チラシ配りと有珠、電撃のMR参戦!
外でのチラシ配りにかこつけて逃げ出したものの、頭の中は「私が彼女だもーん!」と大号泣した涼香の妄想でいっぱいの陣内拓海! そこへ現れたのは、なんと実妹の陣内有珠。準天堂大学看護学部出身のエリート看護師だった有珠が、製薬大手セーザイの認知症領域スペシャリスト看護師MRとして電撃転職!
(涼香さん……涼香さん……っ! くっ……煩悩よ、去れーーーっ!!)」
逃げるように店舗を飛び出し、秋風が吹き抜ける駅前でティッシュとチラシを配っていた俺――陣内拓海は、荒い息を吐きながら頭を抱えていた。
完全に混乱していた。
昨夜のシュガーさんからの爆弾投下、そしてバックヤードでのシュガーさんの「もし涼香さんが拓海君の奥さんになったら〜?」という言葉が、呪いのように頭から離れないのだ。
(『私が彼女だもーん(泣)! 私が彼女だもーん(泣)!』……ぬわーーーーっっ!! 脳内で涼香さんのあの大号泣アタックが無限再生されるーーーっ!!)
「ハァハァ……っ! どうなってるんだ、この俺の気持ちは……っ!? まひろちゃんもほのかちゃんも、もちろん死ぬほど可愛い……! だが……涼香さんの存在が、頭から離れねぇぇぇーーーっ!!」
俺が駅前で頭を抱えて怪しく悶絶していると、呆れたような聞き覚えのある声が頭上から降ってきた。
「……あのさぁ。何やってんの、お兄ちゃん……?」
「なっ……!! あ、有珠……!? なぜお前がここに……っ!?」
目の前に立っていたのは、私服姿の俺の実妹・陣内有珠だった。準天堂大学看護学部を卒業し、大病院でエリート看護師として働いているはずの妹が、なぜか白い封筒とビジネスバッグを手に立っている。
「いや、お兄ちゃんの邪魔にならない程度に、少し話せないかなって思って。良かったら……sister(仮)の方々も一緒に……」
「なっ……だ、ダメだダメだ! 今は……精神的にダメだーーーっ!!」
俺が大パニックで手足をバタバタさせて拒絶しようとした、その時――!
「なーにがダメなんですかぁ〜?♪」――あざとく首をかしげる、まひろちゃん。
「今、調剤室の患者様……ちょうどハケてますよ♪」――爽やかに微笑む、ほのかちゃん。
「そうですよ……私……有珠ちゃんとお話ししたいわ……♡」――ボルドーのニットを揺らし、トロンとした瞳で見つめてくる、涼香さん。
「〜〜〜〜〜〜っっっ(完全包囲)!!!!」
店舗の自動ドアから現れたヒロイン3人は、俺の横を通り過ぎると、背中でこっそりガッツポーズを交わし合っていた。
(((伝わったーーーーーっ♪♪(拓海さんに私たちの本気が届いてる!))))
タジタジの俺と有珠が一緒に店舗へ足を踏み入れると、カウンターの奥で本部の悪魔・神崎葵統括課長が、ドヤ顔で高笑いを浮かべていた!
「フハハハハッ! 有珠ちゃんを呼んだのは私よ!! ラベールグループの『未来の重要クライアント様』にな!!」
「クライアント〜〜!? なに言ってるのかサッパリ分からないっすよ、神崎課長!!」
俺が突っ込むと、有珠はコホンと小さく咳払いをして、兄である俺を真っ直ぐに見つめた。
「あのね……お兄ちゃん。私、病院を退職して転職したの。看護師MRとして『セーザイ製薬』に引き抜かれました」
「ええぇぇぇーーーっ!!? 転職!!??」
「そう。セーザイ様が今、認知症・アルツハイマー病分野に精通している看護師MRを探していたらしくて。それで、今日からこの白鳥駅前店が私の担当エリア(管轄)になるの。お兄ちゃんが『認知症研修認定薬剤師』の資格を持ってるって上司の薬師寺さんに話したら、『手始めに挨拶に行ってこい』って言われてさ」
「な、何だってぇぇぇーーーっ!? すごいじゃないか、有珠!!」
妹の華麗なるキャリアアップに、俺は目を丸くして驚愕した。有珠はヒロイン3人に向き直り、ニッコリと人懐っこい笑顔を浮かべる。
「そういうわけだから……これで正式に、私もクライアント(製薬メーカー)としてここに出入りすることになりました、sister(お義姉さん候補)の皆様……♪」
「「「きゃ〜〜〜〜〜〜っ! 可愛い〜〜〜〜〜〜っっ♡♡」」」
有珠の「sister」呼びに、ヒロイン3人の目が一瞬でハートマークへと変わる!
そこへ葵課長が、腕を組んで大威張りで畳みかけてきた!
「見ろ拓海!! ドスケベ過ぎて自分の鼻の下に気を取られ、妹の覚醒と躍進にも気づかんとはな!! ……どんな技かも見切れんのか!たわけ!」
「なにジャンプ漫画の必殺技みたいなセリフ言ってるんすか、葵課長!!」
葵の暴言をスルーし、涼香さんがスッとボルドーの袖を正して有珠に向き直る。
「まあ、素晴らしいわ……。認知症分野の新薬指導と患者ケア……全社を挙げて全力でサポートさせていただくわ!! 有珠嬢!!」
「「「ははぁーーーーーーっっ!!」」」
涼香さん、ほのかちゃん、まひろちゃんの3人が、冗談めかして殿様にひれ伏すように頭を垂れる!
そのスキに、有珠はヒロイン3人を手招きして、キュートに耳打ちした。
「ふふっ……あの仕事バカの鈍感なお兄ちゃんにも、流石にsisterたちの本気が伝わったようね……。さあ……『sister決定戦』……スタートよ!!」
「「「おーっ!!(炎)」」」
――わけが分からないまま妹の製薬会社への電撃移籍とMR着任を聞かされ、脳内が桃色の涼香さん妄想と混乱で破裂しそうになった俺――陣内拓海。
「くっ……くそっ……! 胃が……胃が爆破されるーーーっ!!」
俺はポケットから『ラベール胃腸薬プレミアム』を取り出すと、水も飲まずに一気に口の中へとかっ込むのだった……!
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