不器用なりに頑張った
「あはははははー!」
オトの笑い声が、アファルの頂に響いた。
赤と青の光が薄れ、過ぎ去った景色が消えていく。
「なにあれ。龍たち、案外器用に暮らしてるじゃない!」
「器用……でしたか?」
ヴァルガスが少し複雑そうな顔をする。
「畑もやってたし、魚も獲ってたじゃん。人化すればもっと楽だったのに」
「あの頃は、まだ皆、人化に慣れていなかったのですよ」
「そうなの?」
「龍の身体で生きてきた者が、突然あの小さな身体になるのです。力加減も分からず、歩くことすら覚束ない者もおりました」
「そっちのほうが不器用だったんだ」
「ええ。畑を爪で掘るほうが、まだましでしたな」
オトがまた笑う。
ナナはそんな二人を横目に、先ほどまで景色が映っていた幹を静かに撫でた。
「……みんなを受け入れてくださって、ありがとうございます」
ヴァルガスがナナを見る。
「約束しましたからな」
「それでも、です」
ナナは微笑んだ。
「叔母も、元気そうでしたし」
「叔母?」
オトが首を傾げる。
「最初にヴァルガスさんと話していた方です。私がヒトだった頃から、一緒に旅をしていたんですよ」
「へえー。あの人なんだ」
「ええ。龍と混ざった魔人ですから、ずいぶん長生きになったようですね」
ナナは眼下へ視線を落とした。
千年前には何もなかった場所。
今ではアファルを中心に、十本の塔と巨大な街が広がっている。通りには角を持つ者も、獣の耳を持つ者も、鱗を持つ者もいる。
「それにしても……増えましたね」
ナナがぽつりと言う。
「なにが?」
「魔人です」
オトも街を見下ろした。
「ほんとだ。いっぱいだね」
「最初は、あれだけしかいなかったのに」
ナナの目が細くなる。
「もう、誰が誰の子孫なのか分からないくらいです」
「ナナの仲間の子孫だらけだったりして」
「それも、あながち間違いではないかもしれませんね」
家がある。
道がある。
橋がある。
畑だった場所には建物が並び、その向こうまで街が続いている。
「すごいねえ」
オトが素直に呟く。
「みんなで作ったんだ」
「ええ」
ナナが頷いた。
そして、再び猫の足跡へ手を伸ばす。
「では――」
「次は?」
オトがすぐに覗き込んだ。
ナナは少し考えてから、ヴァルガスを見る。
「次の約束を見てみましょうか」




