漢方レクチャーと、底知れぬエリア長の底力
連日の怒涛のラッシュと恋の暴走劇を支える調剤室で、小寺結衣とギャル実習生あげはがタッグ! 苦手な漢方のコツを質問された陣内拓海が、プロの服薬指導モードへ一変。構成生薬の数によるシャープ/マイルドの違い、エキス剤のパッケージ番号や横線の法則、主要ベース漢方の一覧を一切のメモなしで諳んじる「エリア長の本気」に、結衣とあげはが底知れぬ恐怖とプロの威圧感を覚える爆笑&勉強になるエピソードをお楽しみください!
血圧測定ブースと調剤カウンターが隣り合うコーナーで、ここ数日の怒涛のイベントラッシュと恋の大暴走劇を裏で支えてきた小寺結衣とギャル実習生・あげはの二人は、呆然と胸をなでおろしていた。
「あげはちゃん……すごいね、この薬局……」
「まじで凄まじいっしょ……」
調剤台の上の処方箋の山を見つめながら、あげはがポツリと呟く。
「てか、何でこれだけバタバタしてて誰も監査ミスしないし、お客さんも途切れないんだろうね……?」
「彼女(涼香・ほのか・まひろ)たちの……煩悩のパワー……?」
「そんなもんかなぁ……」
「ま、結衣先輩が調剤と鑑査をキチンと回せてるから成り立ってるっしょ!」
「えへへ、あげはちゃんは可愛いなぁ♪」
「フフッ、知ってるっしょ!」
結衣はふとあげはの顔を覗き込み、優しい笑顔で尋ねた。
「あげはちゃん、何か実習中で苦手な分野とか、今のうちに潰しておきたいところってある?」
「あー……ちょっとアタシ、漢方薬が苦手っしょ。エキス剤の名前多すぎて頭パンクするし」
「うっ……確かに。薬学部でも生薬とか漢方の講義コマ数って、西洋薬に比べると少ないもんね……」
二人は顔を見合わせ、調剤室の奥で資料を整理している人物へ視線を向けた。
「……あのデレデレ鼻伸ばしエリア長に聞くしかないっしょ」
「大丈夫なんだろうか……今、頭の中が桃色みたいだけど……」
「まあ、ものは試しっしょ!」
二人は意を決して、陣内拓海の元へと歩み寄った。
「エリア長〜! 漢方の服薬指導のコツ、おしえてほしいっしょ!」
「おっ……! 涼宮さん、ついに漢方の魅力に目覚めたか!」
俺――陣内拓海は、一瞬でデレデレ顔を引っ込めると、キリッとしたプロの指導薬剤師の顔つきに切り替えた。
「よし、ざっくり分かりやすく教えよう!!」
ホワイトボードのマーカーを手に取り、俺はスラスラと解説を書き始めていく。
【陣内拓海の漢方臨床レクチャー】
「基本的に漢方は、構成生薬の数が多いとマイルド(穏やか)になりやすく、構成生薬が少ないヤツはシャープ(即効性・鋭い)に効く。例えば『芍薬甘草湯』みたいに2種類しか生薬が入っていないヤツは、足のこむら返りに激効きするシャープな薬の代表格だな」
「へぇ〜っ! 生薬の数で効き目の鋭さが違うんだ!」
「そうだ。それと『葛根』や『麻黄』が入っている処方は、熱を出して発汗させる陽性症状の緩和(解表・発汗)に使う。だから体力がない人(虚証)に出すのはよろしくない。葛根湯や麻黄湯は体力がしっかりある(実証)人向けだ。逆に体力がない虚証の人には『桂枝湯』ベースが良い。ちなみに、桂枝湯に生薬を足していくと葛根湯になるから、処方構成を見てみると面白いぞ」
「マジか! 繋がってるっしょ!」
「あと、シムラなどの医療用漢方エキス剤は下1桁の番号でパッケージの配色(帯の色)が決まっているんだ。例えば1番(葛根湯)は水色、4番は黄色、10番は紺色……みたいにね。横線の数は2桁目の数で本数が変わる。あと『〜加〜』という名前がついているのは、ベースになる基本漢方に何か別の生薬をプラスしたマイナーチェンジ版だ」
俺はホワイトボードに、主要な「ベース漢方」をカテゴリー別に一気に書き下していく!
【感謀・風邪】
桂枝湯 → 葛根湯 → 葛根湯加川芎辛夷(鼻かぜ・蓄膿)、独活葛根湯(四十肩・五十肩)
【婦人科・血の道症】
加味逍遙散(イライラ・不定愁訴)、芍薬甘草湯(急激な痛み)、加味帰脾湯(不安・貧血)、女神散
【水分代謝・むくみ】
五苓散(水分の偏り・二日酔い)、六味丸、八味地黄丸(フレイル・かすみ目)
【痰・激しい咳】
麦門冬湯(コンコン乾き咳)
【皮膚疾患】
十味敗毒湯(化膿性皮膚炎・ニキビ)
【胃腸虚弱】
四君子湯 → 六君子湯(食欲不振)、補中益気湯(元気を補う)、十全大補湯
【下剤・便秘】
潤腸湯、麻子仁丸(乾燥便向け)、大黄甘草湯
【メタボ・消化器・腹痛】
防風通聖散(固い太鼓腹)、大柴胡湯、大建中湯(術後麻痺・お腹の冷え)
【認知症・精神・不眠】
柴胡加竜骨牡蛎湯(神経過敏)、抑肝散、抑肝散加陳皮半夏
「……とまぁ、こんな感じだな!」
自慢げにマーカーのキャップをポンッと閉める俺。
「「…………」」
あまりの情報量の多さに、あげはと結衣は目を丸くしてフリーズしていた。
「ちょっ……ちょちょちょ! 長すぎるっしょーーーっ!!」
「えっ……エリア長……これ、全部テキストも見ずに暗記してるんですか……!?」
「ん? よく出る処方やうちの店舗のラインナップは当然頭に入ってるぞ。基本的に市販のOTC医薬品は漢方処方がベースのものがめちゃくちゃ多いからな。覚えておくと服薬指導の幅が段違いに広がる。特に胃薬類と風邪薬類は漢方知識が必須だ、市販薬に漢方多いから以外に調剤、ドラッグの薬剤師は病院の薬剤師さんより詳しい人も中にはいるぞ、頑張れよ!」
「「えぇぇぇぇーーーーーっっ……!!」」
さっきまでヒロインたちの顔を見るたびに鼻の下を13キロ伸ばしてデレデレ悶絶していた『ドスケベエリア長』が、一切資料も見ずに唐突な臨床漢方レクチャーをベラベラと速射砲のように解説してみせたのだ。
(((この人……普段あんなにスケベで胃薬かっ込んでるのに……薬剤師としてのスペックと知識量が化け物すぎる……っ!!)))
結衣とあげはの二人は、目の前の男の「ギャップ」に対し、恐怖にも似た底知れぬプロの威圧感と頼もしさを感じるのだった。
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