二階堂先輩の襲来と、3歳の天使
昨夜の涼香からのサイコメール(ゾルピデムおねだり&暴走LINE)に戦慄した大学時代の先輩・二階堂文華が、3歳の息子・蒼人を連れて店舗へ急行! 蒼人くんの天真爛漫な抱きつきと破壊力抜群の「3しゃい!」にノックアウトされ、「私も子供ほしぃ…」と本音が漏れて真っ赤になる涼香。そして、その一部始終を物陰から見て鼻の下を伸ばしていた陣内に対し、シュガーさんの「ドスケベ選手権優勝」の爆笑ツッコミが冴え渡るエピソードをお楽しみください
昨夜、涼香から送られてきたあまりにも情熱的(かつ支離滅裂)なサイコメールに戦慄した大学の先輩・二階堂文華は、3歳になる息子の蒼人の手を引いて『ドラッグラベール白鳥駅前店』へと急行していた。
「よし! 蒼ちゃん、今日はね、ママのお友達(涼香)をコッソリ見に行ってみよっか! 帰りに〜おもちゃ買っちゃう!! 大好きなお菓子もミルクも買っちゃおうね〜♪」
「わーいっ! やったぁぁぁ!!」
蒼人くんをあやしながら店に向かう文華。
(あの生真面目な涼香が、仕事で遅刻したりセクハラじみた暴走をするなんて思えないけれど……昨日の『ゾルピデム欲しい! 拓海さんの前でヨダレ臭くならないようにしないと!』ってLINEは、流石にヤバすぎたわ……!)
重い足取りで店内に足を踏み入れると――そこには、どこか月明かりを浴びたように「ぽやぽや」とした幸せそうなオーラを漂わせながら、完璧に投薬服薬指導をこなしている涼香の姿があった。
「あっ! ママ、あのお姉ちゃん可愛いーーーっ!」
文華の手をすり抜けた蒼人くんが、トコトコと走っていって涼香の足元に抱きついた!
「ちょっ……蒼ちゃんダメダメ! すみませ――」
文華が慌てて制止しようとしたが、蒼人くんは無邪気に涼香を見上げ、満面の笑みを浮かべた。
「かーわーいーいーから、くっつくのー!」
「……っ!?」
足元を見下ろした涼香は、天使のような幼子の愛らしさに胸を撃ち抜かれ、思わずその場にしゃがみ込んで蒼人くんをぎゅっと抱きしめた!
(かっ……可愛い……っ! 先輩のお子さん、とんでもなく可愛いですわ……!!)
「りょ……涼香、ごめんね! 昨日の夜は私、眠くて適当な返事しちゃって! だっ……大丈夫なの!?」
文華がおそるおそる声をかけると、涼香はうっとりとした瞳で蒼人くんの頭を撫でていた。
「はぁ……可愛い……。蒼人君だよね……?」
「さんしゃい(3歳)!!」
くりっくりの大きな瞳で「3しゃい!」と指を3本立ててアピールしてくる蒼人くん!
「はぁ……はぁ……っ! 先輩……私をさらに脱落(覚醒)させるために、こんな天使を連れてきたのですか……!?」
「えっ……? 何のこと……?」
「私も……私も子供ほしぃ……っ!! はっ……!!」
「「「!!??????」」」
口から突いて出た自分の本音(ドスケベ願望)のあまりの重さにハッと気づき、涼香は一瞬で顔をりんごのように真っ赤にして俯いた!
「なっ……なんでも……ない……です……っ!!」
もう隠す気すら感じられないほどの情熱! 両手で顔を覆い、耳まで真っ赤にする涼香の姿は、まさに女子力が大爆発を起こしていた。
「はうあっ……! いまの言葉、今すぐ忘れてください〜〜っ!!」
悶絶する後輩の姿を見て、文華はホッと肩の力を抜いて溜息をついた。
(ふぅ……完全に杞憂だったみたいね。怪しい新興宗教とかヤバいクスリに手を出したのかと心配したけれど……単に『大好きな彼との将来』を妄想して暴走してるだけじゃない……!)
「あの……先輩……! 骨……骨密度を測っていかれませんか……っ!?」
照れ隠しで必死に話題を逸らす涼香の案内で、文華は骨密度測定機に足を乗せた。
ピ、ピ、ピー♪
結果は至って正常。健康そのものだった。
「ありがとう涼香。なんだか私の体も心も大丈夫そうね! 骨の数値も、涼香の元気な姿も見られて良かったわ。急に怪しいことでも始めるんじゃないかって本気で心配したんだから! 貴女、昔から思い詰めるとどこまでも突っ走っちゃうんだからね!」
足元では、まだ蒼人くんが涼香の膝に抱きつき、楽しそうに甘えている。
「ほら〜蒼ちゃん! お菓子買って帰ろう?」
「やだー!! あのお姉ちゃんも、ママにするーーーっ!!」
「〜〜〜〜〜〜っっっ♡♡♡」
「ママにする」という3歳児の無邪気すぎる爆弾発言に、涼香は顔から火が出るほど真っ赤になりながら、蚊の鳴くような声で俯くのだった。
「もー、涼香が困るでしょー。……でも涼香、自分の『好き』って気持ちを素直に出せるようになって良かったね。私、応援してるからね♪」
「先輩……っ♪」
【調剤室の陰・陣内拓海】
「(たっ……確か、幼い子供って直感で本物の美人になつくらしいからな……。それにしても、涼香さんのあんな母性あふれる表情……目のやり場に困るぞ……!)」
物陰から一部始終を覗き見していた俺――陣内拓海は、デレデレと鼻の下を伸ばしながら、真っ赤になった顔をごまかすようにバックヤードへ戻ろうとした。
――その瞬間!!
バックヤードのドアの前で、シュガーさん(等々力環奈)がニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべ、ドスンと仁王立ちしていたのだ!
「フッ……『ドスケベ選手権全国優勝』おめでとう、陣内君……♪」
「!!??????」
シュガーさんは楽しそうにクスクス笑うと、背中を向けて去っていった。
「ちょっ……ち、違いますってシュガーさん! 俺はただ……っ!」
反論しようにも、鼻の下を伸ばしていた自覚があるだけに何の否定もできず、俺――陣内拓海は、またしても激痛を訴え始める胃袋を押さえ、悶々と立ち尽くすのだった。
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