時限式の悪戯は嫌がらせだ
山が吹き飛び、大きな空白になった場所。
その真ん中に、小さなアファルが植えられている。
まだ細い幹には、ついさっき残した赤と青の猫の足跡が淡く光っていた。千年後、もう一度ここへ戻ってくるための約束だ。
ノワールはアファルの前にしゃがみ込み、足跡を眺めながら頬を緩めた。
「千年後かあ」
今は何もないけれど、この木は大きくなる。人も増える。ヴァルガスたちも、きっと今とは全然違っている。
「どんな街になってるかな。楽しみだなあ」
しばらく想像を膨らませていたノワールは、ふと何かを思い出したように顔を上げた。
「……あ」
ブランの姿がないことを確かめると、ノワールは悪戯を思いついた子どものように笑った。
「最後だけ、ちょっと特別にしよ」
ヴァルガスを英雄にするためのアヴァロンは、もう完成している。けれど千年も経てば、ヴァルガスだって今よりずっと強くなっているはず。
「普通に出したら、一発で終わっちゃうかも」
それでは、せっかく戻ってきても面白くない。
ノワールは指先に黒い光を灯し、アヴァロンへ繋いだ術式へこっそり手を加えていく。
千年目だけ、アヴァロンを除いて、その場にいる魔力を持つ者たちの力を封じる。龍も魔人も、まとめてだ。
「これなら、いつも通りにはいかないでしょ」
楽しそうに笑いながら、さらに条件を書き足す。
最後のアヴァロンは、倒さなくてもいい。そこにいる者たちが逃げずに立ち向かい、一つになって勇気を示せば、それで終わり。
「千年後なら、いろんな人がいるだろうし」
その頃に誰がいるのかなんて、ノワールには分からない。龍かもしれないし、魔人かもしれない。ヒトだっているかもしれない。
「そのときのみんなで、なんとかしてね」
黒い光が弾け、術式の奥へ溶けていった。
ノワールは出来栄えを確かめるように何度か頷くと、満足そうにアファルへ振り返った。
「よし!」
小さな木が、風に揺れている。
ノワールは幹に残した猫の足跡へ手を振った。
「じゃあね、アファル。また千年後!」
そう言って、楽しそうにその場をあとにした。




