精神科チームの過疎と、ダブル胃薬の選択
受講者がたったの3人(陣内・涼香・天音)という極少人数の「精神病・認知症チーム」で午後の講義が開幕! 陣内エリア長による超本格的な認知症研修認定薬剤師・精神科薬物療法認定薬剤師のレクチャーと論文エビデンス指導が展開される中、自分ばかり指導される天音ちゃんに涼香が激突した
私――薬師寺天音。
これから店長セミナー午後の専門チーム講義が始まろうとしている。
(くっ……これといって明確な目標を持たずに参加したことは認めよう! 大人の薬剤師として、そして薬局長としての態度は良くなかったのかもしれない……)
だが……神様、一体何の罰だというのだ!!
講義室の【精神病・認知症チーム】のブースに集まったのは――
指導者:陣内拓海エリア長
受講者:氷室涼香薬局長
そして私……薬師寺天音
以上、3人!! 終了!!
(なぜなんだ……っ!? 精神科領域って、これほどまでに全社で人気がないとでもいうのか……!?)
見渡せば、受講者の大半は「ジェネラリストコース」へ流れ、社内のエリート組は花形である「がん・緩和医療チーム」へ殺到。食事や代謝の栄養学が好きな層は「糖尿病チーム」へと固まっていた。
そして……残されたこの精神科ブース。
(こっ……こんな、ピンク色のオーラを全開に垂れ流している桃色の2人に、私が混ざって本当に大丈夫なの……!?)
私の心の叫びを余所に、講壇の陣内エリア長は爽やかな笑みを向けた。
「りょっ……涼香さんと薬師寺さん……! 認知症・精神科領域を選んでくれてありがとう!」
「はぁぁぁい♪!!(超高音&満面の笑み)」
(涼香ちゃんの熱量……パネぇ……っ!!)
「はっ……はいっ!!」
気圧された私は、焦って返事をするのが精一杯だった。
陣内エリア長は真剣なプロの顔つきに切り替え、ホワイトボードを背に滑らかに解説を始めた。
「お二人には、この講義を通じて【認知症研修認定薬剤師】か【精神科薬物療法認定薬剤師】のどちらかを目指してもらおうと思う。まずは各認定薬剤師の厳しい認定要件を伝えつつ、実際の症例報告書の作り方なども一緒に見ていこう!」
「はぁい♪ 症例報告書なら、もうバッチリできてますぅ〜♪」
(ハッ……! スケベだけど、当然のように事前準備ができてるのね……涼香ちゃん……化物すぎる……っ!)
そんな完璧な涼香に対し、私は小さく挙手をした。
「あの……私、まだ症例報告の具体的なイメージが湧いていなくて……一緒に見てもらってもいいですか?」
すると涼香が、溢れんばかりの色香を漂わせながら、すっと私を覗き込んできた。
「もちろんですわ天音ちゃん♪ ここ、しっかりエビデンス(科学的根拠)はあるかしら?」
「はい♪」
「良いね。主治医の先生に提出する際、『なんとなく』とか『そう思ったから』なんて生半可な理由で持っていくと、容赦なく叩き落されるからね。引用できる海外論文やガイドラインの該当ページをきれいにまとめておいて、最後に提示するんだよ」
陣内エリア長は、まだ理解が追いついていない私を優しく見守りながら丁寧に指導してくれる。
……って言うか、心なしか陣内エリア長、涼香ちゃんの顔を正面から直視できていないような……? 涼香ちゃんが可愛すぎて、直視できないのだろうか?
案の定、私の隣で涼香ちゃんが両頬を「プクーーッ」と膨らませ始めた!
「ちょっと……天音ちゃん? まさか……」
「ちょっと拓海さん、待ってください!!」
涼香ちゃんは私の手首を掴むと、コソコソと陣内エリア長から離れた壁際へと引っ張っていった。
「あっ……天音ちゃん……! まさか……そうやってイケメンたちを手駒にしてきたのね!!」
「???」
「だって! だって! 拓海さんが天音ちゃんばかり見て……はっ……!! 貴女、3人目のライバル(涼香・ほのか・まひろに続く4人目)になる気!?!?」
「いや! 違うよ!? 大丈夫だよ涼香ちゃん!!」
「だってあの二人……一ノ瀬薬局長と神楽坂エリア長を選べないだなんて言っておいて! 今度は拓海さんをっ……!?」
「いやいやいや涼香ちゃん!! 落ち着いて!! 陣内エリア長はね……涼香ちゃんが可愛すぎて恥ずかしくて直視できないの!! 私を指導するフリをして、照れをごまかしてるだけなのよーーーっ!!」
「……っ!?」
次の瞬間――スッと、柔らかく温かい感触が私を包み込んだ。
「可愛い〜〜〜♪ 天音ちゃん……っ♡」
(ポワポワポワ……♡)
「はっ……!?」
涼香ちゃんがうっとりとした顔で、私にぎゅーっと甘えるように抱きついてきたのだ! いい匂いと圧倒的な柔らかさが私の全身を包み込む!
ふと遠くを見ると――離れた席にいた一ノ瀬薬局長、神楽坂エリア長、そして陣内エリア長の3人が、揃って少しスケベで鼻の下が伸びた顔で、抱き合う私たちを凝視していた!
「はわわわわわわ……っ!!」
(わっ……私の悩みの種がまた大暴走しちゃうーーーーーっっ!!)
「涼香ちゃん! はっ……離れてっ! 落ち着いてっ!!」
「だって天音ちゃん、可愛いんですもの〜♪」
(どうなってんだこのセミナーはーーーーーっっ!!)
ひとしきり私を可愛がった涼香ちゃんは、大満足のニコニコ顔で陣内エリア長のもとへと戻っていった。
「もぅ……拓海さんったら、照れちゃって♪」
「!!?」
あまりの怒涛の展開と、胃の奥から押し寄せる強烈なストレスに――。
陣内拓海エリア長と、私――薬師寺天音は。
奇しくもまったく同じタイミングでポケットから『ラベール胃腸薬プレミアム』を取り出し、同時に服用するのだった。
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