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魔女の足跡〜千年前の黒歴史を消すために旅にでます〜  作者: はこぶね
英雄龍ヴァルガス編

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8/23

アファルの記憶

小さなアファルの周りには家さえなく、広い土地に龍たちが思い思いに身体を横たえている。


 ノワールとブランがこの地を去ってから、しばらく経った頃。


 遠くから、一団がやってくる。


 角を持つ者。

 獣の耳を持つ者。

 腕や頬を鱗に覆われた者。


 姿は一人ひとり大きく異なっている。


 それ以上に目につくのは、痩せた頬と傷だった。衣服は擦り切れ、包帯を巻いた者もいる。


 幼い子どもを抱えた女の足には、まだ新しい傷が残っている。


 その一団の前へ、ヴァルガスが降り立つ。


「お前たちが、ブランの言っていた一族か」


 先頭にいた女が、静かに頷いた。


「はい。あの子がまだただのヒトだった頃、ともに旅をしていた者です」


 ヴァルガスが目を細める。


「ずいぶん姿が変わっているな」


「ええ。あのお方の力で、皆魔人としていただきましたから」


 女は後ろを振り返った。


 角も、耳も、鱗も。


 同じ姿をしている者は、ほとんどいない。


「ここまで来るのにも、ずいぶん苦労したようだな」


「……どこへ行っても、長くはいられませんでした」


 それ以上、ヴァルガスは聞かなかった。


「好きな場所を使え」


 女が顔を上げる。


「いいのですか?」


「そのための場所だ」


*


 アファルを挟むように龍たちは山側に住み、やってきた魔人たちは川に近い平地に住むようになった。


 同じ土地に暮らし始めても、互いの生活へ踏み込む者はまだ少ない。


 それでも魔人たちは、自分たちの場所を作り始める。


 木を切り、家を建てる。

 土を耕し、種を蒔く。

 川へ網を投げ、魚を獲る。


 少しずつ屋根が増え、夜には小さな灯りが並んでいく。


 龍たちは、それを遠巻きに眺めている。


 ある日、一頭の龍が畑の前までやってくる。


「お前たち」


 大きな頭が、作業する魔人たちを見下ろす。


「ここを守ってやっているのだ。それくらい教えろ」


 太い爪が、実り始めた畑を指した。

 魔人たちは顔を見合わせる。


 翌日。


 その龍は畑にいた。

 大きな爪で、土を豪快に掘り返している。


「深すぎる!」


「細かいことを言うな!」


「種が全部埋まるだろ!」


 別の日には、川へ入った龍が翼で水を巻き上げ、魚と一緒に魔人まで岸へ吹き飛ばす。


 怒鳴り声が上がる。


 それと同じくらい、笑い声も増えていく。


 龍が運んだ大木を魔人が削り、家にする。

 魔人が焼いた肉を、龍が隣で食べる。

 収穫の日には、誰もが泥だらけになる。

 夜になれば、同じ火を囲む。


 初めは遠く離れていた二つの居場所を、行き来する者が少しずつ増えていく。


 それが、ここに結ばれた魔法のおかげなのか。


 毎日顔を合わせ、同じ土地で汗を流し、同じものを食べているからなのか。


 アファルには分からない。


 ただ、二つに分かれていた境目は、少しずつ見えなくなっていく。


*


 季節が巡り、家が増え、道ができる。子どもたちがアファルの根元を走り回る。


さらに別の一族も、この土地へやってくる。


 そのたびに新しい家が建ち、畑が広がり、船が増えていく。


 そして――百年。


 アファルは百メートルの高さまで育っている。


 その隣では、同じ高さの塔が一本、完成を迎えていた。


 塔の足元には、龍も、魔人も、そのあとからこの地へやってきた者たちも集まっている。


 酒が配られ、料理が並ぶ。


 子どもたちが走り回り、龍の背へ勝手によじ登って怒られている。


「できたぞー!」


 誰かが叫ぶ。


 歓声が上がる。


 百年前には、何もなかった場所。

 そこに今、大勢の者たちが肩を並べている。


 最初の塔の完成を、みんなで笑いながら祝っている。

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