ギャル実習生の涙と神崎課長の荒療治
「やっほー、あげは!」
カツカツとハイヒールの小気味いい音を響かせながら、本部営業企画部の神崎葵課長が白鳥駅前店のバックヤードへ颯爽と足を踏み入れた。
「……あんま元気ないっしょ……」
いつもは茶髪を揺らして「マジアツいっしょ〜♡」と笑っている涼宮あげはが、珍しく肩を落とし、デスクに突っ伏してどんよりと沈み込んでいる。
「なになにー、どうしたの? アゲハちゃん、お姉さんがなんでも聞いてあげようじゃないのー」
葵先輩はヒョイとあげはの隣に腰掛け、ワインレッドのリップを揺らしながら優しく微笑んだ。
「だって……まひろ先輩はゲキカワでメイクコンテスト準優勝のチートだし……」
「うんうん、それでー?」
「薬局長は凄い知識量でエリア長を独占するしぃ……」
「うんうん、そうねぇ♪」
「あとはほのか先輩が仲間かっ!って思ったらぁ……なんかガン患者さんの難しい悩みも余裕で解決しちゃうし……あたしは殺細胞薬の味覚障害かと思ったんだ…」
「あらあら、皆凄いわねぇ!」
「あげははさ……ずっと大学でもトップクラスだったのに……なんか、自信なくすっしょ……」
いつになくシリアスに悩むあげはの頭を、葵先輩はふわりと優しく撫でた。
「なになにー? あげはちゃん、おっぱいだっておっきくて可愛いわよー♪」
「いや結構マジな話っしょ!」
「全く……」
葵先輩はふっと柔らかく笑うと、すっと立ち上がり、バックヤードの隅で書類仕事に没頭するフリをして怯えていた俺の方をキッと鋭い眼光で睨みつけた。
「ちょっとー! 拓海くーん?」
「っ……はい! 神崎課長! お疲れ様です!」
突然の指名に、俺はビシッと背筋を伸ばした。
「もー、何でこんな可愛い子が悩んでるのに慰めてやんないのよぉ! 可愛いのが困ってんじゃなーい!」
「いや、涼宮さん、周りのレベルがちょっとおかしいだけで、実習生としてはめちゃくちゃよくやってるよ! 評価も最高だぞ?」
「あんた評価とか…何言ってんのよー、そうじゃないのー。ねー、あげは?」
ぷくーっと頬を膨らませてフクレるあげはを見て、葵先輩はやれやれと首を振った。
「全く……これだから無自覚女たらしは分かってないわよね(笑)」
「あんたね、学生なんだから経験が少ないのは当たり前でしょ? でも、よく勉強してついてきてるじゃない。凄いのよコレって!自信をもちなさいよ。皆みたいに『いいところ』をコイツにうまく見せられなくて、ちょーっとへそ曲げちゃったのよねぇ」
「いっ……いや……そんなんじゃないっしょ……」
あげはが照れくさそうに顔を赤らめてそっぽを向く。
「元気出しなさいよ。やっぱり、笑ってるあげはの方がずっと可愛いわよ?」
そう言って葵先輩は、売り場でコスメの整理をしていた彼女を呼んだ。
「有栖川ちゃーん、カモン!」
「はーい、何ですかぁ〜?」
呼ばれてやってきた有栖川まひろに、葵先輩は指示を飛ばす。
「なんだか泣いて少し目元が崩れちゃったみたいなの。直してあげて」
「かしこまりぃー♡」
秒速でポーチを取り出し、まひろはプロの技であげはの崩れたメイクを完璧に直していく。先輩風を吹かせるどころか、細やかに後輩をケアするまひろの姿に、あげはも「……ありがと、まひろ先輩」と照れくさそうに微笑んだ。
そんな様子を満足げに見届けると、葵先輩は再び俺をビシッと指差した。
「あんたねぇ、本当に鈍感なんだから!」
「おっ……俺の指導が甘かったでしょうか……?」
胃にダメージを受け冷や汗を流す俺に、調剤室から様子を覗いていた氷室涼香と白石ほのかが呆れたように声をかけた。
「氷室先生、白石ちゃん……本当にコイツ、どうしようもないわよねぇ」
「悩んでる陣内さんも、なんだかんだ尊いですけどね……」
「先輩はニブチンですから、しかたないのです」
ヒロインたちの呆れ混じりの、けれどどこか愛おしそうな視線が俺に突き刺さる。
わけが分からないまま、周囲に励まされたあげははすっかり機嫌を直し、「やっぱ私、明日からもがんばるっしょ!」といつもの眩しい笑顔を取り戻した。
だが――。
嵐が去った静かなバックヤードで、俺はそっとポケットに手を突っ込んだ。
「……やっぱり、胃の機嫌を治すには、これしかなさそうだな……」
みんなの笑顔を見届けながら、俺は今日も今日とて『ラベール胃腸薬プレミアム』を取り出し、静かに喉へ流し込むのだった。
「少しでも『面白かった!』『続きが気になる!』と思ってくださったら、下部の【★で評価する】や【ブックマーク】を押していただけると執筆の大きな励みになります!」




