レビー小体と超低用量処方、そして予期せぬキャバクラ疑惑
レビー小体型認知症(DLB)特有の薬物過敏性(超低用量リボトリールの意義)という臨床薬学知識と、認知症患者さんの誤解から始まった「キャバクラ疑惑」、そしてそこからまさかの「バスト&ボディライン誇り合い対決」へと発展する白鳥駅前店のドタバタ劇
「ちょっ……コレ、先生打ち間違えてるっしょ……!」
調剤室で処方箋を検品していたギャル実習生の涼宮あげはが、素で声を裏返させて固まっていた。
患者は定期的に来局する桜井トメさん(82)。病名はレビー小体型認知症(DLB)。今日も華奢で可憐なお孫さんが付き添いとして一緒にやってきている。
あげはが指差した処方内容を見て、白石ほのかも首をかしげた。
「わっ……これ、氷室薬局長のかかりつけの患者さんなんだよね。……でも、前からずっとこの量(リボトリール細粒0.1% 0.1g/日=クロナゼパムとして0.1mg)なの。不思議だなぁ……」
「なんか気休めで飲んでる系?」
ふたりが不審そうに顔を寄せ合っているところへ、書類を抱えた俺――陣内が通りかかった。
「あっ♪ 先輩! あのあのー、見てほしい処方箋があって!」
「あぁ、トメさんの処方箋か。大丈夫、そのままで合ってるよ」
「あのー、コレ……本当に効くんですか?」
あげはが疑問をぶつけてくる。
「リボトリール(抗てんかん薬・抗不安薬)の通常量は1日0.5mg〜1mg(細粒なら0.5g〜1g)っしょ! 0.1g(0.1mg)なんて少なすぎるっしょ!」
「おー、よく勉強してるじゃないか。精神科の力価や用量をちゃんと覚えてるな。苦手を克服できてきたんじゃないか?」
「むふー! あげはちゃんは常に進化する女の子っしょ! ……でもなー、こんなに少ない量で出す意味あるんすか? 少ない分には副作用が出ないから大丈夫なのかな?」
「ねーっ……レセプトも通る量だけど、なんでこんな超低用量なんだろう……」
ほのかも不思議そうに俺を見つめてくる。
俺はふたりに向き直り、教えるように語りかけた。
「二人とも、良い着眼点だ。特にレビー小体型認知症の患者さんはな、中枢神経系作用薬に対する薬剤過敏性(Hypersensitivity)が非常に高いんだ。通常量どころか、ほんの『なんだこれ?』っていうレベルの超低用量でも、幻視やREM睡眠行動障害、興奮症状がすっと落ち着くケースがあるんだよ。逆に通常量で出すと、過量になる、だからこの0.1mgという微量は、主治医が慎重にコントロールしている絶妙な適量なんだ」
「「へぇーーーっ!!」」
ふたりは感心したように深く頷いた。
「よし、じゃあ俺が投薬してくるから見ててごらん」
服薬指導カウンターへ移動し、俺は穏やかな笑顔で声をかけた。
「桜井様、こんにちは。今日はお風邪などひかれていませんか?」
付き添いのお孫さんが「おかげさまで、特に問題なく元気に過ごしています」と優しく答えてくれた、その直後だった。
それまでウトウトしていたトメさんが、突如としてカッと目を見開き、覚醒した!
「ちょっとアンタぁぁぁーーーっ!!」
「えっ!?」
お孫さんが焦って「あっ……あの、スミマセン! おばあちゃん、最近たまに先生(陣内)のことを死んだおじいちゃん(旦那さん)だと勘違いしちゃって……っ!」と補足する。
トメさんは俺の顔を鬼の首でも取ったかのように指差すと、店内響き渡る大声で叫んだ。
「何でアンタぁ! こんなキャバクラにいるのよぉーーーっ!!」
「ちょっ……!? 桜井さん!?」
俺が狼狽えていると、トメさんは俺の背後に控えていた、清楚で可憐なほのかと、スタイル抜群なあげはを交互に睨みつけた。
「クソったれー! この乳狂い(ちちぐるい)め!!」
「おばあちゃん、やめてー! 違いますから! 薬局ですからー!」
お孫さんは顔を真っ赤にしながら、暴れるトメさんをなんとか宥めて、嵐のように会計を済ませて帰っていった。
静けさを取り戻した店内で、俺はどっと冷や汗を流して胸を撫で下ろした。
「ふぅ……びっくりした。認知症の誤認とはいえ、『キャバクラ』とは参ったな……」
すると隣で、ほのかがふっと頬を赤らめ、どこか嬉しそうに髪を耳にかけた。
「ふっ……私も罪な女ですね……♪ トメさんから見たら、私たちがキャバクラの女の子に見えちゃったのかな……?」
それを見たあげはが、すかさず腰に手を当てて割り込んできた。
「なに言ってるっすかほのか先輩! トメさんが『乳狂い』って言ったのは、絶対アタシの爆乳を見たからっしょ!」
「なによなによー! あげはちゃんがすごい大きいだけで! 私だって隠れてるけど、形も綺麗だし捨てたもんじゃないんだからね!!」
「……えっ!?」
なぜか調剤室の真ん中で、突然「どちらがより魅力的か」の主張合戦が始まってしまった!
「絶対アタシの勝ちっしょ! ねっ、陣内先生! どっちのおっぱいが好きですか!?」
あげはがTシャツの上から強調するように迫ってくる。
「わ、私だって! 大きさだけじゃなくて形なら負けてないもーん! 先輩!私のも見てくださいっ!」
清楚なはずのほのかまで、対抗心を爆発させて上目遣いで胸元をアピールして詰めてくる。
左右から同時に迫り来る、フレッシュギャルと清楚系薬剤師の「美バスト誇り合い合戦」。
(な、なんで患者さんの勘違いから、俺が『どっちの胸が好きか』を判定させられる修羅場になってんだーーーっ!?)
至近距離で揺れる圧倒的なボリュームと可憐な体温に、俺の理性のヒューズは勢いよく飛び散った。
(あかん……! 刺激が強すぎる!! 今日はもうダメだ……!!)
俺はプルプルと震える右手でポケットへ手を伸ばすと、尋常じゃない速さで『ラベール胃腸薬プレミアム』を取り出し、二人の眩しすぎるアピールに耐えかねて、一気に喉奥へ煽り込むのだった。
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