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魔女の足跡〜千年前の黒歴史を消すために旅にでます〜  作者: はこぶね
英雄龍ヴァルガス編

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14/23

ヒト

アファルから遠く離れた平野に、ヒトたちの集落がある。


 空を飛ぶ者も、魔力で道具を動かす者もほとんどいない。それでも畑があり、井戸があり、朝になれば鍛冶場から槌の音が響いてくる。


 中心都市では暮らしにくかった者や、外の国から流れ着いた者たちが少しずつ集まり、四本目の塔が建つ頃には、いくつもの家が並ぶようになっていた。


 魔法はなくても暮らせる。土地があり、作物が育ち、戦に怯える必要もない。


 中心都市との行き来も途絶えてはいない。作物を売り、向こうで作られた魔力のいらない道具を買い、祭りの日には家族で遊びに行く。


「向こうは向こう。こっちはこっちでいいだろ」


 そう考える者が多かった。


 無理に同じ場所で暮らさなくてもいい。必要なときには助け合い、それぞれの場所で生きていけば、それで十分だった。


*


 さらに年月が流れ、七本目の塔が建つ頃。


 小さかった集落は、街と呼べるほど大きくなっている。


 遠くに見える中心都市では、その日、多くの人が空を見上げていた。


 悉虚龍(しっきょりゅう)アヴァロンが現れたのだ。


 初めて現れた頃とは、もう様子が違う。


 店先には料理が並び、子どもたちはよく見える場所を取り合っている。龍たちも慌てて飛び出すのではなく、どこか待ち構えるように空へ上がっていく。


「ヴァルガス様だ!」


「今年は何発で倒すかな!」


 歓声の中、白銀の龍がアヴァロンへ向かう。


 かつては命懸けで食らいついた相手だった。


 だが、何百年もの時を生きたヴァルガスは、その頃より遥かに強くなっている。振り下ろされた爪を正面から弾き、巨体を押し返すと、アヴァロンが炎を吐くより早く懐へ潜り込み、一撃で大きく吹き飛ばした。


 ヒトの街から眺めていた者たちも、もう逃げ出したりはしない。


「またやってるな」


「どうせヴァルガスが勝つだろ」


 やがてアヴァロンが光となって消えると、中心都市から大きな歓声が上がった。


 英雄龍を讃える祭り。


 いつしか、そんな意味合いのほうが強くなっていた。


 ヒトたちにとっても、龍は得体の知れない怪物ではない。遠くに暮らす、少し変わった隣人。何かあれば、この国を守る者たち。そんな距離に落ち着いていく。


*


 九本目の塔が建つ頃には、ヒトの街もさらに広がっている。


 その中で、人々の考え方も大きく三つに分かれていた。


「今のままでいいだろ。向こうは向こう、俺たちは俺たちだ」


 それが大多数だった。


 互いの暮らしへ無理に踏み込まず、必要なときには助け合う。今ある平穏を壊す理由はない。


 一方で、若い世代には別の未来を考える者もいる。


「でも、ずっと別々じゃなくてもいいんじゃないか?」


「どうするんだよ。俺たちは魔法を使えないぞ」


「だから、それでも一緒に暮らせる方法を探せないかなって」


 まだ、その声は小さい。


 そして、もう一つ。


「どうして、あいつらばかりあんなに豊かなんだ」


 遠くに輝く中心都市を見ながら、不満を募らせる者たちもいた。


「昔はヒトが世界を治めていた。魔人はあとから現れたんだろ」


「なら、本来あるべき形に戻せばいい」


「何を取り戻すんだよ」


 そう鼻で笑われても、不満そのものが消えるわけではない。


 同じ考えを持つ者同士が集まり、やがて自分たちを復権派と呼ぶようになる。


*


 十本目の塔が完成へ近づく頃。


 復権を唱えていた者たちの一部が、ついに武器を手に取った。


「ヒトの手に、この国を取り戻す!」


 だが、街の大多数はついてこない。


「いつからここがお前らの国になったんだよ」

「勝手にやれ。俺たちを巻き込むな」


 それでも、少数の者たちは中心都市へ向かった。


 夜明け前、外縁で爆発が起こる。

 警鐘が街に響き、龍たちが次々と空へ舞い上がった。


「ヒトどもが攻めてきたぞ!」


 若い龍が煙の向こうを睨む。


「やっぱり信用できねえ! 全部焼き払っちまえ! 今度こそ――」


「待て」


 低い声が、その続きを止めた。


 ヴァルガスが前へ出る。


「ですが、ヴァルガス様。あいつらは我らに歯向かってきてます!」


「だから何だ」


 若い龍が言葉に詰まる。


 ヴァルガスは煙の向こうへ目を向けたまま、静かに続けた。


「襲ってきたのは、あそこにいる連中だけだ。ヒトの街には、俺たちと商売してる奴もいる。祭りの日にこっちへ遊びに来る奴もいる」


 大きな翼を広げる。


「そいつらまで敵にするな」


 龍たちは顔を見合わせた。


「攻撃してきた奴だけ止める。殺す必要もない」


 ヴァルガスが空へ舞い上がる。


「二度と同じ馬鹿ができないくらい、きっちり懲らしめてやれ!」


 龍たちが、そのあとを追った。


 戦いは長く続かなかった。


 武器を失った者たちは拘束され、逃げる者を追う龍もいない。やがて煙が晴れると、遠くのヒトの街から大勢の者たちが不安そうにこちらを見ていた。


 誰も復権を叫ばない。誰も彼らを英雄とは呼ばない。


 ヴァルガスは、しばらくその街を見つめていた。

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