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魔女の足跡〜千年前の黒歴史を消すために旅にでます〜  作者: はこぶね
英雄龍ヴァルガス編

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20/23

千年後また

ヴァルガスは、戻ってきたノワールをじっと見ていた。


 さっきまでアファルのそばにいたはずなのに、いつの間にか姿を消し、今また何食わぬ顔で戻ってきたところだった。


「……お前、何してた?」


「なにも?」


「その顔で言われても信用できねえんだよ」


 隣にいたブランも同じことを思ったらしく、静かにノワールへ目を向ける。


「私も気になります。何をしていたのです?」


「ちょっとだけ」


「何を?」


「ないしょ」


 ノワールは笑って誤魔化すと、二人に背を向けた。


 山がなくなった広い土地の真ん中では、小さなアファルが風に揺れている。細い幹には、赤と青の猫の足跡。この土地で起きることを千年先まで見届けてもらうために、二人で残した約束だった。


「じゃあ、行こっか」


 ノワールが歩き出そうとしたところで、ヴァルガスはもう一度呼び止めた。


「本当に、これでいいんだな」


 今はまだ何もない。小さなアファルと龍たち、それから、この土地へ集まり始めた者たちがいるだけだ。


「お前らはもう行くんだな。そして俺はこの街を守るんだよな......」


「うん」


「千年だぞ」


 ノワールは少し考えるように首を傾げたが、すぐに笑った。


「だから、お願いね」


「軽いな、お前」


「ヴァルガスなら大丈夫だよ」


 その自信がどこから来るのか、ヴァルガスにはさっぱり分からない。


 代わってブランが、小さく頭を下げた。


「よろしくお願いします、ヴァルガス。私たちも必ず戻ってきますから」


「ああ」


 ヴァルガスが頷くと、二人は並んで歩き始めた。


 その背中を見送りながら、ヴァルガスは先ほどのノワールの様子を思い返す。


 何かした。


 絶対に何かした。


 問い詰めようか迷っているうちに、ノワールが数歩先でくるりと振り返った。


「ヴァルガス!」


「なんだよ」


 両手を口元に添え、満面の笑みで叫ぶ。


「千年後を楽しみにしててねー!」


「ああ。……ん?」


 ノワールは返事を待たず、そのままブランの手を引いて歩いていく。


 ヴァルガスは遠ざかる背中を見つめながら、眉を寄せた。


 楽しみにしててね。


 自分が楽しみにしている、ではなく。


「……嫌な予感しかしねえな」


 それでも今さら呼び戻すほどの理由はない。


 ヴァルガスは小さく息を吐くと、二人へ片手を上げた。


「また、千年後な」


 ノワールが振り返り、大きく手を振る。


 その向こうで、小さなアファルの葉が風に揺れていた。

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