三つ巴の火花と、決意の宣戦布告
二階堂先輩のアドバイスでデレデレ可愛さ全開の涼香、愛妻弁当で胃袋と良妻ポジションを固めるほのか、そして親友・玲奈との作戦会議を経て「ガチ中のガチ」の恋心に目覚めたまひろの正面からの宣戦布告!
月曜日の昼下がり。白鳥駅前店の調剤室と売り場は、いつも以上の熱気とピンと張り詰めた緊張感に包まれていた。
「あ……陣内さん、午後の資料チェックですけれど、こちらでよろしいかしら……♪」
出社するやいなや、二階堂文華先輩からの指導を忠実に実行する氷室涼香は、陣内の隣でうっとりと頬を染め、溢れ出る可愛さを隠そうともしない。月曜日特有の憂鬱など微塵も感じさせないツヤツヤの笑顔だ。
(……薬局長ったら、月曜日からエリア長の成分を吸い取ってデレデレしちゃって……『ブルーマンデー』って言葉を知らないのかしら?)
コスメ棚の陰からその光景を見つめる有栖川まひろは、悔しそうに美唇を噛み締めた。
さらに視線を巡らせると、休憩室のデスクでは白石ほのかが大切そうに可愛い巾着袋を抱え、昼休みを心待ちにしている。今日も陣内の胃袋と体を気遣った「胃に優しい手作り愛妻弁当」を準備してきたのだ。
(ほのかちゃんの妻ムーブも、なかなか手強いわね……! 胃に優しい和食アピールで確実にエリア長の胃袋を掴みにいってる……!)
だが、まひろはもう先週までの「様子見の小悪魔」ではなかった。
親友の玲奈とカフェで作戦会議を行い、自分が陣内に対して抱いている気持ちが「遊びやノリではなく、ガチ中のガチ」だと確信したのだ。
ただの『エブリデイ可愛い有栖川まひろちゃん』のままじゃ終われない。
一段上の、本気の女性としてエリア長に振り向いてもらうのだ!
(私だって、ただメイクが得意なだけじゃない……! 店舗全体の可愛いデザインや売り場作りだって考えられるんだから! 今度のグループ店舗ディスプレイコンテストでまた最優秀賞を取って、エリア長に認めてもらうんだから!)
さらに、まひろは密かに次の手も打っていた。スポーツ学科卒の玲奈直伝の「高タンパク&ヘルシー鶏肉料理」を習い始めたのだ。
(エリア長の胃が弱いのは確か! だったら脂肪分の少ないサッパリとした鶏胸肉やささみで、ヘルシーで美味しいお弁当を作って胃袋だって攻めてやるんだから!)
――決意を固めたまひろは、昼休み終わり…
陣内が本部に旅立ったのを確認し
バックヤードで二人と鉢合わせた瞬間、二人に話す
「……ねえ、お二人さん。最近……いろいろ桃色ですよね?」
「なぁに……急にどうしたの、有栖川さん♪」
ツヤツヤの肌で機嫌よくお茶を飲む涼香。
「そうだよー、まひろちゃん。どうしたのー?」
白衣を整えながら、すっかり良妻風のオーラを纏ったほのか。
まひろは二人に向かってバシッと人差し指を突きつけた。
「宣戦布告よ……! お二人に対して、正式に宣戦布告します!!」
「「!?」」
唐突な宣言に、涼香もほのかも目を丸くして驚いた。
まひろは息を呑み、顔を真っ赤に染めながらも、ごまかさずにハッキリと言い切った。
「私は……私、エリア長のことが大好きなのっ!!」
一瞬の静寂ののち、涼香とほのかは脱力したように顔を見合わせた。
「「……いや、そうでしょうね」」
息ピッタリのハモり。
「ち、ちっがーう!!」
まひろは足を踏み鳴らして抗議した。
「みんなが思ってるような『エリア長かっこい〜♡』みたいな、いつもの可愛いまひろちゃんの軽いノリとは違うの! 本気中の本気! ガチなんだから!!」
その言葉に含まれた真剣な熱量を感じ取り、涼香のメガネの奥の瞳と、ほのかの清楚な瞳に一瞬で火が灯った。
「……ふふっ、私だって本気ですわ。陣内さんへの思いなら、誰にも負けるつもりはありません」
涼香が優雅に、しかし絶対に譲らない笑みを浮かべる。
「私だって! 先輩への気持ちは絶対に負けません!」
ほのかも胸の前で固く拳を握りしめた。
「「「絶対に負けないんだから(負けません)ーーーッ!!」」」
バックヤードに響き渡る、三人のヒロインたちの熱い宣戦布告のハモり。
甘く激しい三つ巴のヒロインレースは、ここに完全な全面戦争へと突入したのだった。
【同時刻:ドラッグラベールグループ本社】
「……っぐはぁっ!?」
本部会議室でエリアマネージャー会議の資料を作成していた俺――陣内拓海は、突然みぞおちを貫いた激痛に悲鳴を上げて机に突っ伏した。
「ど、どうした陣内エリア長!? 急に顔色が土気色だぞ!?」
隣のエリアマネージャーが慌てて肩を揺らす。
「い、胃が……! なぜか現場(白鳥駅前店)から離れた本部にいるのに、過去最大級の胃の激痛とプレッシャーが俺の胃袋を破壊しにきている……っ!!」
理由の分からない恐怖と、白鳥駅前店で何かが決定的に爆発した予感に冷や汗をダラダラと流す俺。
俺は震える手でスーツのポケットへ手を伸ばすと、本部の会議室の真っ只中で愛用の『ラベール胃腸薬プレミアム』を取り出し、命からがら喉奥へ煽り込むのだった。
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