二階堂先輩の緊急アドバイスと、デレデレ攻勢
料理の大失敗で焦り、理科大の先輩・二階堂文華を頼る氷室涼香と、そんな彼女に的確(?)な「デレデレ押し切り作戦」を伝授する先輩、そして遠く離れた場所で謎の激しい胸騒ぎと胃痛に襲われる陣内のドタバタ劇
ほのかの手作り「胃に優しい愛妻お弁当」の成功と、自身の薬膳スープ大失敗事件に打ちのめされた氷室涼香は、居ても立ってもいられなくなり、最近体調がすっかり落ち着いた東京理科学大学の先輩・二階堂文華(30)を白鳥駅前店近くのカフェへ呼び出していた。
「どうしたの、涼香ちゃん? そんなに焦った顔をして」
テーブル越しに向かい合った文華が、カフェラテを一口飲みながら優しく尋ねる。
「ん……んーと……大変困ったことが起きまして……」
「え? もしかして……ライバル(後輩)に出し抜かれちゃった?」
「はっ……はい……っ! 後輩の白石さんが、手作りの胃に優しいお弁当を陣内さんに差し入れし始めたんです……! それがまた、とても美味しかったらしくて……! どうやら彼女には管理栄養士の友達が味方についているらしいのです……!」
悔しそうに拳を握りしめる涼香に、文華はくすりと笑った。
「でも涼香、あなたあんなに化学ができるんだから、料理くらいレシピ見れば簡単にできるでしょう?」
「違うんです先輩! 私、実際に作ってみて痛感いたしました……! 食材というものは複雑な多成分系(天然有機化合物の複合体)ですので、理論通りの計算や抽出がうまくいかないのです! キャベツから胃粘膜保護作用のビタミンUを極限まで抽出して添加しようとしたら、pHが乱れて怪しいスープになってしまって……!」
必死に理系理論で弁明する後輩を見て、文華は呆れ半分、可愛らしさ半分でため息をついた。
「もう……涼香、本気なのね?」
「やっぱり私……あの人がすっ…好きみたいで……あの、その……っ」
顔をリンゴのように真っ赤にして俯く涼香に、文華は頬杖をついて楽しそうに微笑んだ。
「大丈夫よ。誰がどう見ても『好き』にしか見えないんだから安心しなさい(笑)」
「せ、先輩……っ!」
「いい? アドバイスしてあげる。まず、ヘンテコな自作薬膳料理を彼にあげるのは一旦中止!」
「えっ!?」
「料理は教科書――つまり、市販の料理本に書かれている手順通りに寸分違わず行いなさい。科学実験と同じで、余計な成分抽出とかアレンジをしないこと!
それからね……焦る気持ちは分かるけど、今のあなたはあなたの『デレデレ具合』に彼をやられていて、一歩リードしてるのは確実に涼香よ?」
「そっ……そうかしら……?」
涼香はメガネの奥の瞳をパチクリとさせた。
「あのエリア長さんだって、決して満更ではないわよ。マジで今、彼の中で一番ポイントが高いのは貴女なんだから」
「やっ……やったぁ……♪」
柄にもなくパッと表情を輝かせ、胸の前で手を合わせてニヤニヤと甘い笑みを浮かべる涼香。
「そうそう! その感じを普段から出しなさいよ! 今は地道に料理の練習をしつつ、その素直な可愛さで押し切るようにしなさい!」
「はいっ! 文華先輩、ありがとうございます……っ!」
文華の変な(けれど超的確な)恋の指導に目を輝かせ、打倒お弁当&デレデレ全開アタックを決意する涼香だった。
【同時刻:白鳥駅前店】
「……っ!?」
デスクで本部提出の書類をチェックしていた俺――陣内拓海は、突如として背筋に走った恐ろしい戦慄に息を呑んだ。
風邪をひいたわけでもないのに、なぜか猛烈な悪寒が全身を駆け抜け、みぞおちのあたりがキューッと締め付けられるように激しく痛み出す。
(な、なんだこの予感は……!? ほのかちゃんの優しいお弁当で平和が訪れたはずなのに……何かが……何かが白鳥駅前店に向かって迫ってきている気がする……!!)
まだ見ぬ氷室薬局長の「デレデレ押し切り作戦」の恐怖を感じ取った俺は、冷や汗をダラダラと流しながらポケットから『ラベール胃腸薬プレミアム』を取り出すと、尋常じゃないプレッシャーに耐えるべく、一気に喉奥へ煽り込むのだった。
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