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美人だらけのドラッグストアで胃薬が止まらない件  作者: 薬師寺 あかね


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絶望のガイドラインと、甘い匂いの枕

昼間の涼香との不毛で可愛い小競り合いの後、自宅で「認知症・精神科領域認定薬剤師」のガイドラインや参考書を開いてみた白石ほのか! 凶器じみた厚さの専門書、途方もない1800分(20単位)のeラーニング動画、絶望の6時間グループワークショップ、そして老眼を殺しに来るような症例報告書の添削指導……。あまりの専門性の壁の高さに涙を流しながらも、「今は無理なことが分かった!」と潔く開き直り、拓海の甘い匂いの残る枕を抱きしめてMiLKの曲を聴きながら眠りにつく爆笑&健気で愛おしいエピソードをお楽しみください!

昼間のあの謎の小競り合いの熱も冷めた、その日の夜――。

自宅の部屋で、白石ほのかは涼香に「臨床の基本だから読んでおきなさい」と勧められた『認知症疾患診療ガイドライン』を机の上に広げていた。

「っっ……!!」

ページをめくった瞬間、ほのかは目眩(めまい)を覚えて倒れそうになった。鈍器として人を殴れば余裕で倒せそうなほどに分厚い、あまりにも凶器じみたガイドラインの分量。

「どっ……どうなってんのよ、これ……! 薬局長……まさかこれ、全部覚えたってこと……!?」

ふっ……と、ほのかは自嘲気味に冷や汗を拭った。

いくら東京理科学大出身の超エリートだからって、このガイドラインの隅から隅まで全部暗記していたら、もはや人間技ではない。

「……なるほど! eラーニングだわ!! 講義動画でポイントとコツを上手く掴んだのね!! ふふっ、甘いわ薬局長……! このゲキカワほのかちゃんを出し抜こうなんて言っても無駄なんだから♪」

ほのかは意気揚々と日本薬剤師会連合の受講要項ページを開いた。

『――受講要領:認定取得には講義20単位の履修が必須となります』

「えーと、1単位が90分だから……90分×20単位=1800分(30時間)……」

画面を二度見し、ほのかは頭を抱えて叫んだ!

「おかしいだろーーーーーっ!! どんな勉強量やねんーーーーーっっ!!」

休日をまるまる数か月分潰さなければ達成できない途方もない学習時間!

だが、ここで諦めるほのかではない。

「ま、まぁ落ち着け白石ほのか……! きっと何か抜け道……じゃなくて効率的な方法があるはず! そうだ、座学のテキストよ! テキストで要点が綺麗にまとまってるはずだわ!」

書棚から取り出した学会公式の認知症対策公式テキスト――ドサッと重い音が響く。

先ほどのガイドラインを遥かに凌ぐ、第二の凶器じみた厚さの専門書が現れた。

「う、血涙……っ! マジで無理なんですけど……っ!?」

「じゃあ……ワークショップはどうかしら! 実践的なグループディスカッションなら分かりやすい解説が……」

『――講習時間:1日あたり6時間。グループでの症例検討および発表(朝から夕方まで)』

「朝から晩までですか……!? いや、店舗のシフト入ってたら絶対厳しいっしょ……!」

「じゃ、じゃあ症例報告書!! 涼香薬局長が提出済みって言ってたやつ!!」

用紙サンプルを開くと、そこには若者の視力すら殺しに来るような超絶細かい文字で、ぎっしりと埋め尽くされた臨床データと介入記録。書き方ガイドラインには、指導医や指導薬剤師による血も涙もない激辛な添削指導例がズラリと並んでいた。

「目眩が……目眩が止まらない……っ!」

さらにその横には、追撃のように『BPSD(行動・心理症状)対応ガイドライン』と『精神科領域認定薬剤師公認テキスト』が並んでいる。

「えいっ!!」

現実逃避気味に本を開くも、やっぱり凶器じみた厚さの文字の山が現れるだけだった!

「どういうことなのよーーーーーっ!! 前の『研修認定薬剤師』の時もそうだったけど、制度が意味不明すぎるでしょーーーーっ!! 結局『認知症認定』とか言いながら、精神科領域全体を完璧にマスターしないとダメじゃない!!」

明日からは、全社のリーダーが集まる『店長セミナー』だというのに、胸の奥から湧き上がるフラストレーションが止まらない。

睡眠薬の作用機序に基づく詳細な使い分け……

多剤併用(ポリファーマシー)時の抗精神病薬の減量・処方提案……

認知行動療法(CBT)における薬剤師の介入と連携……

「フフフ……ほのかちゃん……大変勉強になりました……!!」

ほのかは涙目で、キリッと澄み渡った表情で自分自身に言い聞かせた。

「今の私には、絶対に無理なことが良く分かりました!!(キリッ)」

――つーーー……。

決意の直後、なぜか頬を伝って一筋の涙がポロリと流れ落ちた。

がっ…学生なら一日中勉強できるだろう…

しゃ…社会人には…それが無理なんだ…

薬局長業務をやりながら

こんな…無慈悲…

悔しさと、涼香の圧倒的な壁の高さを痛感したほのかは、抱きかかえていた枕に顔を埋めた。

ふと、その枕から……大好きな拓海さんのような、優しくて甘い香りがほのかに漂っていることに気づく。

(拓海さん……拓海さんは、こんな凄まじい勉強量を全部乗り越えてあの資格を取ったんだ……。やっぱり、すごすぎるよ……っ)

自分にはまだ到底届かない臨床の壁。新人賞…取ったのになぁ…

耐え切れない切なさと悔しさを抱えながら、ほのかはスマホで大好きな『MiLK』の曲を再生した。

心地よいメロディに包まれながら、ほのかは拓海に思いを寄せ、静かに深く眠りにつくのだった。

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