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魔女の足跡〜千年前の黒歴史を消すために旅にでます〜  作者: はこぶね
英雄龍ヴァルガス編

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12/23

周縁化の始まり

街には、人が絶え間なく入ってきている。


 百年前には龍とわずかな魔人しかいなかった土地に、今では家が並び、道が伸び、朝になればあちらこちらから人の声が聞こえてくる。


 角を持つ者。獣の耳を持つ者。鱗に覆われた者。


 そして、その中にはヒトの姿もある。


 荷車を引いてやってくる家族。商いを始めたい男。新しい畑を探してきた夫婦。


 けれど、ヒトがこの地へやってくるたび、龍たちの空気は少しだけ張り詰めた。


 かつて自分たちを狩り、角を削り、鱗を剥いだ種族。


 忘れられるはずもない。


「追い返せ」


 そう口にする龍もいる。


 ヴァルガスは首を振った。


「駄目だ」


「だが、こいつらはヒトだぞ」


「だから何だ」


 怯える家族と龍たちの間へ、ヴァルガスが立つ。


「追い出されたからって、今度は俺たちが追い出す側になったら何も変わらねえだろ」


 龍たちは黙った。


「嫌いでもいい。全員と仲良くなんて無理だ」


 ヴァルガスはヒトたちへ道を空ける。


「でも、生きる場所くらいはあっていいだろ」


 そうして、ヒトもこの街で暮らし始める。


 畑を耕し、店を開き、家を建てる。


 ヒトの子どもと魔人の子どもがアファルの根元を駆け回り、祭りの日には同じ屋台の前に並ぶ。


 龍の背を見上げて、一緒に歓声を上げる。


 最初の塔が建つ頃には、誰がいつからここにいたのかなど、いちいち気にする者も減っていた。


 それから、さらに百年。


 二本目の塔が空へ伸びる。


 街もまた、大きく姿を変えている。


 通りには魔力で動く台車が走り、高い建物の窓へは空を飛べる者が荷物を届ける。夜になれば魔法の灯りが道を照らし、陽が沈んでも街の賑わいは消えない。


 その横を、ヒトの男が古い荷車を引いて歩いていく。


「それ、まだ使ってるのか?」


 隣を走る魔力式の台車から、魔人の男が声をかける。


「俺にはこっちのほうが使いやすいんだよ」


「押すの手伝おうか?」


「大丈夫、大丈夫」


 笑って返す。


 別の場所では、若いヒトが求人の札を眺めていた。


「悪いね。この仕事は飛べるやつじゃないと厳しいんだ」


「そっか。じゃあ他を探すよ」


 それだけだった。


 怒鳴られるわけでもない。


 石を投げられるわけでもない。


 少し不便なだけ。


 少し遠回りするだけ。


 少しだけ、できないことが増えていく。


 さらに季節が巡る。


「もう少し外なら、広い畑が安く借りられるよ」


 隣人の魔人が教える。


 荷造りをしていたヒトの男が頷いた。


「そうだな。そのほうが俺たちには暮らしやすそうだ」


「行っちゃうの?」


 魔人の子どもが、荷車の横で寂しそうに聞く。


「すぐそこだよ。また祭りには来るさ」


 男は笑い、子どもの頭を撫でる。


 家族を乗せた荷車が、ゆっくりと街の外へ向かっていく。


 アファルは、その背中を見送る。


 また一軒。


 しばらくして、また一軒。


 誰かが去れば、空いた場所へ新しい住人が入る。


 魔人が増える。


 龍も増える。


 さらに別の種族もやってくる。


 街は少しも寂れない。


 むしろ、ますます賑やかになっていく。


 三本目の塔が空へ伸びる頃。


 通りは、以前よりずっと多くの人で溢れている。


 角が見える。


 獣の耳が揺れる。


 鱗が陽を反す。


 龍が空を横切る。


 けれど、その人波の中にいるヒトの数だけが、少しずつ減っていた。

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