投稿されたピンクの鈴と、お留守番達の逆襲
京都出張から大成功で帰還したはずの陣内を待ち受けていたのは、悪魔的神崎課長の社内SNS投稿によって怒り狂うお留守番ヒロインたちの恐怖の包囲網! 壮絶な尋問と胃痛の嵐
京都での『日本薬局協会年大会』を大成功で終え、夜の東京へと戻ってきた俺――陣内拓海。
新幹線の中では、隣に座る氷室涼香がどこか甘やかな余韻に浸りながら新幹線の席で眠りにつく横顔を眺め、ほっと胸を撫で下ろしていた。(かっ…可愛い)
(ふぅ……学会発表も無事に終わったし、これで明日からはいつもの平穏な日常に戻れるはず……)
――そう高を括っていた俺は、完全に甘かった。
翌朝、白鳥駅前店の出入口の自動ドアをくぐった瞬間。
店内の空気は、まるでマイナス五十度の極寒の地に放り出されたかのように凍りついていた。
「……おはよう、みんな」
恐る恐る声をかける俺。
だが、返ってきたのは爽やかな挨拶ではなく、バックヤードの中央に並んで立ち、冷ややかな視線を注ぐ三人のヒロインたちの姿だった。
「……お帰りなさいませ、エリア長」
清楚なはずの白石ほのかの目が、まったく笑っていない。
「エリア長ぉ……京都、とっても楽しかったみたいですねぇ……?」
エブリデイ可愛い有栖川まひろは、両手を胸の前で固く組み、頬をこれでもかと膨らませて嫉妬のオーラを全身から放っている。
「 エリア長、完全にやってくれたっしょ……!」
ギャル実習生の涼宮あげはまでもが、腕組みをしながらジト目で俺を睨みつけていた。
「え、えーっと……みんなどうしたんだ? 学会は無事に大成功して、演題の評価もすごくて――」
「成果の話なんてしてませーーーんッ!!」
まひろがバシッとスマートフォンの画面を俺の目の前に突きつけてきた。
画面に表示されていたのは、ドラッグラベールグループの『社内SNSポータル』。投稿者は――【本部営業企画部:神崎葵】。
そこには、渡月橋の夕陽をバックに、俺と涼香が並んで照れくさそうに笑っている写真が堂々と掲載されていた。しかも、二人の手元にはお揃いのピンクの鈴のお守りがバッチリと写り込んでいる。
さらに、添えられた葵先輩のキャプションが凶悪そのものだった。
『京都出張は大成功♪ 発表もバッチリ、嵐山での縁結びデートもバッチリ♡ 恋も仕事も全力応援! お揃いのピンクの鈴(※野宮神社の最強恋愛成就)で二人の距離も一気に急接近!? お幸せに〜♡』
「「「これ、どういうことですかーーーッ!?」」」
三人の怒りのハモりが、バックヤードに猛烈な衝撃波となって響き渡った。
「か、神崎課長ぉぉぉーーーッ!!余計な写真を撮って余計な嘘を書き込むなーーーッ!!」
俺は心の中で絶叫した。あの人が裏でニヤニヤしながらカメラを構えていたなんて、全く気づかなかったのだ。
「え、エリア長……! 野宮神社って、京都でも一番有名な『良縁・恋愛成就』の神社じゃないですか……! 私、知ってるんですからね!?女子はパワースポットだいすきなんですから!」
ほのかが涙目になりながら詰め寄ってくる。
「そうですよ! 学会の成功祈願って言っておきながら、なんで二人でお揃いの『恋愛成就のピンクの鈴』買ってるんですかぁ! 私だって、私だってエリア長とお揃い欲しいのにーーっ!」
まひろが今にも泣き出しそうな声で俺の服の裾をぎゅっと引っ張る。
「あげはもマジでショックっしょ! ウチらをお留守番させておいて、京都でイチャイチャなんてズルすぎるっしょ!あげはも学会の空気しりたかったのにー」
「ち、違うんだ! 俺はあの鈴が恋愛成就だなんて全然知らなくて! ただ氷室さんが『お揃いの記念品が欲しい』って言うから……!」
俺が必死に弁明したその瞬間――。
「あら、何が『違う』のかしら?」
後ろから、洗練された甘い声が響いた。
出勤してきた氷室涼香が、白衣を優雅に羽織りながら入ってきたのだ。その鞄には、あのピンクの鈴が愛おしそうにゆらゆらと揺れている。
涼香はフッと余裕の笑みを浮かべると、焦る三人のヒロインたちを優しく見下ろした。
「陣内さんが買ってくださったのは事実ですし、二人で野宮神社にお参りしたのも事実よ。……ねえ、陣内さん?」
「ひ、氷室さん!? 火に油を注ぐような言い方はやめてくれ……っ!」
「「「厶ーーーッ!! 薬局長ずるーいッ!!」」」
涼香のマウントにまひろとほのかの対抗心が限界突破し、三人は一斉に俺の腕や服にすがりついてきた。
「エリア長! 次の休み、私と町田に買い物デート行ってください! お揃いのもの買ってください!」
「ずるいですまひろさん! エリア長、私ともお揃いの文房具買ってください!」
「あげはも! あげはも原宿でお揃いのキーホルダー欲しいっしょー!」
「わ、わかった! 落ち着けみんな! 服が伸びる! 腕が抜けるーーーッ!!」
四方八方から押し寄せる美しすぎる圧迫感、激しい引っ張り合い、そして背後から注がれる涼香の怪しい勝利の微笑み。
出張明けの爽やかな朝になるはずだった調剤室は、過去最大級の甘く激しい修羅場と化していた。
(あ、アカン……!! 京都で発表したJARSのデータより先に、俺の胃袋の限界値がオーバーヒートを起こす……!!)
俺は絶望に目を見開きながら、かろうじて自由な右手でポケットへ手を伸ばすと、愛用の『ラベール胃腸薬プレミアム』を取り出し、三人に揉みくちゃにされながら一気に喉奥へ煽り込むのだった。
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