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魔女の足跡〜千年前の黒歴史を消すために旅にでます〜  作者: はこぶね
英雄龍ヴァルガス編

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13/23

区別は差別に見える

赤と青の光が薄れていく。


 アファルが見せていた街並みが消え、千年後の景色が戻ってきた。


 しばらく、誰も何も言わなかった。


 眼下には、相変わらず大勢の人が行き交っている。


 角がある。


 獣の耳がある。


 鱗がある。


 空には龍が飛び、そのさらに下を魔法で浮かぶ乗り物が走っている。


 けれど、ヒトの姿はほとんど見えない。


「……追い出してはいません」


 ヴァルガスが静かに言った。


 ナナが彼を見る。


「分かっています」


「ヒトだからという理由で住む場所を奪ったこともない。働くことを禁じたこともない」


「ええ」


「むしろ、どうにか残れるようにはしてきたつもりです」


 ヴァルガスは街へ目を向ける。


「魔力のない者でも使える設備を残した。龍たちにも、困っているヒトがいれば手を貸すよう言ってきました。実際、そうしてきた者も多い」


 ナナは黙って聞いている。


「それでも……」


 ヴァルガスの声が止まった。


 オトが首を傾げる。


「いなくなっちゃったね」


 ヴァルガスは答えなかった。


「誰かが意地悪したわけじゃないんでしょ?」


「少なくとも、私が知る限りでは」


「龍たちも助けてた」


「ええ」


「でも、いなくなった」


 オトは眼下を見たまま言う。


「なんで?」


 ナナが、ゆっくりと口を開いた。


「この街が、魔法を使えることを前提に大きくなったからでしょうね」


 オトが振り返る。


「前提?」


「はい。空を飛べる。魔力で道具を動かせる。魔法を使って仕事ができる。それが特別なことではなく、当たり前になっていった」


 ナナは街を指した。


「一つ一つなら、小さな不便だったのでしょう」


 魔力で開く扉。


 空へ伸びる道。


 魔法で動く乗り物。


 高い場所に作られた店。


「でも、それが街の全部になれば話は変わります」


 ヴァルガスが目を伏せる。


「……ヒトに合わせれば、街の発展を止めることになる」


「そうですね」


「だから、別の方法を用意した」


「ええ」


「龍も手を貸した」


「ええ。それでも足りなかったのでしょう」


 責めるような声音ではなかった。


 ナナはただ、目の前にある結果を見ていた。


「誰かが追い出したわけではありません」


 風が吹く。


 アファルの葉が静かに揺れる。


「でも、ここで普通に暮らすために必要なものを持っていなければ、少しずつ外へ行くしかなくなる」


 オトが、街の中心から外へ続く道を目で追った。


「それって……追い出してないけど、追い出されちゃったみたいだね」


「そういうことです」


 ナナが頷く。


 ヴァルガスは何も言わなかった。


 千年前、追い出される者がいない場所を作ろうとした。


 その約束を忘れたわけではない。


 守ろうともしてきた。


 それでも、街は千年かけて変わった。


 オトはしばらく黙っていたが、やがてぽつりと言った。


「じゃあさ」


 二人がオトを見る。


「今、ヒトはどこにいるの?」


 その問いに応えるように、アファルの枝葉が大きくざわめいた。


 風はない。


 オトが顔を上げる。


「……教えてくれるの?」


 赤と青の猫の足跡が、ゆっくりと光を強めていく。


 ナナも幹へ手を添えた。


「そのようですね」


 光はやがて樹皮の奥へ沈み、アファルの中を静かに巡っていく。

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