千年後また
ヴァルガスは、戻ってきたノワールをじっと見ていた。
さっきまでアファルのそばにいたはずなのに、いつの間にか姿を消し、今また何食わぬ顔で戻ってきたところだった。
「……お前、何してた?」
「なにも?」
「その顔で言われても信用できねえんだよ」
隣にいたブランも同じことを思ったらしく、静かにノワールへ目を向ける。
「私も気になります。何をしていたのです?」
「ちょっとだけ」
「何を?」
「ないしょ」
ノワールは笑って誤魔化すと、二人に背を向けた。
山がなくなった広い土地の真ん中では、小さなアファルが風に揺れている。細い幹には、赤と青の猫の足跡。この土地で起きることを千年先まで見届けてもらうために、二人で残した約束だった。
「じゃあ、行こっか」
ノワールが歩き出そうとしたところで、ヴァルガスはもう一度呼び止めた。
「本当に、これでいいんだな」
今はまだ何もない。小さなアファルと龍たち、それから、この土地へ集まり始めた者たちがいるだけだ。
「お前らはもう行くんだな。そして俺はこの街を守るんだよな......」
「うん」
「千年だぞ」
ノワールは少し考えるように首を傾げたが、すぐに笑った。
「だから、お願いね」
「軽いな、お前」
「ヴァルガスなら大丈夫だよ」
その自信がどこから来るのか、ヴァルガスにはさっぱり分からない。
代わってブランが、小さく頭を下げた。
「よろしくお願いします、ヴァルガス。私たちも必ず戻ってきますから」
「ああ」
ヴァルガスが頷くと、二人は並んで歩き始めた。
その背中を見送りながら、ヴァルガスは先ほどのノワールの様子を思い返す。
何かした。
絶対に何かした。
問い詰めようか迷っているうちに、ノワールが数歩先でくるりと振り返った。
「ヴァルガス!」
「なんだよ」
両手を口元に添え、満面の笑みで叫ぶ。
「千年後を楽しみにしててねー!」
「ああ。……ん?」
ノワールは返事を待たず、そのままブランの手を引いて歩いていく。
ヴァルガスは遠ざかる背中を見つめながら、眉を寄せた。
楽しみにしててね。
自分が楽しみにしている、ではなく。
「……嫌な予感しかしねえな」
それでも今さら呼び戻すほどの理由はない。
ヴァルガスは小さく息を吐くと、二人へ片手を上げた。
「また、千年後な」
ノワールが振り返り、大きく手を振る。
その向こうで、小さなアファルの葉が風に揺れていた。




