレスのボックス席に広がる。
目の前で一生懸命に仕事の相談をしながらも、時折恥ずかしそうに目を合わせては伏せる彼女の可愛さに、俺はなにを食べてなにを相談されているのか、頭が完全にフリーズしてしまいそうだった。
(あかん……今日のまひろちゃんは破壊力が桁違いすぎる……! 俺の胃袋は今日も今日とて、大忙しで悲鳴を上げているぞ……っ!)
動悸と甘すぎるプレッシャーに耐えかねた俺は、ドリンクバーのスープを飲むフリをして、こっそりポケットの『ラベール胃腸薬プレミアム』に手を伸ばすのだった。
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