打ち上げは酔いどれ争奪戦
イベント大成功の熱気も冷めやらぬ日曜の夜。
駅前の風情ある居酒屋「和み屋」の掘りごたつの席でジョッキとグラスが軽やかな音を立ててぶつかり合った
「イベント大成功と、今日の全員の健闘を祝って乾杯します!」
「「「カンパーイ」」」
「ぷはぁ~激務のあとのビール、身体にしみわたります~」
真っ先にジョッキをあおったのはコスメリーダーの有栖川まひろだ。
ほんのりと頬を桜色にそめたまひろはぷはっと息を吐くと隣にいる俺 陣内拓海のほうへズイっと体を寄せてきた
「ねぇエリア長!今日のイベント、私のコスメブースが一番盛り上がってましたよね!ねっ褒めて下さい~」
「あぁ、すごかったよ有栖川さんの実演販売のおかげでほぼ完売だったしな~トラブルがなければ完売してたんじゃないかな、本当に助かったよ」
「えへへ~!褒められちゃった!じゃあ私のご褒美に…今日はエリア長のお隣は独占決定ですね」
まひろはあざとい笑いを浮かべると、俺の右腕をすっぽりと自分の抱き枕のように抱え込んできた。
ふんわりと漂う甘いカクテルの香りと腕に伝わるやわらかい感触。
「ちょ!有栖川さん!?うで!腕にあたってるから!」
「やーです今日くらい甘えさせてください!」
「有栖川…お酒が入っているからといってエリア長に過度なスキンシップしないで、みっともないわ、陣内さんも鼻の下でろでろだし…」
対面から静かだが鋭い声がする
黒髪を流し、日本酒のグラスを傾けているのは店舗薬局長の氷室涼香だ。
いつもの眼鏡姿に戻っているがお酒が回っているせいか頬がほんのり朱にそまっている
どこか艶っぽい雰囲気を醸し出している
「ふーんだ…薬局長だって本当はエリア長の隣狙ってたくせに…じろじろ見てたのを見ましたよ~意外に薬局長も頑張るんですね」
「なっ…!べ、別に私はそんな近くに座ろうとかあからさまに身体あてようとかそんなこと…興味ないわ!私はただ苦労性のエリア長が少し心配なだけで、ちょっと見える位置に陣取っただけよ」
涼香は慌ててグラスを煽るとぷいっとソッポをむいてしまう
だが耳たぶまで赤くなっている まひろは気づいているが エリア長はもじもじして気づいていないみたい
「あの~みなさん!私はお二人ともよりもずっと前からエリア長を監視…じゃなくて知ってるんですからべとべとくっついたって駄目ですからね」
ここでカシスオレンジをちびちび飲んでいた新人薬剤師の白石ほのかがトロンとした瞳で会話に割り込んできた。
「白石さん?お酒回るの早いな…大丈夫?」
「ふふっ、大丈夫ですよ~、でも私が一番長く知っているのは本当ですよ~私は大学時代のエリア長も知ってるんですから~、お二人は学校も違うし私だけしか知らないキャンパスの絆があるんですから~」
ほのかは胸の前で小さなこぶしを握りしめ熱っぽい視線をエリア長に向けた
「西城大学薬学部…私がピカピカの一年生のときキャンパスで伝説になっていた先輩がいたんです。数年に1度しかでない特待生で清潔感もあって、でも嫌味な感じもなくて学費国立化を勝ち取っている主席イケメンも陣内拓海先輩ですぅ」
「そ…そんなイケメンかしら…?」
「えっ…白石さん俺と大学重なってたのか?」
「知ってるどころじゃありません!華やかなサークルをすべて断って分厚い専門書を抱えて颯爽と歩く先輩の姿…尊い…2号館の購買でいつも唐揚げ弁当食べてからちゃんとブレスケアしてから学習室にこもって勉強されていましたよね、先輩の大好きなからあげ頼んでありますからね~」
「な、なんで俺が唐揚げ弁当厨のことを…」
金がなく余裕もなかった俺が少しでも安くてうまいものを食おうと必死になって唐揚げ弁当と自習室を行き来していたことを知っている人間がいるとは…
「ふふ、追っかけしてましたからね、エリア長はサークル入ってなかったので接点はあまりもてなかったですがドラッグラベールに入ったのは知ってましたよ私が5年の頃には薬局長になっているし~私も追いかけて入ったらもう既にエリア長だなんて…かっこよすぎじゃないですかぁ…私がエリア長の胃袋になるって決めました、唐揚げも極め済みですから安心してください」
((こいつ…五年越しのストーカー…ならぬエリア長の追っかけをしてるなんて…要注意人物じゃない…))
俺が美女に囲まれすぎて固まっている間に3人は鋭くけん制しあっている
「ふっ…白石さん…大学時代の思い出話は結構ね…でも現場で一番陣内エリア長を支えてきたのは私だわ、知ってからの年月は貴女が一番長いかもしれないけど…ここでの生活に関しては私に分がある」
「私はミスしたことはないわ、ただマニュアルや正確な調剤にこだわって患者さんとあまり向き合えてなかったのかもしれない、みなからは冷たいとか怖いとかいろいろ言われて遠ざけられてたけど、エリア長は違ったのよ、エリア長は変なミス等もあって最初は疑ってたけど、患者様にも親しく親身な服薬指導ですごかったのよ、ただ正しい情報を伝えたらよいという訳ではないのをよく教えてくれた先輩なの、まっ…まあお勉強は私の方が得意だから…ずっと手伝っていこうって決めただけなんだから」
照れくさそうに話ししている涼香は可愛らしい顔で話をしている
確かに入ってきたときはスゲーエリートのとがった美人が入ってきたもんだと思っていた
俺には荷が重かったのは確かだ
「何よ~二人ともずるいずるい!私だって入社当時にミスしたりつまずいたときにエリア長が優しくフォローしてくれたんだもん!薬剤師の事はわからないけど・ほかの先生と違ってすごい優しかったし差別せずに接してくれたんだもん、責任は私が持ちますっていって守ってくれたこと一番カッコいいって思ってるのは私ですからね!唐揚げの事は知らなかったけど私が一番先にあ~んしちゃお!食べてくださいエリア長!」 すこし遅れてしまった(相変わらず距離がバグっているが)まひろが参戦してきた
「あ~エリア長私もあ~んしちゃお!先輩はとにかく鶏肉好きですもんね~調査済みです・少しテイストを変えて私の焼き鳥たべてください」
「ちょ…ちょっと!そんな肉ばっかりあげたら胸やけすごくなるじゃない!このお出汁で少し胃を休ませるのが先よ!」
まひろの唐揚げ、ほのかの焼き鳥、涼香の出し汁のはいった器が同時に俺の口元にせまってくる。
至近距離で弾ける、三者三様の美女の酔いどれアタック!
それぞれの想いが激突し狭い座敷の上は完全に危険な戦場と化していた
「み…みんな落ち着いて…一つしか食べられないよ…」
「「「誰のあ~んを最初に食べますか?」」」
逃げ場のないプレッシャーと胃のキャパシティ限界が俺を襲っている
俺は3人の熱い視線から逃げるようにポケットからこっそり手を伸ばす
カサリと鳴る相棒の銀色パッケージ
(ラベール胃腸薬プレミアム…今夜も俺の胃袋を守ってくれ…)
俺は手慣れた手つきで胃薬の封を切りお酒の席の困難にまぎれてそれを喉の奥に押し込んだ
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