ラタノプロストとゴワゴワまつ毛、そして目元アピール戦線
緑内障治療薬(プロスタグランジン関連薬)の副作用「まつ毛の多毛・剛毛化」に悩む患者さんへの、薬剤師の専門知識とまひろのコスメ技術を掛け合わせた完璧なフォロー、そして最後は恒例の「美人ヒロインたちの目元アピール戦線」に巻き込まれる陣内の胃痛コメディ
新山(37歳)は、最近どうにもついていないと感じていた。
なんだか目が重痛いと思って眼科を受診したら、自分とは無縁だと思っていた「緑内障」と診断されたのだ。
処方されたのは『ラタノプロスト点眼液』。
真面目に点眼を続けたおかげで眼圧は下がり、頭痛や目の重さもすっきり取れた。……だが、別の妙な悩みが浮上してきたのである。
(……なんか、まつ毛が変にゴワゴワ伸びてきた……)
処方箋を最初に持っていったドラッグラベールで、すごく可愛い薬剤師さん(ほのか)から「副作用でまつ毛が伸びることがありますよ」と説明を受けた時は、「なーんだ、伸びるなら美容的にラッキーじゃん」なんて気楽に思っていたのだ。
しかし、実際に伸びてきたのはしなやかな美まつ毛ではなく、毛穴から太くゴワゴワと主張する不揃いな毛束だった。
(……もう一回、あのドラッグストアで相談してみようかな……)
悩んだ末、新山は再び白鳥駅前店のカウンターを訪れた。
「あのぅ……ちょっとご相談が……」
「どうされましたか、新山様?」
「わっ……」
カウンターの奥から出てきたのは、黒髪の眼鏡をかけたクールで知的あふれる超絶美人――薬局長の氷室涼香だった。
「あっ……あの……お薬のせいか、まつ毛が変に伸びて太くなっちゃって……」
「あぁ……確か、ラタノプロストを使われていましたわね」
(えっ……処方内容まで覚えてるの……? スゴ……)
新山が圧倒されていると、涼香は手際よく電子薬歴を確認しながら優しく語りかけた。
「かかりつけの眼科の先生に当たっている毛を抜いてもらう方法もありますけれど……それだと『いたちごっこ』になりますものね。副作用で毛周期が伸びて毛髪が太く濃くなるのは、プロスタグランジン関連薬の典型的な特徴です。……あっ、ちょうど良いところに。うちには社内メイクアップ大会準優勝がおります。有栖川さん!」
パタパタと軽やかな足音を立てて、エブリデイ可愛いまひろがやってきた。
「お呼びでしょうか〜っ、薬局長♪」
「お薬の副作用で、まつ毛が太く長く、少しゴワついてしまう患者様がいらっしゃるの。綺麗に見せる上手なメイクやケア方法、アドバイスできるかしら?」
「もちろん大丈夫ですよ! おうちで簡単にできる『魅せまつ毛』のケア、すぐ実践しましょう♪」
まひろはプロの営業スマイルを咲かせると、新山へ向けてスラスラと分かりやすく解説を始めた。
【プロ直伝! 伸びすぎ・太いまつ毛の整えケア】
まつ毛コームで毛流れを整える
「長さや太さがあると、毛が絡んだり方向が不揃いになって雑然と見えやすいんです。洗顔後やメイク前に、清潔なスクリューコームで優しく毛流れを一本一本整えてあげるだけで、一気に垢抜けますよ!」
マスカラは『薄塗り』&『ブラウン』
「もともと自毛にボリュームが出ているので、重ね塗りはNGです! 毛先を中心に軽くセパレートさせる程度で十分。黒よりも『ダークブラウン』や『シアーブラウン』を選ぶと、一気に柔らかい印象になります♡」
アイラインは『控えめ細め』
「まつ毛の生え際が濃くなっている分、太いアイラインを引くと目元が重たくなりすぎちゃいます。まつ毛の隙間を埋める程度か、目尻にスッと細く引くだけで自然な目力が作れます!」
落とすときは絶対にこすらない
「プロスタグランジン系の副作用が出ている目元は、刺激に少し敏感になっています。目元専用の低刺激リムーバーをコットンに含ませ、優しく押さえてオフしてくださいね。引っ張るのは厳禁です!」
「なるほど……これなら私にもできそう!」
まひろの完璧で親身なアドバイスに、新山はすっかり満足して表情をほころばせた。
(ふふっ……来てよかったなぁ。このお店、本当にみんな可愛くて優秀だわ……)
新山が笑顔で去っていったちょうどその時、書類を抱えた俺――陣内がカウンターの脇を通りかかった。
「お疲れ様。みんなで何の話をしてたんだ?」
俺が声をかけると、まひろが待ってましたとばかりにパッと顔を輝かせ、俺の腕にギュッと抱きついてきた。
「あっ♪ エリア長、エリア長! 誰の目が一番好きですかぁ〜?」
「えっ!?」
不意のアピールに俺が狼狽えていると、隣にいたほのかが、負けじと頬を少し赤らめながら俺の顔を覗き込んできた。
「ふふっ……私、目元のメイクは結構自信あります! 負けないですよ、まひろさん♪」
さらに、クールなはずの氷室薬局長まで、メガネの奥の瞳をキラリと光らせて優雅に一歩踏み出してきた。
「あら、アイラインの繊細さとバランスなら、私だって負けてないわ♪」
いきなり目の前に広がる、三者三様の圧倒的な美の競演。
至近距離で迫る透明感あふれる瞳、艶やかなまつ毛、そして甘い吐息。
「「「ねぇ、誰の目が一番ですかーっ!?」」」
(だ、誰が一番なんて選べるかーーーっ!! 誰か一人を選んだ瞬間、他の二人の視線で刺し殺されるだろ!!)
全員が眩しすぎるほどの美人で、全員が真っ直ぐな好意を向けて迫ってくる。
まぶしい光に包まれながら、逃げ場を失った俺の胃袋は「キュゥゥゥ……!」と過去最大の悲鳴をあげた。
「あ、あのさ……みんなの目、それぞれ違った魅力があって甲乙つけがたいというか……うぐっ!?」
言葉を濁した瞬間、三人の鋭い熱視線が一斉に俺を射抜く。
(あかん! 命が持たん!!)
俺はプルプルと震える手でポケットへ手を伸ばすと、キラキラした美女軍団の圧迫感に耐えかねて、本日何度目かの『ラベール胃腸薬プレミアム』を喉奥へ流し込むのだった。
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