本部の葵先輩は天敵お姉さん
月曜日の朝。店舗全体の朝礼を前にしたバックヤードに、高ヒールのかつかつという澄んだ音が響き渡っている
「あら~相変わらず胃弱そうねぇ拓海君」
声の主はスーツをスタイリッシュに着こなした美女
本部営業企画部の担当課長、神崎葵(33)だった。
スレンダーで細身、高身長の彼女はヒールをはいているのもあって俺に近い目線になっている
葵は俺の元へ歩み寄ると、当然のような顔で俺の頭をポンポンとする
「か、神崎課長お疲れ様です!どうしたんですか急に…っていうか今日の監査担当課長でした?つか俺ももうエリア長なんですからそんな…ほかのスタッフの目もあることですし止めてくださいよ」
「ふふっ、固いね~、別に誰も見てないと思うよ葵先輩でいいのよ~新人の時はあんなに手取り足取り教えてあげた仲じゃないの」
俺の入社当時の元教育係で明治薬化大学出身の先輩である
仕事は超優秀だが俺の事を弄んでいつもからかってくるお姉さん的存在である
「「「拓海君?葵先輩?手取り足取り」」」
その単語がバックヤードに響いたとき3点から殺気が刺さる
振り返ると売り場の物陰から3人の女性が顔を覗かせている
(たくみ…くん…だと…?何よアイツ…頭弄って距離感おかしいでしょ…)
自分の事は棚に上げてイライラするまひろはブルブルと震えている
(「葵先輩」?別の店舗の先生かな…何なのよ…あの女…)
涼香はボールペンをクラッシュしそうな勢いで握っている
(エリア長が…完全に年下弟のような扱いを受けている…本部の女め…)
ほのかは私のあこがれの先輩が軽く扱われているのにショックを受けて固まっている
(おいおい三人がなぜかキレ気味じゃねぇか…どうしたんだ…神崎課長の事は知らないのか?)
俺が冷や汗をかいてビビっていると小声で悪魔のように囁いている
「ふふ…面白っ…あんたすごい美人たちを囲い込んでんのねー、なんだか仕事ばっかり頑張っているような感じに見えていたけど、すごい殺気で見てきているじゃなーい…なんか私を勘違いしているのか刺されそうな勢いで見てる」
「神崎課長…なんだかよからぬことを考えて煽ってますね…俺の胃のライフはもうゼロに近いのに…」
「そう?あんなかわいいのに囲まれてたら普通有頂天にでもならない?あれだけ可愛いと取り扱いは難しいのかな~なんか必死になっているあんたを見てると面白いね、もう少し弄ってみようかな」
葵は口元をファイルで隠しながら楽しそうに笑っている、完全にこの状況を娯楽として楽しんでいる様子である
「そうだ、拓海君!昔は葵先輩~全然終わりませんとか私によく泣きついていたのに、立派になって最年少エリア長なんて感無量だわ~」
「ちょっ…なに捏造してんですか?そんな泣きついたりなんかしてないでしょ~」
殺気が増してきている
「あのぅ~本部の方ぁ~?」
ひきつった営業スマイルでビキつきながら近づいてきたのはまひろだった
「エリア長はいま本日の店舗巡回の準備で忙しいんですぅ~思い出話はもっと余裕のある時にゆっくり本部でされればいいじゃないですかぁ~」
「あらぁーかわいいコスメ担当さんねぇ、つい拓海君みてると昔話をしたくなっちゃうのよーなかなかかわいいじゃない?自分の教え子が最年少で偉くなるなんて思わなかったしさぁーついね」
まひろが「ぐぬぬ」と後退すると今度は涼香がズイっと前にでてきた
「神崎課長お疲れ様です、本日の内部監査データはそろっています、ご説明の準備もできておりますしエリア長のお手を煩わせる必要もありませんので私がご案内いたしますよ…」
多少ビキ付きながらも大人の対応をしようとしている・よしこのまま先輩を連れて行ってくれ
「まぁ、優秀そうな薬局長さん、でも薬局長の働きぶりも見たいわー、そうだ拓海君に手取り足取りで案内してもらうからあなたは普段通りにしてていいわよ」
「~~っ!スケジュールにはただの内部監査としかなかったのに…」
涼香に青筋が浮かんでいる…
最後はほのかがなんとか食い下がってきている
「か、神崎課長!エリア長は勉強熱心でそんな先輩に泣きついたり弱音はいたりするような人じゃないですもん、私はキャンパス時代から追ってきたんだから…そんなことないもん…」
「ふふ、キャンパスの追っかけちゃんまでいるなんて…そこまでイケメンかなぁ…拓海君はいつからこんな女たらしになったのかしらね~」
3人の本気すぎる感じに葵先輩は可笑しそうにケラケラ笑っている
(この人なんか面白がって弄っている…この三人を前にしてもこんな余裕があるとは…恐ろしい先輩だ…しょっちゅう監査にならないように万全の体制にしたのは間違いではなかったな…)
「よしよし~それじゃあ今日の店舗監査開始しましょうか~拓海君は逐一私に説明すること~」
「神崎課長~勘弁してくださいよ~」
葵先輩に腕を引っ張られそのあとから三人の美人がぴったりと尾行しているおかしな状況となっている
仕事の監査どころではない、天国と地獄がまざったような謎の白い巨塔が始まった
俺の胃は朝の9時の時点でクラッシュ寸前になってしまっている
(今日が早く終わってくれたらなぁ…頑張れよ…俺の胃ちゃん…)
俺は3人と1人から逃げ出すようにポケットから最初のラベール胃腸薬プレミアムを出して悲鳴を上げる胃へ流し込んだ
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