白鳥駅前店の唯一の短所と、影の「神」対応
現場仕事でデリケートゾーンの痒みに悩む男性客・中池さん目線で描かれる「白鳥駅前店の唯一の弱点(=美人すぎて買いづらい)」と、男性客の尊厳とプライバシーを影から神対応で守り抜く陣内のプロフェッショナリズム
俺は工事現場で汗を流して働く32歳の中池。
この『ドラッグラベール白鳥駅前店』の隠れた常連客だ。
この店の凄まじいところは、とにかく働く女性陣が異常なまでに可愛いことだ。
コスメ担当のアイドルみたいな子も、新人っぽい清楚系の子も、ギャルっぽい実習生も、全員が異次元のレベル。特に俺のイチオシは、調剤室の奥でメガネを光らせているクール系の薬局長さん(後で知ったが氷室さんというらしい)だ。一体なにを食べたらあんな凛とした超絶美人になるんだろう。
日用品やドリンクをここで買い、彼女たちの姿を遠目からチラッと拝むのが、過酷な現場仕事を乗り切る俺のささやかな癒しだった。
――だが!
そんな楽園のような癒やし空間にも、たった一つだけ恐ろしい弱点が存在する。
(くっ……股間が……現場の作業着で蒸れてアソコがめちゃくちゃ痒い……!!)
秋とはいえ動く俺たち、現場作業でデリケートゾーンがかぶれてしまい、猛烈な痒みに襲われていたのだ。
普通ならドラッグストアに行ってフェミニーナ軟膏やデリケアM'sを買えば済む話だ。周りの奴らは「売り場に置いてあるのをサッと持って会計に行けばいいだろ? 店員なんて客の買ったものなんて気にしてないって」と言うだろう。
だが、俺にはどうしても譲れないプライドがあった。
(あんな超絶美人な彼女たちに、俺が股間の痒み止めを買うところを見られたくないし、レジで打ち直されたりなんかしたら恥ずかしすぎて二度とこの店に来られなくなる……!!)
俺はOTC医薬品コーナーの『デリケートゾーン皮膚薬』の棚の前で、腕組みをしながらフリーズしていた。パッケージを凝視しつつも、周囲に可愛い店員さんが近づいてこないかビクビクと警戒する。
その時だった。
「おーい、有栖川さん! コスメコーナーでお悩み相談のお客様がいらっしゃりそうだから、フォローをお願いできるかな?」
「はーい! ただいま行きまーす♪」
バックヤードから現れたスーツ姿の男性――エリアマネージャーの陣内が、売り場で陳列をしていたエブリデイ可愛い有栖川さんに自然なトーンで声をかけた。
(おお……あの可愛い子は『有栖川さん』っていうのか……本当にお人形さんみたいで可愛いなぁ……って、違う違う! 俺は今、股間の薬を買いたいんだ!)
さらに、棚の反対側からやたらスタイルの良い巨乳のギャル実習生がチラッとこちらを見ながら歩いてくる。
(うわっ! ギャルに見られてる!? 男として終わった……!)
冷や汗を流して縮こまる俺に、またしても「神」の声が降臨した。
「おーい、涼宮さん! バックヤードの見学は一区切りにして、調剤室で処方監査の勉強に入ってくれ」
「あ、了解っす陣内先生〜!」
パタパタと走り去っていくギャル実習生。
(……えっ……? もしかしてこの男性は……俺が股間の薬を凝視してるのに気づいて、気を利かせて周りの可愛い女性店員たちを人払いしてくれたのか……!?)
俺が呆然としていると、陣内さんは俺にプレッシャーを与えない絶妙な距離感と角度で、サッとレジカウンターの引き戸を開けた。
「お客様、大変お待たせいたしました。こちらのレジでお会計をお受けいたします」
(か、神だーーーーーッ!!)
俺はダッシュで『デリケア』を棚から引っ掴むと、引きつった顔でレジへ差し出した。
陣内さんは嫌な顔一つせず、手際よくバーコードをスキャンする。
「ピッ……1,024円でございます」
そして、周囲の客や他の女性スタッフから商品名が絶対に目立たないよう、小さくて中身の透けない小袋へ、速攻かつ滑らかな動作で薬を包み込んでくれた。お釣りを渡してくれる手の添え方も完璧だった。
さらに、商品を手渡す際、俺にしか聞こえないほどの誠実で小さな声でそっと囁いてくれたのだ。
「汗や蒸れが原因の痒みは辛いですよね。もしお薬を塗っても症状が長引くようでしたら、無理なさらずに一度皮膚科で真菌(カンジダや白癬菌)のチェックも受けてみてくださいね。お大事にどうぞ」
(な……なんて自然で温かい気遣いなんだ……! 男としての尊厳を100%守ってくれた上に、完璧なアドバイスまで……!!)
「あ……ありがとうございましたっ!!」
俺は深々と頭を下げると、感謝と感動で胸を熱くしながら店を後にした。
俺はこの日、クール系薬局長さんのファンであると同時に、影から男のプライドを守り抜いてくれた「神(陣内エリアマネージャー)」の熱狂的なファンにもなったのだった。
もちろん、これからもずっと白鳥駅前店に通い続けるつもりだ!
【その頃の店内】
「ふぅ……、無事に薬を買えてよかったな。男性特有のデリケートな悩みはレジで出しづらいものだからな……」
男性客のプライバシーを守り切った達成感で胸を撫で下ろす俺――陣内。
すると、調剤室の影から氷室涼香がすっと現れ、メガネの奥の瞳をキラリと光らせながら、じっと俺を見つめていた。
「……陣内さん」
「うわっ!? 氷室さん、どうしたんだ?」
「先ほどのお客様への細やかな配慮と人払い……見事な神対応でしたわ。……ですが」
「で、ですが……?」
涼香はほんの少しだけ頬を赤らめると、不満そうにぷくーっと唇を尖らせた。
「……私を売り場から遠ざける必要までありましたの? 私だってプロの薬剤師ですもの、どのような部位のお悩みであっても、誠心誠意フラットに服薬指導できますのに……」
(いやいやいや! 中池さんは『氷室薬局長に股間の薬を買うところを見られたくない』っていう男のプライドで必死だったんだよ!わかる…わかりみすぎる!!)
さらに、後ろからまひろとほのかも追撃してくる。
「そうですようエリア長! 私だってコスメだけじゃなくてお薬のカウンセリングできますのにーっ!」
「エリア長、私を頼ってくれないなんて寂しいです……!」
女性陣からの「もっと頼ってほしい」という予期せぬ甘いクレームの嵐。
(あかん……! 俺だって…痒くなるときもある…彼の気持ちは死ぬほどわかるんだ!頼りにならないってことじゃあねーんだ!!お客様の尊厳を守ったはずなのに、なんで俺が責められてんだーーーっ!?)
俺は苦笑いしながらポケットへ手を伸ばすと、本日も安定の『ラベール胃腸薬プレミアム』を取り出し、そっと喉奥へ流し込むのだった。
「少しでも『面白かった!』『続きが気になる!』と思ってくださったら、下部の【★で評価する】や【ブックマーク】を押していただけると執筆の大きな励みになります!」




