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美人だらけのドラッグストアで胃薬が止まらない件  作者: 薬師寺 あかね


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損益分岐点と、尊すぎる三角関係

損益分岐点や保険調剤の複雑な仕入れ差益・技術料(100%手元に残る粗利)構造、消費税の非課税・損税の仕組みといったビジネスの本質を楽勝で解き明かした神楽坂グループ!

各エリア長から配られたのは、自店舗のリアルな店舗予算と売上・利益構造が刻まれた計算シートだ。

高い薬を闇雲に調剤したところで、昨今の医薬品市場では購入価格と売上価格の「差額(薬価差益)」などほぼ存在しない。

というのも、調剤薬局が医薬品を卸から仕入れる際には消費税(10%)が課されるが、いざ患者へ保険調剤として投薬する際、公的医療保険制度や学校教育法等の枠組みの中では消費税は非課税と定められている。つまり、支払った仕入れ消費税を患者に転嫁して請求する先が存在しないのだ(いわゆる「控除対象外消費税=損税」問題である)。

国民皆保険制度は国民にとって素晴らしい仕組みだが、経営側から見れば100%良いことばかりではない。

一方で、薬剤師の技術や介入に対して支払われる【調剤基本料】や【地域支援体制加算】、【服薬管理指導料】などの各種技術料は、原価がかからないため売上がそのまま100%手元(粗利)に残る構造になっている。

海外の多くの国々では薬価差益(マークアップ)を薬局の主な収入源とするが、日本の調剤システムは世界的に見ても極めて特殊だ。あまりにも制度が複雑なため、業界内ですら構造の理解が及んでいない薬剤師は少なくない。

そのため――「処方箋1枚でだいたい〇〇円くらい利益が出てるでしょ!」といったフワッとした理解のまま、「だから自分の年収はこれくらい貰えて当然だ!」とトンチンカンな主張を展開する若手が出てくるのもこれが原因なのだ。

かと言って、「医療は慈善事業なのだから収益なんて関係ない!」と綺麗事をのたまう医療者もどうなのか。適切に利益を出して店舗を維持できなければ、持続可能な地域医療の提供など不可能なのだ。

何と言っても、医療者・店舗幹部として制度と財務の深い理解は絶対条件と言える。自店舗の損益分岐点(PL)と利益構造を正確に把握することは、臨床スキルと同じくらい重要なのだ!

……と、そんな厳格な講義が進む中。


鉄の神楽坂エリア長率いるグループは、開始早々に全員が完璧な計算を叩き出していた! 涼香を筆頭に、色々な煩悩に左右されまくっている面々ではあったが、ビジネスと財務の計算に関しては恐ろしいほど優秀だったのだ。

シートを検品した神楽坂エリア長が、満足そうに頷く。

「うん……全員、計算も分析も完璧に合っているな!!」

「ふふっ……さっきの奇行が嘘のようですわね!」

涼香が自慢げに胸を張る横で、天音ちゃんと一ノ瀬蓮の二人は心の中で盛大にツッコミを入れた。

((((どう考えても、一番奇行を連発していたのは氷室(涼香ちゃん)だけどな……!!!!))))

だが、全社オータム研修の最優秀賞や上位成績者たちの集まりだけあって、財務計算など彼らにとっては楽勝すぎたのだ。

周りの薬学偏重型の頭カチカチ薬局長たちが計算シートを前に苦戦して頭を抱えている中、早くもやることがなくなって暇を持て余した神楽坂グループ。

そこで涼香のスケベな探究心が、怪しく光り輝いた。

(そうだわ……。なぜ天音ちゃんは、あのイケメン一ノ瀬薬局長と神楽坂エリア長という二大男性陣から引っ張りだこで争奪戦になっているのか……手ほどきを受けてみようかしら!)

涼香はサッと二人(一ノ瀬&神楽坂)を手のひらで制した。

「ちょっと……男性陣は少し離れてくださる?」

「「なっ……氷室(涼香ちゃん)!?」」

一ノ瀬と神楽坂エリア長を追い払うと、涼香は天音ちゃんの肩を抱き寄せ、コソコソと耳打ちした。

「ねぇ天音ちゃん……あの二人をどうやって手なづけたの……!?」

「えぇっ……! わ、わからないよ涼香ちゃん! 手なづけてなんてないよぉ……!」

涼香は二人の男性陣をチラリと見やり、うっとりと呟く。

「なんか……あのご両人、アイドルグループの『MiLK』のメンバーに雰囲気が似ているわよね……」

「そっ……そうなのーーーっ!!」

天音ちゃんは急に目を輝かせると、両手で顔を覆ってジタバタし始めた!

「もう尊すぎてヤバイのよ二人ともっ!! 見ているだけで胸が苦しくて、胃が破裂しそうなのっ!!」

「ちょっと……貴女は誰が一番好きなのよ……?」

「えっ……みっ、みんな好きで決められないよう……っ!」

「そう……決められないから、胸が痛くて胃が痛むのかしら……?」

「そっ……そうかも……!」

天音ちゃんのその一言を聞いた瞬間――涼香の脳内で、とんでもないロジックがガチッと組み上がった!

「そんな……っ! じゃあ、拓海さんがいつも胃薬をかっ込んで胃をやられているということは……っ! 私たちヒロインの中で『誰に決めようか選びかねて苦しんでいる』ということなのねーーーっ!!?」

「えぇぇ!? 涼香ちゃん、私には陣内エリア長の胃の理由なんて分からないよー!?」

「わかるわ! 天音ちゃんならわかる!!」

「ちょちょちょ……無理言わないでよー!!」

ふと、前方で【精神病・認知症チーム】のブース準備をしていた陣内拓海エリア長と目が合った。

陣内は、涼香からの熱い視線に気づいて「うっ……」と顔を真っ赤にして照れくさそうに目を逸らした。

ズッキューーーーーン……!!(涼香のハートに命中)

「ふっ……天音ちゃん……滅(メツ)!!」

「!!?」

涼香は天音ちゃんの背中をパシッと叩いて押し出すと、見かねて近寄ってきた一ノ瀬のもとへ天音ちゃんを放り投げた!

「おいおいおいおい……どうしたんだ氷室薬局長……!」

「天音ちゃんを返すわっ!!」

押し出された天音ちゃんの柔らかい手が、ぴとっと一ノ瀬の腕に触れる。

「「!!?」」

次の瞬間、一ノ瀬蓮と神楽坂エリア長の二人の間に、バチバチとした見えない火花と視線バトルが巻き起こった!

(ふっ……恋って本当に盲目ですわね……!)

自分の圧倒的な恋の全能感に酔いしれる涼香は、一ノ瀬に向けてそっと「グッドラック(幸運を)」のサインを送るのだった。

――こうして、講義自体は簡単すぎて涼香たちにはあまり勉強としての手応えはなかったものの、グループ内に何とも言えない奇妙な連帯感と青春の熱気が生まれるのだった。

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