↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女の足跡〜千年前の黒歴史を消すために旅にでます〜  作者: はこぶね
英雄龍ヴァルガス編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/23

英雄龍ヴァルガス

「これだけ大きくなると、あの子につけた足跡、まだ見つかるでしょうか」


 ナナが大樹を見上げながら呟くと、隣のオトが不思議そうに首を傾げた。


「足跡? この子に?」


「ええ」


「……何か約束したかしら?」


 ナナの顔から、すっと表情が消えた。


「……またですか?」


「でも、覚えてることもあるわ!」


 慌てて取り繕うオトに、では何を覚えているのかと問えば、しばらく考え込んだ末、アファルの枝葉の間を飛び交う龍たちへ視線を向ける。


「ここには確か……ボケカス? だったかなぁ。そんな名前の龍がいたよねぇ?」


 ナナは答えなかった。


 その沈黙を否定と受け取ったらしく、オトが横目で窺う。


「違った?」


「かなり違います。ヴァルガスです。ボケカスではありません」


「でも似てるでしょ」


「一文字も合っていません」


 ぴしゃりと言い切られても、オトは納得していないらしい。


「最後のスは合ってるじゃない」


 ナナが何か言い返すより先に、背後から唸るような声が飛んできた。


「おいっ」


 二人が振り返ると、角を生やした若い男が立っていた。背は高く肩幅も広い。首元や腕には龍の鱗が残り、険しい顔でこちらを睨んでいる。どうやら今の会話を聞かれていたらしい。


「今、ヴァルガス様をなんて言った?」


「ヴァルガス様?」


 ナナが首を傾げる横で、オトはようやく名前を思い出したように手を打った。


「あ、それよ! ヴァルガス!」


「ボケカスって言っただろうが!」


「間違えただけよ」


「そんな間違い方する奴はいねーよ!」


 若い龍人の声が大通りに響き、周囲を歩いていた者たちも何事かと足を止め始める。


 ナナが小声で謝っておいた方がいいと促すと、オトは意外にも素直に「ごめんなさい」と頭を下げた。ところが、それで収まるほど相手は冷静ではなかった。


「俺たちの英雄を侮辱して、謝って終わりか?」


 オトは顔を上げ、少し困ったように眉を寄せる。


「じゃあ、どうすればいいの?」


「その態度が気に入らねぇって言ってんだよ!」


「困ったわね」


 助けを求めるようにナナを見ると、返ってきたのは「最近の若者は血気盛んですね」という他人事のような感想だった。


「あなたが言います?」


 そのやり取りが、完全に火へ油を注いだ。


「舐めてんじゃねぇ!」


 怒声と同時に、若い龍人の身体が膨れ上がった。服の下から鱗が広がり、腕は太い前脚へ、背中からは巨大な翼が押し出される。人の姿は瞬く間に失われ、大通りを塞ぐほどの龍が二人の前に立ちはだかった。


 通行人たちは悲鳴を上げて距離を取り、店先にいた者まで慌てて建物の陰へ逃げ込んでいく。


 そんな騒ぎの真ん中で、オトだけが変わらず龍を見上げていた。


「街の中でやるの?」


『黙れ!』


 巨大な前脚が振り下ろされる。


 ナナは巻き込まれないよう一歩だけ距離を取ったが、オトは避けようともしなかった。ただ、面倒そうに片手を軽く振る。


 次の瞬間、振り下ろされるはずだった龍の巨体がふわりと宙へ浮いた。


 何が起きたのか理解する暇もなく、そのまま石畳へ叩きつけられる。


 轟音とともに街が揺れた。建物の窓が一斉に鳴り、頭上の空中交通路を飛んでいた者たちまで、何事かとこちらを振り返る。


 若い龍は大の字になったまま、動かなくなった。


「オト」


 ナナが静かに名前を呼ぶ。


「手加減したよ?」


 先に言い訳したオトをしばらく見つめたあと、ナナは「そうですか」とだけ返した。


「ほんとよ。詠唱も呪文も、杖さえ使ってないもの」


 それが手加減の証明になるのかは怪しいところだったが、周囲の者たちにはそんなことを考える余裕もない。圧倒的な力を目の前にして、ざわめきだけが広場を伝っていった。


 だが、そのざわめきは間もなく別の声に塗り替えられる。


「見ろ!」


 誰かが空を指差した。


 アファルの巨大な樹冠から、一つの影がゆっくりと離れていく。


 遠目にも分かるほど巨大だった。翼を広げるだけで、その下に並ぶ建物が丸ごと影に呑まれていく。陽光を弾く白銀の鱗と、長く伸びた角。その姿を認めた瞬間、街の空気が一変した。


「ヴァルガス様だ!」


「龍王さま!」


「英雄龍ヴァルガス様!」


 さっきまで騒ぎから逃げていた者たちまで足を止め、歓声を上げながら空を見上げる。子どもたちは夢中で手を振り、龍人たちは胸へ拳を当てて頭を下げた。


 白銀の龍は人々の歓声を浴びながら、ゆっくりと高度を落としてくる。


 その眼下には、石畳に大の字で伸びた若い龍と、その傍らに何事もなかったように立つ二人の魔女。


 巨大な瞳が広場の騒ぎを一度見渡し、最後にオトとナナへ向けられた。


「……なんの騒ぎだ?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。